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「家を出たら、私と同じ顔の女が立っていた」


如月探偵事務所に、久しく訪れた依頼人は、奇妙な出来事を語る。


「それで、彼女は私を見て言ったの。見付けた、って」


震える声で説明する女性に、如月探偵事務所の第一助手である、新藤晴人は尋ねる。


「その人と顔見知りの可能性は? 例えば、昔の知り合いが整形して、顔を同じものにした、とか」


女性は首を横に振る。


「分からない。でも、声も似ていた…と思う。だから、誰ですかって、聞いてみたけど」


「……そしたら?」


「貴方に決まっているじゃない、と言われて…とにかく怖かった」


依頼人と同じ顔を持つ女。

それが何者なのかは分からない。


ただ、何かしらの恨みを持っていることは間違いないだろう、と新藤は感じた。


実際に、依頼人の女性はこう語る。


「それから、約束を破った私を、絶対に許さない、とも言っていた。でも、何のことか分からなくて、戸惑っていると…思い出すまで私を苦しめてやる、って…」


そのとき、同じ顔をした女が、どんな表情をしていたのか。それを思い出したのか、彼女の表情が少しずつ青く染まっていく。


「旦那さんには…相談した?」


彼女は頷く。


「でも、あまり信じていない様子で。防犯カメラでも付けるか、とは言っていたのだけれど…」

依頼人の女性は僅かに目を細める。新藤には、その仕草が苛立ちのように見えた。

「呑気に、ドッペルゲンガーってやつか、って言ってたかな」




ドッペルゲンガー。

自分自身の姿を自分で見てしまう幻覚の一種と言われ、自己像幻視とも呼ばれる現象だ。


しかし、ただの幻覚と言い切れないものでもある。なぜなら、同じ人物が同時に別の場所で、複数の人間に目撃されるケースもあるからだ。


また、ドッペルゲンガーは、肉体から霊魂が分離し、実体化したものである、という話も有名だ。そして、ドッペルゲンガーの出現は、その人物にとって死の前兆だ、とも言われている。しかし、あくまでドッペルゲンガーは噂や迷信のようなものであり、その存在は証明されているものではない。




「こんなバカみたいな話、誰も信じてくれないよね」


涙を堪えているのか、依頼人が震えた声で呟く。新藤は憐れむように目を細めた後、振り返って、事務所の奥に座る女を見た。


その女は非常に整った顔だが、髪は真っ赤に染めた、奇抜な印象を与える。それは、まるで人形のようで、人の形でありながら人でない何か、別の存在であるようにも見えた。


彼女は如月葵。この如月探偵事務所の所長である。


「この依頼、受けましょう」


信じがたい奇妙な相談内容だが、如月は真剣な面持ちで承諾した。依頼人はそれを意外に感じたのか、目を丸くして新藤を見た。新藤は微笑みを浮かべ、頷く。


「安心して。如月探偵事務所は、異能専門と言われるくらい、この手の事件を得意としているんだ」


「異能専門…?」


「そう、うちの所長は異能力事件の専門家だからね」


説明する新藤の背後で如月葵は僅かに微笑みを浮かべる。余裕の表情を見せる如月だが、ドッペルゲンガーという奇妙な現象は決して簡単な話ではなかった。


そして、その現象の裏には複雑だが単純な、人の意思が蠢いているのだった。

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