第5話
「うーん…」
目下の問題は昴の存在をお父さんとお母さんに教えるかどうか、だよねえ…。
私は、我が物顔でベッドに寝転がって本棚を漁る青年、もとい昴を見やった。いやそのベッド私のだから。
「どうする?うちの両親に挨拶しておく?それともいっそ姿消してる?」
「姿を見せない方が馨の為になるならそうするよ」
多分昴は私の見鬼の力の事を言ってるんだと思う。昴が本気で姿を隠そうと思わない限り、私にはその力で姿が見えてしまうから。
「うーん…私はみんなにも見えてた方がいいかな」
四六時中姿見せないって無理だと思うし。いずれどこかでボロが出るなら最初に紹介しておいた方がいいと思うんだよね。
「でね、狐の状態で親に紹介しようと思うんだよね」
「大丈夫かな」
「多分。お父さん卒倒するかもしれないけど普段から私の部屋から出ないようにすれば問題ないかな?」
「うーん…」
昴は困ったように笑った。確かに自分が神主やってるとこの神様の御遣い狐が自分ちに居候するなんて普通考えられないしね。
「まあでも私は昔からいろんなモノを家にあげてたからすぐ慣れると思うけど…」
「いろんなモノ?聞いた事ないな」
「あれ、言わなかったっけ?私昴に会う前からその辺の木霊とか付喪神とかアヤカシとか家に連れて来ちゃってたんだよね」
親も親で、見える家系だからといって見える私に対して何か言ったわけでもない。むしろ何が見えるか聞きたがったくらい。
あの時はお父さんにもなんかいろいろ見えたみたいで大変だったんだよね。
「あ、そういえば狐…じゃなくて御先稲荷たちを連れてきた日もあったなあ…その時は夕飯がきつねうどんだったような」
「これからは変なのは連れて来ちゃいけないよ、馨」
「わかってるよ」
そんな事を話しているうちに下の玄関から物音がした。うん、私の部屋二階にあるんだ。昴を運ぶの大変だったよ全く
「これ、義彦たちが帰ってきたんじゃないかな」
「やっぱそうだよね」
よっこらせと立ち上がると昴も瞬時に変化を解き着いてきた。なんていうか、かわいい。私大きい動物好きなんだよね。だから普通に四つ足で立って私のお腹くらいまでの身長がある昴ってかなりツボ。どストライク。学校とかに連れて行きたい。ていうかもふもふしたい。
「……馨?」
ドアノブを握って昴を見つめたまま動かない私に、昴がいたたまれなさそうな様子でおずおずと声をかけてきた。
「馨、大丈夫?」
「あ、だ、大丈夫だよ!問題ないよ!」
「ならいいんだけど」
早く下に降りないと、という感じで昴が私を促した。
これじゃどっちが紹介されるのかわかんないよね。
「昴はここで待ってて」
「うん」
とりあえず親の居る和室の前に到着。でもいきなり入っていったらそれこそどうなるか解らないのでまずは私がワンクッション置くって話。昴を廊下に待たせて私は和室に入った。
「おかえり。どうだった?」
「御神体は無事だった。でも社はかなりひどかったな」
「すぐ直る?」
「1ヶ月とかからないと思うぞ。悪戯でこじ開けただけらしいから」
「よかった」
私もほっと一息。お社がそこまでひどい状態じゃなかったからお父さんもお母さんもそんなにピリピリしてないみたい。…話すなら今、だよね。
「あの、ちょっと聞いてもらいたい事があるんだけど…」
と、私は昴がこの家に居候するまでの話をした。
昴という天狐を連れてきたということ。
天狐というのはいつものちびっこ狐たちより神様に近い存在であるということ。
お社が壊されて、居場所が無いからしばらくうちに居候させてほしいこと。
案の定2人の表情は『信じられない!』って感じ。当たり前だよね。まあそのために今本人に登場してもらうんだけど
「…それで、口で言ってもわかんないだろうからご本人に直接会ってもらうね」
「ご本人?」
「直接ってまさか…」
「はいどうぞー」
和室の襖を開けば、何度見ても大きいと思える化け狐が悠々と入ってきた。
2019/10/21 転載及び修正