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第4話

けいがちょうど7歳になった頃、私の一族で、私の結婚の話になってね。一族の話し合いに呼び出されてなかなか抜けてこられなくて…。」


うんうんと頷きながら喋る。なんというか、今更すぎるんだけど馬鹿でかい狐が頷きながら喋るってシュールだな。


「いくら抜け出せないって言ってもねえ…。もう10年以上経ってるんだけど?」


「それはその…話し合いをしていたのが現世じゃなかったから時間の流れが違ってて、2.3日留守にするつもりがこんなに経ってしまったというわけ」


「じゃあ昴は、今までこっちに居なかったから、お社が壊されたのは不意打ちに近かったってこと?」


「恥ずかしながらそういうことになるね」


思わずこめかみを押さえる。私が嫌になったから姿を消したとか、何か危険があったから姿を消したとか、とにかくそういう理由ではなかったわけだ。はあ…心配して損した。


「私の前から突然消えた理由はわかったよ…まあ、心配してたんだから思うところはまだあるんだけどさ、とりあえず話進めよ。それでなんで結婚相手が私になったの?」


「うん。候補はいっぱい居たんだけどみんな遠い所に住んでるから…その点馨は隣に住んでるし親は神主だしちょうどいいと思って」


いや近いから選んだって…マンションか?就職先か?(ある意味就職先だけども)

そういうことを決めるんじゃないんだからもっと違う観点から選ぼうよ。ていうか私人間だし。


「候補はみんな狐だったんでしょ?遠いってどれくらい遠かったのさ」


「出雲やら尾張やら安芸やら」


「?」


「とりあえず遠いってことだよ」


遠いのはわかったけどなんか納得いかない。なんだろう、お稲荷さんの結婚は住んでるところが近いか遠いかで決めるのかな。

結婚を決めた理由があまりにも単純で事務的すぎて、私は複雑な気持ちで俯いた。


「それに、私が番になりたいのは馨だけだから」


「んなっ…番って!!」


「なんか変なこと言った?」


「いや…あ、その…ほら、ほら、わっわたっ、私…」


「馨?大丈夫?」


「大丈夫じゃない!!だだだだって私人間だし!」


真っ赤になってあたふたする私に、昴は相変わらず呑気だった。


「馨、顔真っ赤だ」


「知ってるから!!」


「あはは、ごめんごめん」


「謝るくらいならからかわないで!」


「かわいいなあ、もう。とりあえず落ち着いて、ね?」


まあまあ、と昴に宥められたけど諸悪の根源あんただからね。私の恨みがましい視線が自分以外に向いてると思ってきょろきょろしないで。この部屋私と昴しかいないでしょ!


「それに…」


「ん?」


昴はいきなり先程の青年に化けると両手で私の顔を挟んだ。


「私はこうやって人に化けられるから、結婚するのは人間だって構わない。わかった?」


「…………わかった、けど」


「ほんとに!?嬉しいなあ、私てっきり断られるのだと思ってたから。御先稲荷たちも喜ぶよ!嫁入りの日はいつにする?私は朔日がいいと思うんだけど…ああでも馨の都合のつく日ならいつでもいいかな」


私の返事を全部聞かないうちに昴は私を満面の笑みで抱き締めた。で、このマシンガントーク。いやあの昴さん私の話聞きましょうよ


「あの…昴?」


「なに?いい日があった?」


「いや、そうじゃなくて…私、さっきの話理解したけど承諾してないよ…?」


「えっ」


私の言葉を聞いた途端、昴はみるみるうちにしょんぼり落ち込んでしまった。もの凄くうなだれている。


「あ、あの…昴?」


「馨………」


頼むから、頼むからそんな悲しそうな目で私を見ないで…!!なんかすごく私が悪いことした気分になる。私そういう視線に弱いのに…


「馨……だめ?」


「…」


「今すぐ嫁入りしてなんて言わないよ、馨」


「っ…」


「馨の気持ちが変わるまで私は何年でも待てるから」


「う、」


「馨」


「うう…」


「好きだよ、馨。愛してる」


「うわあああああ!もういい!!わかった!!わかったから!!恥ずかしいからやめてええええええ!!」


至近距離であんなに言われたら平静保つの無理です。

ただでさえ私は免疫ないから余計に。


「それじゃあ…!!」


目を輝かせる昴にビッと指を突き付ける。だってそうしないとさっきの繰り返しになっちゃうし。


「け、結婚はまだしません!!」


「…そう」


そう言って昴は悲しげに笑った。

やめてくれ…やめてくれ…。その顔されると弱いんだって。


「あああああもう!!昴は私がそういうのに弱いの知ってるでしょ!もう!!好きにすればいいよ!」


「え、いや知らなかったけど…まあでもせっかく本人からお許しをいただいた事だし」


昴は先程とは打って変わってニッコリ笑うと私の顎を掴んで視線を合わせた。


「………あれ?」


もしかしてさっきの悲しそうな笑いは演技…?

こ、この狸野郎!!いや本人狐だけど!!


「これから宜しくね、馨」


「…どうしてこうなった…?」


真っ赤な顔で小さく呟いても、昴は嬉しそうに笑うだけだった。

2019/10/21 転載及び加筆修正

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