第8話
社が壊されてから早2ヶ月。予定より若干延びたものの、無事に社は修復された。
けど、昴はなんでまだうちに居るのかな?
「 す ば る ? 」
「なあに?」
私に呼ばれたのがそんなに嬉しいのか昴は笑顔でベッドから飛び起きた。
私が勉強してる間、昴は私のベッドに転がって漫画を読むのが日課らしい。
「そういえばお社直ったみたいだね」
「そうだね」
「……………」
「…………?」
「いや空気読めよ」
「え?」
昴は『だからなあに?』とでも言いたげな顔をしている。どついたろか。
私はため息をつきながら本を閉じた。こいつ絶対最初の約束忘れてるわ。
「昴、こないだ約束したこと覚えてる?」
「うん」
昴はまだニコニコしてる。何がそんなに嬉しいんだろう。
「お社に帰らなくていいの?」
「少しくらい留守にしたって問題ないよ」
「マジっすか…」
もしかして最初から昴はこうなるのを見越してたんじゃ……?いや、深くは考えないことにしようそうしよう。
「あ、馨」
「何?」
「ここゴミついてる」
「え、どこどこ?」
昴が自分の頭を指さして教えてくれるんだけど、私はゴミが取れない。昴はニッコリ笑って起き上がってきた。癪だけど、ゴミを取ってくれるみたい。
「そこじゃなくてもっと右…あ、行き過ぎってほら馨、私が取るからじっとしてて」
「うん」
昴が私の頭を軽く押さえてゴミを取ろうとした。そう、取ろうとしたのだ。
昴が空いている手を私の髪の毛についているゴミを取った瞬間、私の部屋のドアが開いた。
「馨、お母さん買い物に………え?」
「あ」
「ん?」
「あああああああああああああああ!!」
変化した昴を、お母さんに見られた。遂に見つかっちゃった。
「あら~、それじゃあこの人があの天狐様なのねえ」
「う、うん」
「お母さんびっくりしちゃったわー」
あの後状況を説明するとお母さんはあっさり納得した。
「馨の彼氏っていうより天狐様が変化してるっていう方が信憑性あるわよね」
私としては物凄く釈然としないんだけども。はあと溜め息をつくも世間話に夢中になっているお母さんと昴には聞こえていない。
我が家でお母さんを味方につけるってことはしばらくの間昴は家に居たって問題ないことになる。
「そうだ、義彦は?」
「あんたのとこでお勤め中」
「熱心なのはいい事だよ」
「あ、そうだわ。ちょっと2人とも、頼みがあるんだけど」
「?」
しらーっとする私とうんうんと頷く昴にお母さんが差し出したのは、買い物リストとお金だった。
「ちょっとお母さん用事ができちゃって…天狐様もいるなら心配ないわよね」
「え、ちょっとお母さん」
「全く問題ないよ」
昴は笑顔でリストとお金を受け取った。私の意見まるっと無視された!
「それじゃあお母さん出掛けてくるわね。帰りが遅かったら夕飯つくって食べてていいから。じゃあ天狐様、馨を頼みました」
「うん」
「…行ってらっしゃい」
もう何も言うまい。
お母さんが出掛けていってから昴はくるっとこっちを向いてニコニコ笑った。
「それじゃあ私達も行こうか、馨」
「はいはい…」
なんとなくわかった。昴とお母さんはテンションが近いんだ。なんというか、ノリみたいな部分も。あの2人のタッグは恐ろしい。多分逆らえないわ。テンション的に。
私はコートハンガーにかけてあるバッグをとると中にある財布にお金を入れた。おつかいとか何年ぶりかなあ。
「携帯持った、財布持った、リスト持った…」
「忘れ物はなさそうだね」
「うん」
「この姿で馨と歩くの新鮮」
「だろうね。私も新鮮」
この後、買い物に出たことによって私はとんでもない体験をするのだが、そんなことこの時の私には想像すらつかなかったのだった。
2019/10/21 転載及び加筆修正