戦う理由
一発、二発、三発、巨人の攻撃は続く。
「くそっ、馬鹿力め、手が痺れてきた!」
「……おっぱいが無ければ即死だった……」
こんな時なのに、しょうもない冗談を言う。ボロボロになってきているのが背中越しに丸わかりなのに。
「らちがあかないのデス!一旦引くデス!」
ネクロマンサーが叫ぶと、巨人はすごすごと後退りをし、遠ざかって行った。
「し、凌いだのか?」
腕の力が抜け、思わずひのきのぼうを取り落とす。乾いた音が辺りに響いた。
「退却デス!……と見せかけてー!」
巨人が小走りで駆け出した。
「ヤバい、助走を付けてきた!」
おれは身をかがめてひのきのぼうを拾う。立ち上がり……立ち上がれない⁉︎
「……そのまま身を低く……」
肩を掴まれていた。
「……私がヤツを止める……」
助走を付け、大きく振りかぶる巨人。これは受け切れない……
「……全力で行く……『インフェルノ』……」
おお、初めて見る魔法!地面から湧き上がるような火炎が、巨人を包み込んでいる。凄い威力!
「やったか⁉︎」
火ダルマになって転倒する巨人。ズズーンと鈍い音がした。
「よし、こけた!これで……」
比較にならないほどささやかに、魔法使いが倒れ込んだ。
「し、しっかり!」
おれが助け起こそうとすると、彼女は首を振った。
「……ちょっと疲れたから、このまま……」
「わ、わかった」
「……あとは任せた……」
力なく指さした先に、起き上がろうとする巨人がいた。
「くそっ、しぶとい」
大体、なんでおれがこんな事をしているのだろう?知り合って間もない奴らのために……いや、本当は分かってる。
平気な風を装っていたが、ずっと内心ドキドキしていた。普段女の子と話すことなんか殆ど無かったのに、リーダーは気さくに話しかけてくる。何の取り柄もないおれが勇者?そんなの最高に憧れたシチュエーションじゃないか。それにリーダー、表情がころころ変わって、見ていて楽しいんだ。
……おれはちょっと親切にされると、好きになってしまう、悲しい人種なんだ。
巨人のパンチが迫る。直撃は免れない。おれはひのきのぼうを構えて、叫んだ。
「童貞、なめんなああああ!」
来い、巨人野郎!