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孝弘は、小さい頃から無口な子供だった。


それは、暴力的な父親の影響が原因で、彼は黙ることを心がけて育ったのだ。しかし、恐ろしい父に似たのか、体は大きく、周りの子供たちより背も高かった。ただ、無口で大きい孝弘は、周りの子供たちにとっては、何となく不気味な存在で、常に孤立していた。


それでも、孤独な子供時代を送らずに済んだのは、陽菜のおかげだった。陽菜は近所に住む幼馴染で、いつも一緒に育った。


どんなときも、傍にいる陽菜は孝弘にとって、


唯一の友人であり、


理解者であり、


母であり…


恋心を寄せる相手だった。


漠然とだが、これからもずっと一緒にいて、きっと彼女と家庭を築くのだ、と考えていた。恐らく、陽菜もそう思っている。


だから、ずっと傍にいてくれるのだ。

語り掛けてくれた。

微笑んでくれた。


そう信じていた。


しかし、大学に入り、お互い一人暮らしを始めた頃、陽菜は塞ぎ込むようになった。理由を聞いても、まともに話してはくれない。陽菜はただ


「分かるでしょ? そういうときがあることくらい」


と説明するだけだった。


陽菜を元気付けたくても、彼女は塞ぎ込むばかりで、どんどん内へ入り込んでしまった。自分にはどうすることもできない。彼女を理解したいのに、できなかった。


そんな陽菜が、少しずつ笑顔を取り戻していった。何があったのか話を聞くと、セミナーに参加していると言う。何らかの充実感を得て、彼女が回復するのであれば、それは喜ばしいことだ。しかし、その回復を自分自身の手で与えられなかったことは、孝弘の中に一種の重苦しさを残すことになった。




セミナーに自身も参加することになり、より陽菜を理解できるようになると思ったが、二人の距離は開くことになった。深浦芳次の存在である。陽菜は深浦芳次に出会い、急速に接近して行った。


それでも、孝弘は焦ってはいなかった。長い時間をかけて築いた関係だ。陽菜にとって、芳次がどんな関係なのかは知らないが、より深い絆を感じているのは、自分だと思っていた。


しかし、プシヒーの力を得た陽菜は、急速に自分から離れ、芳次との接近した。芳次を語る陽菜は、今まで見たことのない表情を見せた。孝弘は、初めて女の顔を見たのだ。


そんなはずはない、と孝弘は思った。自分たちの絆は、長い時間といくつもの記憶を共有している。それが、これだけの短期間で、壊されてしまうものだろうか。そんな疑問が、ただの言い訳になってしまうくらい、陽菜と芳次の関係は、深いものになっていた。


なぜか。孝弘の疑問は、すぐに答えを見い出す。それは、二人がプシヒーだからだ。特殊な力を使って、二人は時間も記憶も飛び越えてしまった。


何て卑劣なことだ。

卑怯だ。

奪われた。


孝弘は、人生を奪われた。

過去は壊され、将来は奪われたのだ。


でも、これは間違ったことだ。そんなわけがない。きっと、自分がプシヒーの力を得れば、こんなことは間違いだと、すぐに分かるはず。本当に深いところで結ばれている絆は、自分と陽菜にこそあるはずなのだから。


だから、孝弘はどうしてもプシヒーの力を得なければならない。プシヒーの力を得て、間違いを正す。自分の人生を、将来を取り戻すのだ。


そして、証明する。

自分こそが、陽菜を最も理解しているのだ、ということを。

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