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15

新藤は先行して屋敷に侵入し、正面の入り口の鍵を中から開け、如月たちを招くつもりだった。二階の部屋の窓が開いていることを確認し、よじ登ってみせようと屋敷の方へ向かおうとしたとき、如月に引き止められた。


「新藤くん、何か嫌な予感がする。私の異能キャンセルは、期待せず事に当たってくれ」


如月の異能キャンセルは彼女を中心とする、二十メートル程度の異能を無効にする。如月が近くにいれば、孝弘の超人的な身体能力は失われるはずなのだが…。


そう言えば、少し前にも如月の力が上手く機能しないことがあった。如月が能力に何か障害が出ている、というよりも、何者かが対策したかのような痕跡があった、と彼女は言っていた。


今回も、如月の能力を対策できる何者かが絡んでいる、ということなのだろうか。とにかく、それを如月に確認している場合ではない。


「……分かりました」


新藤は短く返事だけすると、身を低くして屋敷の方へ駆けた。人が近付いていないか気配を探ると、排水管をよじ登って二階へ向かい、何とか窓枠にしがみ付いてから、室内に侵入した。今一度、立ち止まって気配を探るが、一階で人が慌ただしく動いているように感じた。


二階の部屋は全部で五つ。


物音を立てないよう、その一つ一つを確認した。二つ目に入った部屋では、女性がベッドに横たわっていたが、知らない顔だった。もしかしたら、異能力を使う恐れがあるので、関わることを避けよう、と判断した。四つ目に入った部屋で陽菜を見付ける。まだ体調が悪いのか、ベッドに横たわり、眠っているようだ。


「陽菜ちゃん」


と新藤は声をかけ、陽菜を揺する。


目は開いたものの、どこか虚ろで正確な認識ができていないようだった。


「朱里ちゃんと芳次くんが迎えに来ている。ここを出よう」


「……芳次くん?」


曖昧な意識の中、その名前は理解できたらしい。依頼人である朱里の名前が出ないことは、少しばかり心苦しいところだが、ここから彼女を連れ出せるのであれば、どちらでも良いことだ。


「外に出るよ。良いね?」


新藤の言葉がどれだけ伝わっているのか、微妙なところではあるが、陽菜が頷いた。


新藤は陽菜を担ぎ上げ、人が多いだろう一階に降りなければならなかった。しかし、見つからずに脱出できるだろうか…と躊躇いながらも、階段を降りる。


廊下を忍び足で進んでいると、話し声やら足音が壁一枚挟んで聞こえてきた。だが、正面玄関は目の前だ。そこから、すぐにでも出ようと決意したが、外側からドアを激しく叩く音が聞こえた。


「鍵を開けやがれ! 開けないならぶっ壊して入るぞ!」


間違いない。この声は乱条だ。扉を激しく叩く音がする。いや、扉を蹴り付ける音だ。


「面倒だ。開けろ」


乱条が誰かに指示を出すと、ドアのカギはあっさりと開いた。そして、セミナー会場のときと同じように、乱条を先頭とし、完全防備の男たちが入ってくる。


「御用改めである! …なんてな。警察だぜ」


勢いよく入ってきた乱条だが、正面で陽菜を担ぎ、明らかに動揺する新藤を見て、目を見開いた。


「あ、てめぇ!」


新藤はそそくさと逃げ出したが、同時に何人かの人間が廊下に出てきた。


「取り押さえろ!」


乱条の指示で機動隊たちが、屋敷内になだれ込んできた。新藤は騒ぎに乗じて裏口から外に出る。早く屋敷の正面に回り、如月と合流しなければならない。


このまま、乱条に捕まってしまったら、陽菜は異能犯として、処理されてしまうことだろう。だから、すぐにでも如月に陽菜の異能を解除してもらわなければならない。


屋敷内が騒がしさが増した。中の異能者たちと、乱条たち警察が争っているのだ。この間に、陽菜を如月のところに届けよう。そしたら自分は屋敷に戻り、孝弘を連れ出さなければならない。先に乱条が孝弘を捕まえてしまうことがなければ良いのだが…という新藤の心配は無駄なものだった。


「待て、新藤。コラぁ!」


新藤の背中を叩くように聞こえてくる怒号は、言うまでもなく、乱条のものだった。


「どうしてこっちに!」


想定もしていなかった乱条の行動に、新藤は嘆く。だが、陽菜を抱えているとは言え、このペースで走れば、乱条に追いつかれる前に、如月と合流できるはずだ。


如月たちが待つ場所へ新藤は辿り着いたが…想定外のことが起こった。そこには、朱里と芳次だけが待っていたのである。


「あ、あれ? 如月さんは?」


「分かりません。ちょっと前に、ここで待つように言って、どこかに…」と答える朱里。


新藤は辺りを見回すが、如月の姿はない。


「仕方ない…!」


新藤は担いでいた陽菜を降ろし、芳次に預けた。


「陽菜ちゃんを連れて、二人はできるだけ遠くに。僕は孝弘くんを連れ戻しに行ってくるから」


屋敷の方へ振り返る新藤だが、乱条が目の前まで迫っていた。


「おい、新藤。その女は異能力者なんだろ? だったら、逃がさないぜ」


「何を根拠に言っているんですか、乱条さん」


「惚けても無駄だ。取っ捕まえて調べれば分かるんだよ、こっちはな」


「現状では、分からないってことじゃないですか」


「捕まえれば、分かるって言っているんだろう」


乱条がゆっくりと、距離を詰めてくる。新藤は、朱里に「早く」と言って、この場を去るように促した。朱里と芳次は躊躇ったようだが、覚悟を決めたのか、小さく頷くと屋敷とは反対の方へ走り出した。新藤は乱条の方に向き直るが、彼女は挑発するような笑みを浮かべていた。


「逃げられると思うなよ。お前があたしを止められると思っているのか?」


「やだなぁ。そんなつもりはないですよ。それより、屋敷の方を…何とかしなくて良いんですか?」


「どうせ、あの中には大したやつはいねぇよ。雑魚を相手にして何となく仕事を終らせるよりは、お前らの依頼を潰して、如月葵の吠え面を見てやった方がマシだね」


乱条はスカジャンのポケットに突っ込んでいた両手を取り出すと、拳を作ってみせた。二人の間合いは十分に詰まっている。一触即発の状態であるにも関わらず、新藤は苦笑いを浮かべた。


「僕たちにちょっかい出す暇があるなら、ちゃんと仕事してくださいよ」


「これがあたしの仕事なんだよ!」


乱条が地を蹴った。二人の間合いは、一瞬で消えた。


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