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本当の意味で、彼女の救いになるのならば、と新藤は考えた。放課後、どこかへと向かう木戸の前に、新藤は立ちはだかる。


自分の行く道を遮る新藤を見て、木戸はわずかに眉を動かす。


「誰だ、お前。何の用だ?」


つい最近、絡まれている彼を助けたつもりでいた新藤にとって、その言葉は少なからず驚くものだった。


感謝してほしい、とまでは言わないが、多少は好意的な印象と共に頭の中に残っていても良いはずではないか。


さらに言えば、新藤と百地優花梨は学校で共に行動することだってある。嫌でも顔を知っているものではないか…と思っていたが、


彼にとって新藤は、その視界に入ったとしても、認知できないような存在らしい。


「喧嘩に行くなら、やめてほしい」


「……何で知っている?」


「どうでもいい。君は暴力から離れるべきだ。すぐに怒って誰かを傷付けたら、親しい人だって傷付くことになる。百地さんのこと、不幸にするよ」


「退け。お前なんて知らない」


殆どゾウとアリとも言えるような状態だった。


新藤は、木戸の進行を一歩たりとも止めることはできず、気付けばアスファルトの上で倒れていた。もちろん、木戸はどこにもいない。自分は何もできなかった。百地優花梨の笑顔が頭の中に浮かぶ。


自分が好きだったあの笑顔。最近、見ていないような気がした。


どこへと言うわけでもなく、体を引きずるように歩いていると、百地優花梨と偶然会った。


「新藤くん? どうしたの、その傷」


「何でもないよ」


「ヒロが…?」


百地優花梨の顔が歪む。それは不安や恐怖と言った、マイナスな感情に満ちていた。


「行かないと…」


百地優花梨が新藤の横を過ぎて、どこかへと走り出そうとしていた。新藤は、彼女の腕を掴んで止める。


「どこに行くつもりなの?」


「喧嘩、止めないと」


「もう木戸くんに会うべきじゃない。彼は君のことを大切にできないよ」


「そんなの……どうでも良いじゃない」


「良くない。君はもっと自分が幸せになることを…考えるべきだ」


百地は黙って、新藤の言葉について、考えたようだった。しかし、彼女はすぐに答えを出してしまった。


「だったら、行かせてよ」


「駄目だよ。行くべきじゃない」


「離して」


新藤を振り払おうとする百地優花梨。新藤の口調も強くなった。


「彼は君を不幸にする。百地さんには、もっと…もっと幸せになれる相手がいるよ!」


百地優花梨の抵抗力が少しだけ弱くなったような気がした。何かが彼女の気持ちに触れたかもしれない。新藤は僅かな期待を胸に、彼女の次の言葉を待った。


「それって誰?」


しかし、それは新藤が想像とは、正反対のものだった。


「皆、同じこと言うの。ヒロより良い相手がいるって。でも、私はそんな人に会ったことない。私に一番優しいのはヒロだし、私のことをいつも守ってくれるのはヒロだった。これ以上、私を好きで大事にしてくれる人って、どこにいるの? 教えてよ!」


新藤は、彼女にとって自分は優しさを与える存在だと思っていた。それが無力なものだと知っていながら、それでも彼女にとって何かしらの支えになると信じていたのだ。しかし、彼女にとっても新藤の優しさは無価値なものでしかなかった。


「ねぇ、もし…私の幸せのこと、少しでも考えてくれているなら…手を離してよ」


その言葉は、新藤の選択肢を限定させた。彼女にとって新藤は、優しいことだけが価値だったはず。それを証明するのであれば、手を離すしかない。


新藤は、その手を離した。




間もなくして、新藤は高校を卒業した。その後、新藤は地元を離れ、自分が打ち込むべきものを見付け、自然と百地や木戸について考えることも減った。そのため、百地優花梨に関する記憶は苦い想い出として風化していった。


そのはずが、苦い想い出は、再び新藤の前に現れた。だが、彼は若き日に残した自らの過ちとか、後悔と決着を付けるチャンスだとは思わなかった。ただの仕事。そう言い聞かせた。

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