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プレアデス  作者: よしながさつき
過去編
28/28

第3話

さくさくと土を踏みしめ、かおるは昨日と同じ森の中の池のほとりに来ていた。


「ーーーおや、本当にきたんだね」


昨日と同じように池のそばに佇む天狐テンコは、台詞とは裏腹に全く驚いた様子はなかった。


「そりゃあ、私の一族は陰陽師だからねえ…。己の吐いた言葉に嘘はつかんさ」


陰陽師とは言葉に霊力を込めて悪鬼羅刹を祓うのだ。

普段から己の言葉を蔑ろにしている者に、強力な術は使えない。

興味なさげにそっぽを向く天狐を気にするでもなく馨は言葉を続けた。


「それで、天狐よ。西国へ行くか?それとも北の山の方へ行くか?」


せめて見送りくらいは、と思って尋ねた馨だったが、天狐は考える素振りも見せずに答えた。


「私はどこに行く気もないよ。この森が気に入ってるからね」


「はあ?」


確かに昨日、馨の言葉に了承した様子はなかったが、本当に全くどこへ行く気もないようである。


「人間風情に私をどうにかできるものか。それに今この土地にはーーー」


「うわあ、お前、面倒な狐だねえ」


はあ、と大きなため息をついた馨は諦めたように座り込んだ。


「それじゃあせめて、その妖気は抑えてくれないか。昨日も言っただろう、近くの村の子供達が怯えているんだよ」


「それで?」


「それで?ってなあ…。子供達が怯えればいずれ大人達が森を焼き払いお前を退治しようとするだろう。それは、お前としても避けたいんじゃないのか?」


「この森を焼き払おうというなら、容赦はしない。それだけだよ」


馨の周りの空気が張り詰め、今にも肌に突き刺さりそうな感覚に陥った。これは、目の前の狐の妖気が強くなっていることに根源的な恐怖を感じているのだ。ーーーどうやら、この狐はこの森を本当に気に入っているらしい。


性別のせいで陰陽師になれないだけで、能力としては申し分のない馨だが、この大妖怪きつねを相手に立ち回れるなどとは思っていない。これ以上の説得は無理だと判断した。


「わかった、わかったから。もう言わないよ…。ああ、子供達になんて言おう…。」


頭を抱える馨を見てさすがに哀れに思ったのか、天狐はぽつりと呟いた。


「理由もなく人間を襲ったりはしないよ」


「何っ!?お、お前……!」


がばりと顔をあげる馨に、思わず天狐は身を引いた。


「お前、いいやつだなあ!」


先程の恐怖はどこへやら、馨は嬉しそうにニッコリ笑って天狐の背中をばしばし叩いた。


「そういうことなら、私が見回りに来て様子を確認しさえすればなんとかなりそうだ!天狐よ。今の話、決して反故にするんじゃないよ!」


これで解決だな!と笑う馨に、天狐を疑う素振りは微塵も無い。

嘘をつくつもりなど無かったが、こうもアッサリ信用されるとも思ってなかったからだ。


興味深げに馨を見つめた天狐は、このおもしろき人間を記憶に留めておくことに決めた。

それは気まぐれか、あるいはなんの制約もないただの口約束を真っ直ぐに信じ、二心を抱くことを一切しない馬鹿正直な人間に興味が湧いたからかは本人のみが知ることである。


「松月の異端の子よ、名はなんと言う?」


「私の名前はかおるかぐわしいと書いてかおるだ。しばらくは顔を合わせる同士、仲良くやろうじゃないか」


アヤカシ相手に名前を名乗るということは本来とても危険な事なのだが、ここでも馨は嘘偽りなく本名を名乗った。

人間とは小賢しく、愚かで矮小な存在だと認識していた天狐にとって馨は、実に興味深い存在なのだった。

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