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第9話

家を出て三歩も歩かないうちに昴は腕を組んできた。どこのカップルだ。しかも古いし。


「何を買うの?」


「しょうゆと砂糖と野菜と肉。あと昴腕離して」


「えっ」


「えっじゃなくて…。腕は流石にないわ」


「そう?」


そう言うと昴はとてもしょんぼりした様子で腕を離した。そ、そこまでしょんぼりしなくても…!


「そんなに落ち込まないで。ほら、油揚げ買ってあげるから」


「本当?」


「うん、ほんとほんと」


昴は少しだけ元気になったようだ。なんてわかりやすい狐なんだろう。こんなんでほんとに神社守れてんのかな。なんか心配になってきた…。

買い物に来たのは地元の商店街。八百屋に酒屋に米屋となんでもありの店員も主婦も活気のある商店街だ。書店や雑貨屋もある上に学校が近くにあるので学生も多い。


「へえ、市みたいだ」


「いち?」


「安土桃山時代の商店街みたいなものだよ」


「あ、昔授業でやったかも。見たことあるの?」


「平安時代から生きてるからね」


「長生きだ…本当は昴っておじさん?」


「えっ…人間みたいな年齢はないよ。変化する対象も自由に選べるし」


「ふうん」


平安時代とか想像もつかない…そんなに昔から生きてるのか…。

考えながら歩いていると、昴が私の手にある買い物リストを覗き込んできた。


「馨、最初はどこにいくの?」


「ええと…八百屋から行こう」


「うん」



「へい、らっしゃい!おっ、松月さんちのお嬢ちゃんかい」


「お久しぶりです」


「…知り合い?」


「神社の娘だから、割と知り合い多いんだ」


八百屋に着くなり店主と話し出した私に昴が耳元でこっそり聞いてきた。そう、ことあるごとに商店街のイベントで何かをする神社の神主であるお父さんや手伝いをする私やお母さんは商店街では結構有名なのだ。


この辺りには寺社仏閣がうちの神社しかないから祈祷やお祭りというとうちの神社が駆り出されるから。


そのせいかこの辺りは稲荷信仰が根強いみたい。その稲荷神社の御遣い狐がここでフラフラしてるあんちゃんだと知ったらみんな驚くよね…。


「彼氏連れてデートかい?」


「デートで野菜は買いません!」


「あはは。そんなまさか。未来の私の奥さんだよ」


「ちょっと黙ろうか」


「はははっ、まいどあり!気を付けてなー」


ニヤニヤ笑う店主に背を向けて歩き出す。


「もう!昴!」


「何?」


「何?じゃないっての!!なんだ未来の奥さんって!!本人未承諾なんだけど!」


「私はいつでもOKだけど」


「私だあああ!!未承諾なの私!!わかる?わ!た!し!」


ああそっか、なんて昴は惚けた顔で頷いた。いや気付くの遅いから!


「だいたい私はまだ高校生なんだからね」


「卒業するまで待つよ」


「………」


何故だ。何故私なんだ。昴の基準が不明だ。わかんない。

こんなこと考えても無駄だ。結論に至ったらどうしたらいいかわからないし


「次、肉買いに行くよ」


「向こうの肉屋?」


「うん」


その後も肉屋でからかわれ、酒屋でからかわれ…私は疲れた。昴がいちいち未来の奥さんとか返すから本気にされたし。私まだ高校生。未成年。昴は外見20代。奥さん発言はちょっと危ない。


そして最後に寄った、書店がいけなかった。行けたけど行かなければよかった。


「ここは本屋?」


「うん。予約してた本を取りに行きたくて」


予約してたのは今人気の作家の最新作。クラスでもみんな買って読んでるという人気ぶり。私も友達に勧められて読んだクチなんだけど、すごくおもしろい。


「私レジに行くだけだけど何か見る?」


「うん。ちょっと気になる」


「じゃあ店の中一周してみよっか」



そう言って広めの店内を見て回る。昴は漫画とか文学が好きみたいで、この作家はどう?とかいろいろ聞かれた。

意外にも私と趣味が合うみたいでどれも私の読んだことのある本の作者だった。


「じゃあ馨、これは?」


「どれ?ああそれは…」


「馨?」


ん?名前を呼ばれたような?驚いて昴の顔を見上げるけど今の昴じゃないよね。昴は私の後ろの方を見ている。後ろ?


「やっぱり馨だ!」


「ゆ、ゆりちゃん…」


後ろに居たのはクラス委員長のゆりちゃんだった。まずい。このタイミングでゆりちゃんは非常にまずい。


ゆりちゃんは八百屋の店主以上にうわさ好きだから。まずいぞ私。しかもゆりちゃんは委員長。要するにクラスのリーダー。彼女が噂なんてしようものなら1日と待たずにすぐ広まる。


「馨、その人は…?」


「馨の未来の」「なんでもないよ!」


だがしかしゆりちゃんは昴の発言と輝かんばかりの笑顔、昴の手にある野菜や肉などの買い物袋を見て全てを悟ったらしい。


「馨ちゃんがお世話になってます!私同じクラスの吉田ゆりっていいます!」


「ゆりちゃん、ね。私は昴。よろしく」


あれよあれよと言う間にゆりちゃんは昴と挨拶を済ました。ゆりちゃん怖い。


「じゃあ馨、私邪魔みたいだから帰るね!仲良くするんだよ!それじゃあ昴さん、さようなら」


「気を付けてね」


何かを盛大に勘違いしてる。ゆりちゃん、こいつ居候だからね。くれぐれも明日クラスでうわさしちゃだめだよゆりちゃん。ていうか忘れて、いまこの出来事を何らかのトラブルによって忘れてゆりちゃん。


「馨?大丈夫?」


「…なんとか」


げっそりした様子の私を見て、昴が私を心配してくれる。

明日からうわさの取り消しが大変になりそうだけど、後の祭りだ。

私はレジで予約していた本を受け取ると昴と一緒に店を出た。


「帰ろ」


「……」


「昴?」


昴は少し考えると買い物袋を片手で持って更に私から本が入った紙袋を取り上げた。


「どうしたの?」


「持つよ」


「え、でも昴、今まで買ったのを全部持ってるじゃん。いいよ。私も何か持つよ」


「じゃあこれ持ってて」


昴はそう言って空いてる方の手を握ってきた。え、持つって昴の手?


「迷子になるかもしれないし」


「……生まれ育った土地なんですけど」


2019/10/21 転載及び加筆修正

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