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7

その通路は、何となくカラオケボックスを思わせるような作りになっていた。

左右に別れた道は、どちらもいくつかのドアが等間隔で並んでいて、開いたままと、そうでない場所があり、全部で二十はある。これが彼らの言う個室で間違いないだろう。


すべてのドアは中央部分がガラス張りになっていて、やや視界は悪いが、中の様子が見えないこともなかった。新藤は気配を殺しながら、部屋の中を一つずつ覗いて行った。人のプライベートを覗くことは探偵助手になったとは言え、彼のような性格の人間には、気が退けることではあったが、仕方のないことだ。


使用中らしい個室は、五つほどであったので、それほど大変な作業ではなかった。一つ目は、知らない男女で、二つ目は知った顔だったが、先程見た二人であった。三つ目で新藤は、陽菜らしい人物を見付けた。陽菜は個室の中で、男と二人、ぐったりしている。具合が悪いのか、それとも共感を行っている最中なのだろうか。


もう一人の男は顔が確認できないが、孝弘であれば話は早い。違ったとしても、陽菜に居場所を聞けるかもしれないし、踏み込むしかないようだ。新藤が半ば決意してドアノブに手をかけた瞬間、ぐったりとした陽菜が急に立ち上がった。そして、こちらへ向かってくる。都合が良い、と思ったが、そういうわけでもなかった。


陽菜はドアを開けて廊下に出ると、そこで力尽きたように、倒れてしまった。新藤は素早く彼女を抱きかかえたが、全身に力が入っていない。


「大丈夫ですか?」


新藤は慌てて声をかけると、陽菜が目を開き、虚ろな視線を向けてきた。


「く…薬が、足りない。御薬袋さんに…もら、わないと」


どう見ても異常な状態だ。こんな姿を見たら、友人である朱里が心配するのも無理がないだろう。


「陽菜ちゃんで間違いないかな? 僕は朱里さんの依頼で、貴方を探していました」


「あ…かり、ちゃん?」


「そう、朱里ちゃん。ここはたぶん危険だから、早く外に出よう」


「でも、薬が…ほし、い」


「薬は駄目だ。まずはここを出て、治療した方が良いよ」


「芳次くん…は?」


芳次。恐らくは、朱里が言っていた、深浦芳次という人物だろう。彼の行方については、特に依頼されてはいないが…。


「陽菜さん」と声をかけてきたのは、個室の中で項垂れていた男だ。


どうやら、彼が芳次で孝弘ではなかったらしいが、彼の顔色も悪い。今すぐにでも倒れてしまいそうだ。新藤は提案する。


「二人とも、ここから出よう。君たちは、とても健康的とは言えない。こんなことを続けていたら、どうなるか分かったものではないよ」


新藤の言葉が聞こえているのかいないのか、二人は青い顔で俯くばかりで、何も言わない。二日酔いの大学生を相手にしているのであれば、まだ可愛いのだが…と新藤は心の中で溜め息を吐いた。


「とにかく、行こう。立てるかい?」


新藤は陽菜に肩を貸し、何とか立ち上がらせた。歩けるみたいだが、このままフロアへ出たら、流石に注目されるだろうか、と心配だった。芳次はどうするのだろうか、と振り返ると、彼は覚束ない足取りだが、一緒に出て行く意思はあるようだ。ひとまずは順調だ…と新藤の安心も束の間、道を遮る影があった。


「どこに行く?」


芳次に気を取られていた新藤は、正面からの声に、少なからず驚いてしまった。しかし、声の主の顔を見て、再び驚きを覚える。その人物は間違いなく、新藤が探していた孝弘だったのだ。


「君は…孝弘くんじゃないか。えっと、僕は朱里ちゃんの依頼で、君と陽菜ちゃんを探していた。ここは怪しいから、二人を助け出してほしいとのことだ。一緒に、ここを出よう。それが、朱里さんの願いだ」


「朱里…」


部外者である新藤と向き合っていた孝弘は、確かに緊張感を持っていたが、朱里の名を聞いて、僅かに表情が綻んだように見えた。案外、スムーズに進み、依頼を達成できるかもしれない…と期待したが、決してそうではなかった。孝弘の目付きが変わる。それは、敵意であると、新藤には分かった。そして、彼は言う。


「陽菜を離せ。陽菜はここを出ようなんてことは、望んでいない」


「望んでいないとか、そんなことは言っていられないよ。この状態を見たら、何らかの治療が必要なのは明らかだ。彼女のために、君も一緒にここを出るべきだ」


「……もう一度言う。陽菜を離せ」


孝弘は、自らの強い意志があることを示すかのように、一歩前に進んだ。流石の新藤も、これ以上は穏やかな対応は難しいだろう、と判断する。


「どうするつもりだい?」


威圧的な声色を孝弘に浴びせるが、彼は少しも心が乱れた様子はなく、むしろさらに意志が固まったかのようだった。


「陽菜を離さないなら、きっと後悔する」


「君が後悔することにならなければ良いけどね」


新藤はゆっくりと屈み、陽菜を通路の隅に座らせたが、それは女性を介抱するような丁寧な動作だ。

しかし、そこにいる誰もが気付いていなかった。新藤の口元に、血に飢えた獣を連想させる笑みが浮かべられていたことを。

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