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プレアデス  作者: よしながさつき
過去編
27/28

第2話

ある日のこと。かおるは都の外にある森にきていた。

この森には人ならざるものが住まうと言われており、ここ最近のアヤカシ達が活発化している原因がここにあるのではないかと考え様子を見に来たのだ。





「姫様!供の者もつけずに森に行くなど危のうございます!」


なーんて屋敷の者達が言ってたけど知らん。そもそも常に屋敷に居る者達の中で、私より強い者が居るわけがない。そんな者が居れば父上や兄上のように、帝にお仕えしているのだから。


森の中には確かに人ならざるものの気配が色濃く感じられるが、悪意や殺意は感じられない。

ーーーこの森は、ハズレのようだな。


しかし…。森なんて久しく歩いてないから何だか楽しい。

気配だけならハズレとはいえ、この森を見回る切欠になったのは村の子供たちなのだから、あの子達に害が及ばないかどうかはっきりさせなきゃならん。森の中の気配を辿るだけでなく、きちんと目で見て回らんことには確証が持てないな。





数日前、薬草を作るためにかおるは都の果ての村に来ていた。


「姫様!姫様!」


「これこれ、あんまり近付くもんじゃないよ。せっかくの薬草がばらばらになっちゃうじゃないか」


「そうじゃなくて!」


いつもなら団子になってじゃれてくる村の子供たちがいつになく焦った様子なので、馨は不審に思いながらも子供たちの話を聞いた。


「森になんかいるの!」


「でーっかい獣!」


「お祓いして姫様!」


「怖いよお」


「よし、わかった。それじゃあ屋敷で準備を整えたら森の様子を見てみるから、私がこの村に戻るまで森に近付くんじゃないよ。わかったね?」








と、この森に来る経緯を思い出していた。

それにしても…でかい獣と子供たちは言っていたが化け狸かか何かか?


森の中に、そんな大きなアヤカシの気配が感じられないからただの狸を子供たちが見間違えた可能性もある。


と、考えていた矢先ーーー。

森の端の方にある池のそばにそれは居た。別に何者かに襲うでも襲われるでもなく、ただそこに佇んでいたのだ。

そこに居るのはただのアヤカシの類ではなく、尾が四股に別れた狐だった。


狐の妖怪ーーー妖狐とは厄介なもので、生きる年数に応じて尾の数が増えていく妖怪なのだが、とにかく強い。普段は1人または2人で妖怪退治にあたる朝廷の陰陽師を総動員してやっと一匹狩れる程度である。

そんなに強い妖怪なのだが、本気で人間を滅ぼそうとした事はこれまでの歴史には記されていない。だから、出来れば妖狐はお祀りして怒りを買わないようにするのが暗黙の了解となっているのだ。人間にとって、対処のしようがない脅威になる前に。


それにしても四尾か…。四尾の狐ならどこかの神社の神かもしれんが…この辺りに稲荷神社なんてなかったはず。という事は、私が来るのを知っててイタチか何かが四尾に化けたか?だとしたら卑怯だが不意打ちでとっ捕まえるか。できるだけ森は荒らしたくない。


「来たれ雷鳴!汝の力を以て我が敵を滅せよ!急急如律令きゅうきゅうにょりつりょうっ!」


「うわっ、ちょ、ちょっと待って!」


「お黙り!」


「うわああ!」


静かな森の中、突如として炸裂する術が近くの木々を揺らした。鳥たちが驚いて木から飛び立つ。

そしてーーー。


「…ああ、痛かった」


前脚で頭を撫でる妖狐は、間違いなく四尾の狐で、イタチや狸が身を守るために化けた姿ではなかった。


「悪いね!本物の天狐テンコだとは思わなかったんだよ」


そう言って馨はからからと笑った。

もちろん、不意打ちでつけてしまった傷は全て治療済みである。


天狐、それは妖狐の中でも最上位の存在である。

そもそも妖狐とは、長い時を生きる中で、霊力を蓄え尾が増えることで妖狐としての格が上がるのである。尾がひとつ増えるだけでも人ひとりの一生より遥かに長い年月がかかるのだ。

従って、今、馨の眼前に佇む狐はゆうに1000年は生きているものと思われる。ただ、最上位の存在とはいえ四尾ならまだ天狐になったばかりのはずーーーと、馨は見当をつけている。


「そういえば天狐、ぬしは何故あんな所にいたんだ?」


「私にも事情があるんだよ」


妖狐はツン、とそっぽを向いた。どうやら触れてほしくない話題のようだった。何か別のことを聞いてみようかと口を開きかけたが、妖狐の問いかけの方が早かった。


「人の子よ。お前が松月の娘だね?」


「いかにも。そちらでも私は有名か」


手持ちの水筒から水を飲むと、馨は自嘲気味に吐き捨てた。


「あの松月の異端の子ならすぐに知れ渡る。あやかしの世も人の世とそう変わらないよ」


「……あやかしの世も、存外つまらん世の中なのだなあ……。

なあお前、お社についてくれる気は無いか?」


「私が?今のところその気はないけども。そこまで人間が好きでもないし」


馨の問いかけに、狐は少しも迷う素振りを見せなかった。

これは説得しても暖簾に腕押しだ。


「…天狐よ、この近隣は民草が暮らしている。私が祓わずともいずれ朝廷が腕のいいのを寄越すだろう。お前が祓われるのも時間の問題だ。祓われたくなくば早々に去ね。私とてお前のように愉快な天狐を祓いたくもない」


「愉快って…私も随分な言われようだね」


それを聞いて馨はニヤッと笑い、立ち上がった。


「明日、今と同じ時間にまた来る。それまでに新たな宿り先を探せ、天狐。わかったな」


そのまま馨は振り返ることなく立ち去っていった。天狐はその後ろ姿を見送ると、ふっと姿を消した。


ーーーーーこれが馨と天狐の出会いだった。


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