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少しばかり時間は遡り、一ヵ月前。


異能対策課は、今までにないペースで動いていた。異常なまでに異能事件が続いたのだ。しかも、偶然なのか学生による犯行が多く、さらに言えば、その誰もが単調な能力だった。


例えば、身体能力が超人的に向上したもの、手を触れずに物質を動かすもの、といった調子で、個性的な異能はほとんどなかった。そこで、異能犯たちは表面上、何の共通点もないように見えるが、裏では何かつながりがあるのではないか、と成瀬は感じていた。


実際、異能犯の学生たちを調べると、すぐに妙なセミナーの存在が浮き上がってきた。彼らの親しい友人は必ずと言って良いほど「最近、変なセミナーの活動に熱心だったみたいです」と証言したのだ。


地道な調査により、その「変なセミナー」の実態は、少しずつ浮き彫りになっていった。しかし、どんなに調べても誰が主催しているのか、ということは、分からない。ただ、捕まった学生の何人かは、御薬袋という名前を出したので、その人物が主催者であろう、と見当を付けた。


開催されるセミナーを何度も監視し続けた結果、御薬袋という人物を特定した。小太りでいつも紫の頭巾をかぶり、丸い形のサングラスをかけ、卑しげな笑みを浮かべている。写真を撮影し、捕まっている学生の何人かに確認したところ、その男が御薬袋で間違いないようだった。


次に開催されるセミナーに、御薬袋が参加するものなら、必ずや捕らえてやろう、と成瀬は決めた。また、御薬袋の横には必ず長身の若い男がいた。この男も恐らくは重要人物かもしれない。御薬袋に奏音の目を付けられなかった場合、この男を代わりにすることも想定するべきだろう。


それから少し経って、ついにセミナー会場に御薬袋が現れる。この時点で奏音に目を付けられれば良かったが、タイミングが悪かった。だが、御薬袋がいることに違いない。以前から各所に回って何とか借りれれた人員を従えた乱条を、会場に踏み込ませることにした。


成瀬は会場の入り口で、逃げ出すものがいないか見張っていたが、誰も出てこなかった。そろそろ、中の様子を見てみようか…と思ったところで、乱条から電話があった。


「成瀬さん、御薬袋ってやつはいなかった。でも、いつも隣にいた若い男が、裏口へ向かった。奏音をそっちに回してくれ」


「分かった。お前はその男を追って、足止めしておけ」


「了解だぜ」


裏口に回るよう奏音に指示を出した後、成瀬は会場に入った。学生と思われる若者たちが拘束され、跪いている。乱条がこの場にいない以上、抵抗するものがいれば、成瀬自身が制圧するつもりだったが…どうやらその必要もないらしい。誰もが大人しく、こちらの指示に従っている。


成瀬は念のため、知った顔がいないか、拘束された若者たちの顔を見て回った。一通り確認を終え、乱条の後を追うべきかと会場を出ようとしたとき、一人の若者の呟きが耳に入った。


「今日こそは、メシアに会えると思ったのに」


成瀬は足を止め、声がした方を見た。何人かの若者が顔を伏せているばかりで、誰が発言したのかは分からない。


「おい、メシアとは何だ」


成瀬は声がした方に、誰と言うわけでもなく、質問した。しかし、誰も成瀬と目を合わせようとしない。どうやら、メシアとは彼らにとって隠すべき存在のようだ。成瀬は彼らに詰め寄り、一人ずつ顔を確かめる。


「メシアとは御薬袋のことか?」


反応はない。


「ここで正直に答えた方が、身のためだぞ。後ですぐに解放されるかもしれない」


やはり、メシアについて彼らは話す気はないようだ。メシアとは、救世主を表す言葉ではないか。彼らの言うメシアとは、御薬袋のことだろうか。妙な薬を使って、ただの学生を異能者にしてしまう御薬袋は、確かに彼らからしてみると、メシアなのかもしれない。


しかし、今まで捕らえた異能犯たちは、御薬袋のことは御薬袋と呼んでいた。それに、御薬袋の外見も、とてもメシアといった風貌ではない。後で彼らをじっくりと尋問するのも良いかもしれないが、メシアという人間が、どれだけ調べても出てこなかった、このセミナーを主催する組織のトップだとしたら…。


それは、組織的な異能犯罪を起こすかもしれない、危険な存在だ。この機会に、御薬袋と共に捕らえられるのなら、そうするべきだ。そんなことを考えていると、乱条が戻ってきた。


「成瀬さん、いつも御薬袋と一緒にいた男は、奏音に目を付けさせた。まだ移動中みたいだけど、問題なく追跡できる」


「分かった。半分はこちらの人員に割く。追跡は、残りの半分と、俺とお前でやるぞ。御薬袋のやつは必ず捕らえる」


「もちろんです」




成瀬は知らないことだが、彼らが追う男は、孝弘である。孝弘は、他のセミナー参加者に比べ、イスヒスの能力をより発揮させた。そのため、御薬袋の護衛に選ばれたのである。彼は陽菜を抱きかかえても、凄まじいスピードと体力で走り続け、郊外まで出た。さらに森に入り、奥へ進むと、一件の大きな屋敷が姿を現す。孝弘が入り口にあるブザーを鳴らすと、暫くしてドアが開いた。顔を出したのは、御薬袋だった。


「やぁ、孝弘くん。無事だったかい。流石だね」


「御薬袋さん…そろそろ、薬が切れそうです。ここに来るまで、何粒も飲んでしまいました」


「大丈夫、用意してあるから。安心してよ」


「はい。……ところで、メシアは無事ですか? 今日は会場に来る、と聞いていましたが」


「もちろん、無事だ。むしろ、あの方が僕に警告してくれたから、警察が来る前に逃げ出せたんだ」


「そうですか…メシアはどこに?」


「ここにいるよ。会ってみたいかい?」


「……会えば、俺もプシヒーの力を手に入れられますか?」


「さぁ? 取り敢えず、会ってみたらどうだい?」


孝弘は御薬袋の後ろで、人影が動くのを見た。それは黒髪を腰まで伸ばした女性だ。彼女は孝弘を見て、微笑んだかのようだった。

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