第6話
「んなっ…」
お父さんは唖然。お母さんは絶句。当たり前といえば当たり前の反応だよね…私が慣れすぎてるだけか。
「はい、お隣の天狐様」
私の横に座った(犬がよくやる『お座り』のポーズね)昴を、昴という名前じゃわからないだろうから天狐様と紹介する。
それに昴が、私以外の人からはこの名前で呼ばせちゃだめって私にお願いしてきたので、彼の本性である天狐様と呼ばせてもらう。なんでも尻尾の数で呼び方がいろいろ変わるんだとか。
詳しくはよくわかんないからあとで調べておこうと思う。
「そういうわけでしばらくの間、お世話になります。よろしく頼みます」
「あ、いえいえ。ご丁寧にどうも」
かなりフランクに喋り出した昴を見て我に返ったお母さんは普通のお客と同じようにもてなしはじめた。今度はお父さんが絶句した。お母さんの適応力に対してなのか、昴の存在に対してなのかはわからないけど。
「じゃあそういう事でしばらく家に居るみたいだから宜しく」
「えっ」
私の発言に驚いたのはお父さんだ。
「あ、でも普段は私と一緒に居るから大丈夫だよ」
「心配しないで義彦。馨と居ないときは外に居たりするから」
「いえ、天狐様にわざわざご足労願うなど申し訳がたちません。ごゆるりとお過ごし下さい」
慌てたようにお父さんが言った。がんばれ、お父さん。
「大丈夫だったかな、義彦」
「多分」
あの後かなりパニクってたお父さんと昴の会話もそこそこに2階にある私の部屋に戻ると昴はその姿のままベッドの上で丸くなった。それを私は黙って見つめる。
「馨?どうしたの?具合悪い?」
昴の心配そうな声が聞こえてきたけどもうだめ。我慢できない。
「ていっ」
「わっ、けっ、馨!?」
私は勢いをつけて昴に突撃した。そして突撃した流れで昴の艶々した毛並みに顔をうずめた。
「えっ、ちょ、馨?どうしたの?えっ、ええ?」
「もふもふー」
「ふふ、くすぐったいよ、馨」
「昴の体気持ちいい。ずっとやりたかったんだ、これ。もふもふするよ!もふもふ!」
「なんだ、そんな事だったの」
「え?」
昴は私のしたい事にやっと合点がいったらしくて、四本の尻尾で私を撫でた。
「もふもふする!」
「こういうの好きなんだね」
「うん、大好き」
「遠慮しないで言ってくれれば良かったのに」
「んー」
完全にリラックスしてる私を見て、昴は笑いながら私にふわりと尻尾を乗せた。
「う……ん」
はっきりしない頭を振ってみる。
あれ?昴の尻尾をしこたま堪能してからの記憶がない…。もしかして私、あのあと寝ちゃったのかな?
いやー、昴には悪い事しちゃったかな…私思いっきり乗ってたしなあ…眠ってる人の頭は想像以上に重いんだよねえ。
そこまでぼけーっと思いながら私は気付いた。私の頭、昴の体の上に乗ってない。おかしいな、さっきまでは昴の首のあたりに乗ってた気がしたんだけど……これ布団じゃね?私のベッドの敷布じゃね?ていうかそもそも私うつ伏せ寝してたよね?なんで今横向きなの?これどういう事?
「すば……」
これは本格的におかしい。起き上がろうとしたんだけど起き上がれない。なんかホールドされてるみたい。やだもう嫌な予感しかしない。だって私の腰に腕あるもん。私のじゃないよ。全く何がなんだか。
「はあ…。昴さーん、なーんで私に抱き付いてるのかなー?」
腰に回った腕を軽く叩きながら呟いてみるも反応無し。え、これ本当に寝てんの?
「昴?いやちょっと冗談キツいって。起きましょうよ昴さーん」
「やだ」
「起きてんじゃん」
腰の腕を放してもらいたいのにますます力が強くなったみたい。私は抱き枕かい。取る物も取りあえず私はぐるっと回転して昴の方を向いた。
「さあ、その腕を放そうか」
「やだ」
「ていうかなんで化けてんの」
「今は馨しか居ないから」
「はあ?」
「細かい事は気にしないで、ほら、まだ寝てなよ」
「うっ」
異様な眠気を感じ瞬間的に術をかけられたと悟ったものの、そこから何かできたわけでもなく私の意識は再び途切れた。
2019/10/21 転載及び加筆修正