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新藤が屋敷の中に侵入していた頃、如月は朱里、芳次と共にいながら、周辺を警戒していた。そして、彼女の中には予感があった。


後少しすれば、きっと異能対策課がやってくる。運の良いことに、こちらが先に屋敷まで到着したが、彼らものんびりしているわけではない。彼らが到着するまで余裕があったとしても、たった数分のことだろう。


それまでに新藤が戻ってくれば、面倒は避けられるが…。


しかし、如月の頭の中は、嫌な予感でいっぱいだった。ここに向かう途中、芳次が口にした、メシアという存在を耳にしてから、ずっと気持ちが落ち着かない。もう二度と会うことはない。会うべきではない人間が、すぐ傍にいる。そんな不安が、ずっと胸の中を騒がしている。


そして、それは的中した。


屋敷の背面はテラスがあり、大き目の窓から出入りできるようだが、そこから三名ほど外に出てきた。如月はそれが何者かと目を凝らしたが、そこに自分の中にある嫌な感覚の原因となる存在がいることを認めた。


「やっぱり…生きていた」


如月の呟きに、朱里と芳次は首を傾げる。如月は依頼人を放って行くわけにはならなかった。しかし、自分の人生を歩む上で…いや、この世界が続くために、障害となる存在が、今目の前にいる。それこそ、放って置くわけにはいかなかった。


「私はここから離れるけど、絶対に動かないで、新藤くんが戻ってくるのを待っていて」


「え?」


目を丸くする朱里に、何も説明することなく、如月は駆け出した。


屋敷から出てきた三人は、これから街に出て休日を満喫するかのような足取りで、慌てた様子は少しもない。ここに異能対策課が迫っていることを知らないのか…


いや、あの女は知っている。知ってはいるが、それが大きな脅威ではない、と認識しているらしい。異能対策課だけではない。如月がすぐ近くまで迫っていると理解していながら、あれだけ涼しい顔をしているのだ。如月にとって、それは屈辱的なことだった。


「待ちなさい」


如月は屋敷から離れようとする三名の背に、声をかける。それは決して大きくなく、激しさもない。静かに呼び止めただけだ。如月が呼び止めた三人は、紫色の頭巾を被った小太りの男と、スーツを着た長身の男、そして白いワンピース姿の女だった。


如月の声に、男二人が振り向き、最後にゆっくりと女が振り向いた。黒髪が揺れ、如月に向けられた瞳は、僅かに青く輝いているようだった。


「これは如月さん。お久しぶりですね」


「野上麗…だったかしら?」


「はい」


女…野上麗は頷く。

如月は百年追った仇を見付けたように、野上を睨み付けるが、彼女はそれを涼しい表情で受け止める。むしろ、旧友に再会でもしたかのような笑みすら浮かべていた。


「貴方が消えていないなんて、人生最大のバッドニュースだわ」


と如月は吐き捨てた。


「そう言わないでください。私はまた会えて、とても嬉しく思っているのですから」


「そんなわけないでしょう。私は貴方を絶対にデリートする。何度蘇っても、何度でもデリートする。私が死んだとしても、生まれ変わって、何度だってデリートしてやるわ。つまり私は貴方の敵なの。そんな相手に会いたいなんて…冗談にも程がある」


「私を恨んでいるのですか?」


「当然でしょう。絶対に許さない」


如月が明らかな敵意を示すと、如月は目を細めてから、その視線を落とした。


「でも…私たちが憎み合うなんて、あの人が悲しみます」


野上は浴びされた言葉に、哀情を見せたかのようだったが、それは如月の感情を酷く逆なでるものだった。


「誰が…悲しむって?」


如月の問いに、野上は答える。


「……でも、如月さんはもう見付けたのでしょう? 傍にいて、守ってくれる人を」


その言葉が、どういう意味を持ったものなのか。如月は押し黙る。


「羨ましいことです。あれだけ純粋で、可愛い子を傍に置いておけるなんて」


「そんなことは、関係ない。私が今どんな状況に置かれていたとしても、貴方に対する気持ちが、変わることはない」


如月の怒りの感情に、野上はただ微笑みを返すだけだった。それは如月にとっては、挑発としか受け取れなかった。如月は、一歩前に出る。だが、それを阻むように、長身の男が前に出た。


「野上様、時間がありません。如月様のお相手は、私がつとめますので、どうか御薬袋と共にここから離れてください」


「……そうですね。影添、ここはお願いします」


立ち去ろうとする野上に、如月は叫ぶ。


「逃がしはしない!」


そんな如月に、野上は丁寧に頭を下げる。


「如月さん、申し訳ないのですが、時間がありません。またの機会にゆっくりお話ししましょう。そのときは、如月さんと思い出話ができたら、とても嬉しいですわ」


野上は小太りの男と共に去った。

どうやら、あれが御薬袋という人物らしい。


あの男がいる限り、妙な異能力者が増えてしまうのであれば、ここで力をデリートしておきたかったが…どうやら、目の前にいる影添とやらが、そうはさせてくれないらしい。


きっと、この男は異能キャンセルを防ぐ、プロテクトが、野上によってかけられているに違いない。いつもなら助手兼護衛である新藤が担当するところなのだが…。


如月は迫る危機の煩わしさに溜め息を吐いた。

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