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お金!

 考えた結果。お肉屋の方へ向かうことにした。もちろん同じことを繰り返す気はないので、お金をどうするかってのを思案しつつ。

 大道芸。靴磨き。皿洗い。

 どれも現実的じゃない。皿洗いは出来そうだが、時間がかかる。かといって時短でそこそこ稼げる……といえば、怖い職しかない気がする。

 

 知り合いに借りる。

 というのが一番マシかな。

 となると。

 お兄ちゃんか……メリエルってことに。

 

 そういえば丁度この近くにメリエルの務めている神子教会なる立派な建物があるはず。

 会えるかどうかわからないけれど、八百屋のおじさんに説明するよりは、友達のメリエルに現状を説明する方が楽だ。

 こけないように気を付けながら、通りを幾つか曲がって、大通りを横切る。徐々に家や店がなくなっていき、澄んだ空気、静けさに緊張感が増す。

 綺麗に舗装された白い道に出ると、大きな湖とその真ん中に建つ白い教会が見えた。

 この世界でもっともファンタジーを感じる場所。

 それが神子教会。神の声を聞き、世界を守護する子らの住む地だ。

 私は、生で見るファンタジックな景色に、息を漏らした。

 元々ここには城があった、しかし、はるか昔大規模な魔瘴に犯され、廃墟となった。そこに突如として現れたのが、一番初めにこの世界に来た聖女だとメリエルから聞いたことがある。

「この湖って魔法で作ったんだよね……」

 聖女は、水の中から現れると言われている。

 それゆえ、魔瘴に犯された場所には水辺を作る。

 この大きな湖は、魔法で作られたもので、中には壊れた城が沈んでいるらしい。

 見たい。覗き込みたい。

 私は、本来の目的そっちのけで、ふらふら湖へ近づき、膝をついた。

「うわぁ……」

 魔法で作られただけあって、水は透き通ってキラキラ輝き。壊れた建物がゆらゆら水の中で揺れているのが見えた。

 神秘的でわくわくする。

「お宝とか沈んでそう……」

 教会へと続く橋の上。じっと水の中を覗き込んでいたら、蹄の音と共に、真後ろをを何かが通りすぎていった。

「神子長様! 道中お気をつけて!!」

 耳に入る単語。走りゆく馬車の後ろ姿。

 教会から出て来た馬車。

 神子長様。


 私は。


 馬車を追いかけた。


「メリっメリエルーー!!」

 サイズの合わない靴で、がっぽがっぽ走りながら叫ぶ。

 これを逃したら終わる。

「メリエルっ!! 私っサクっサクラっ!!」

 息がっ 足がっ 必死すぎて空回る。

「メリエルっ!! ちょっ!! ごめっお金貸して!!」

 お願いメリエル!!

「メリエっ!!」

 

 …………。

 気が付くと、地面に転がっていた。

 手は……ちょっとだけついたと思うけれど、たぶん顔擦りむいた。

 私は、暫く顔を上げる気力もなく。

 なぜこうもタイミングが悪いのか。いや、そもそも。私があの教会へ行ってメリエルに会わせて貰うことって出来たのか。靴すら履かずに家を飛び出したってのがそもそも詰みだったのか。

「お嬢さん。大丈夫ですか?」

 声を掛けられた気がした。

「お嬢さん?」

 顔を上げると、一人の青年が私を見下ろしていた。

 濃紺色の長い髪を高い位置で一括りにした、優し気な面立ちをした青年が、しゃがんで私に手を差し伸べる。

 私は、彼の手を借りて起き上がり、少し離れた場所で馬車が止まっていることに気付いた。

「コレを」

 青年は、私の手にそっと何かを握らせ、ふっと微笑んだ。

 その天使のような微笑みに思わず見惚れる。

「メリエル様の手を煩わせるな貧乏人。あの方は他人の痛みすら自分のものにしてしまう。お前のようなド不幸オーラ纏った人間に近づいて欲しくないんだよ」

「……んん?」

 私は、天使の微笑み青年の顔を二度見して、自分の手の中にある金色のコインを二度見して、首を右左と二回傾げた。

「メリエル様からだ。それで身なり整えて、ちゃんとしたところで働け。もし働き口がなければ教会に来いとさ。間に受けるなよ」

 青年は、笑顔の奥にゴミでも見るようなドス黒オーラを押し隠しながら、優雅に立ち上がって、クルリと背を向けた。

 どうやら馬車に戻るようだ。

 

 メリエルの乗っている馬車に……。

「あのっお礼を言っておいてください!」

「ああ?」

 青年が振り返る。

 怖い。

 天使の微笑みでは隠しきれない険悪オーラに萎縮しつつ、私は大きく息を吸い込んだ。

「サクラっ……私っラベンダー風呂好きのサクラと申します!」

「………ラベン…………」

 一瞬青年の天使の微笑みが剥がれた。

「ラベンダー風呂好きのサクラが、とっても感謝してましたと。お伝えくださ……」

「嫌だ」

 青年は即答すると、さっさと馬車へ乗り込んだ。

 馬車は再び走り出し、速度を上げて白い道を駆け、見えなくなった。

 私はそれを名残惜しく見送りつつ、お金お金と叫びながら走る自分の姿を今すぐ忘却したくなりつつ、手の中のコインを握りしめた。

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