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クロユリのシナリオ

作者: 葦永蜂

クロユリのシナリオ


僕らの地域にはある変わった言い伝えがある。それは足元にクロユリの花が咲いている者は1週間後に死ぬというものだった。





これは昨日、オカルト好きの友人が話してくれたことだ。


正直、僕はそんな言い伝え信じていない。どうせ物好きな小学生が作ったんだろう。そもそも、黒い花なんて見たことがない。そんなことを思っていた。





僕は最近いつもよりも30分ほど早く家を出るようになった。それは僕が健康志向や朝活に目覚めたわけではなく、他の理由があった。





ある女性に会うためだ。


僕がいつも待つバス停の向かい側に座っている綺麗な女性。僕は彼女を見るために登校していると言っても過言ではない。それくらい、話したこともないその女性に惹かれていた。 彼女のおかげで僕は世界中の学生が憂鬱なこの登校時間が小さな幸せの時間に変わった。



 



今日もいつものように彼女と会うためにバス停への歩みを進める。すると少しずつ彼女の姿が見えてきた



「やった、今日もいる」



心の中でガッツポーズをした僕はすまし顔でいつもの場所に座った。今日は真っ白なワンピースをきて、赤い小さな鞄を持っていた。控えめにバスが来る方向を眺めている姿はとてもかわいらしかった。





しばらくして、僕は少しの違和感を感じた。なにかがいつもと違う。


いつも通りの古いバス停


いつも通りのカーブミラー


そしていつも通りの僕と彼女


だが、たったひとつだけ違うところがあった。彼女の足元には真っ黒な百合の花が咲いていた。明らかに異質な存在。ただの花ならなにも思わないが、黒い花などそうそうあるものではない。そして彼女はその存在に気付いていないようだった。





僕は鼓動がどんどん早くなるのを感じた。


僕の頭の中で目の前の光景と例の言い伝えとがつながるのにそう時間はかからなかった。


ということは、彼女はあと1週間で…





僕はそう言いかけて慌ててその不吉な考えを振り払った。


そんなわけない、ただの偶然だろう。あんな言い伝え、信憑性はない。と自分を落ち着かせる。





その間、僕はあまりの動揺に彼女を見つめすぎていたらしい。彼女は不思議そうに僕の方を見ていた。





僕は必死に一輪のクロユリを見ないようにしながら、ただの偶然であることを祈った。





しかし、その祈りは神に届かなかったらしい。





日を増すごとに彼女の足元のクロユリは増えてゆく。一輪ならまだしも、こうなると偶然だと思うことはできなそうだ。僕は学校でも彼女のことしか考えられなくなっていた。





そして、僕は覚悟を決めた。 


僕が彼女を助けるんだ。僕は彼女の死ぬ日がわかる。僕にしか彼女を救えないんだ。





あれから1週間がたった。ついに今日だ。彼女の足下にはたくさんのクロユリの花が咲いている。僕がいつも以上に見つめているのに気付いたのか、彼女は険しい表情で僕の方を見ていた。





緊迫した空気が張り詰めているその時だった。


視界の端にふらふらと近づいてくる車が見えた。様子がおかしいなと思い見てみると運転席にいる男は気持ちよさそうに眠っていた。


その瞬間僕は直感した


この車が急に方向を変えて彼女に突っ込むんだ。そして彼女は…


僕は考えるより先に体が動いた。






「危ない!」


「危ない!」





そう叫んで


僕と彼女は同時に前に走り出した。


そしてまっすぐに進んできた居眠り運転の車は僕たち2人に衝突。自分のものか彼女のものかもわからない血しぶきが視界に飛び込んでくる。





ぼくはなにが起きたのかわからなかった。なぜ彼女が…?





宙に放り出される刹那、僕は自分が待っていたバス停を見て愕然とした。そこにはクロユリの花が所狭しと咲き乱れていたのだ。


そこで僕は全てを悟った。彼女はクロユリの呪いから僕を救おうとしてくれていたんだ。僕と同じように。


道の両脇に咲いた無数のクロユリは風に揺られて僕たちを嘲笑っているようだった。僕らはまんまとクロユリの描くシナリオに乗ってしまったのだった。









しかし、僕は意外にも穏やかな気持ちだった。


まあ、彼女と一緒なら悪くないか。


そんなことを思いながら僕は永い眠りについた。












翌日、彼らのための葬儀がしめやかに営まれた。


涙を浮かべる親族や友人とは対照的に黒い縁の中で笑い続ける2人は美しいシロユリの花に囲まれていた。

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