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高校生活も三年目を迎えたある日の放課後、いつものように一人で帰る新藤だったが、校門の前に百地優花梨が立っていた。


「一緒に帰らない?」


彼女は、いつもクラスの仲間に囲まれているか、木戸と二人で帰っているが、なぜ自分を待っていたのか。新藤は不思議に思ったが、一緒に並んで歩いた。


黙ったままの彼女が何を考えているのか、新藤は何となく理解した。


「木戸くんのこと?」


「……うん」


最初は、なかなか事情を話さない百地優花梨だったが、新藤は少しずつ質問を重ね、彼女が抱える問題が明るみになっていった。


原因は木戸だった。何がきっかけなのか、それは分からないが、木戸が喧嘩をした。それはいつものことだったが、その相手が百地優花梨の友人の交際相手だったらしい。


それにより、百地優花梨と友人の関係にも亀裂が入ってしまった。言い合いの末、百地優花梨は友人に言われてしまった。


「あんな暴力男の何が良いの? 本当に理解できない」


友人との関係が壊れてしまったことに加え、彼女がずっと考えていた木戸の性質について、それが一気に重みとなってしまったそうだ。


「ヒロだってさ…良いところがあるんだよ。みんなが知らない、ヒロの良いところ、私は知っているの。みんな、何も知らないだけなんだよ。それなのに、どうして私のことまで…」


彼女と木戸の間に、どんな絆があるのか新藤は知らない。だが、そこには決して否定されるべきではない何かがあるらしい。木戸を否定すればするほど、彼女自身が否定される。


「大したことはできないけれど、僕は百地さんの味方だよ」


これがどれだけ意味のない言葉なのか、新藤は理解していた。それでも、彼女は笑顔を返した。


「ありがとう。新藤くん、優しいね」




優しい言葉をかけたとしても、誰も救うことはできない。


夜中に百地優花梨から呼び出され、新藤は離れた彼女の家まで自転車で疾走した。街灯の下で新藤を待つ百地優花梨の頬が赤く腫れあがっていることに気付き、今まで抱いたことのない感情が宿った。


「まさか、木戸くんが?」


百地優花梨は何も言わなかったが、その沈黙が答えとなっていた。


「ヒロ、また喧嘩するんだって」


「どういうこと?」


新藤が質問しても、彼女は答えなかった。


「やめさせないと…」


新藤の提案に、百地優花梨は笑う。気のせいか、それは冷ややかなものだった。


「どうやって?」


それは……分からない。

きっと、止められるとしたら、力尽くになるだろう。


だが、木戸を止めるほど力を持っている人間なんて、どこにいると言うのだ。


「みんな同じことを言うんだ。ヒロはおかしい。止めるべきだって。でも、誰にできるの? 私にできるわけないじゃん」


長い沈黙が二人の間を流れた。先に口を開いたのは、百地優花梨だ。


「八つ当たりして、ごめん」


「……僕の方こそ、何もできなくてごめん」


「……新藤くんは優しいよ。それだけで、私の救いになっている」


そうだろうか、と新藤は思う。どんなに新藤が彼女のことを想っても、何か助けになっているとは、少しも思えない。彼女を救う必要があるのに、自分はただその場だけの言葉を与えるだけ。


自分が一番、卑怯者ではないか。


百地優花梨を家まで送った後、自転車で走る新藤は、ただ自己嫌悪に陥るのだった。

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