第25話(終)
「…思う?」
涙を拭って私は上目遣いに恐る恐る昴を見上げた。
昴の表情はさっきと変わらず、何を考えているかはわからない。
「実は、よく解らなかったんだ。馨と話す時間は1日の中で一番大切な時間だけど馨姫と居たような懐かしい気持ちにはならなかったし、でも1日と離れていられないような、そんな気持ち」
「……?」
「でもそれは、馨に新たな名前をつけてもらった時解ったんだ。馨も馨姫も私に同じ『すばる』の名をつけたけど、2人は全く違う思いでその名をつけてくれたから。だから、例え2人が同じ名を私に与えたとしてもそれは全く違う言霊の宿った言葉。だから、馨の呼ぶ『昴』と馨姫の呼ぶ『すばる』は違う言葉。音は同じでも言葉の意味も、こめる気持ちも、全くの別物。」
昴の言ってる事が本当なら、私は、私はーーー。
「私は、昴にとって、馨姫とは違う?私が昴に昴と名を付けたのも、前世の遺志じゃなくて、ちゃんと私がつけたもの…だよね?」
「うん。だから、馨が馨姫の生まれ変わりで魂が同じって言っても全くの別人だよ」
「ほんとに…?」
「うん。だから、私は初めて馨に昴と呼ばれた時確信したんだ。
私は、馨という人が好きなんだって事。馨という人格が好きだって事。馨の声も髪も顔も、考え方も好き嫌いも、全部。」
思わずボーっと昴を見上げる私の髪を梳いて、すこしして昴はまた口を開いた。
「全部ひっくるめて、馨という1人の人を愛してるんだって事」
「昴…」
「ごめんね、馨姫の事を今まで黙ってて。私のせいでこんなに不安にさせてしまって」
「う、うわああああああ…うわああん」
もう我慢できなくなって声を上げて泣いてしまった私を、昴はごめんねといいながらあやすように抱き締めた。
しばらくしてようやく落ち着いてきた私は昴に背中をさすられながらやっぱりボーっとしていた。なんだか急に状況が動き始めたから私だけ置いていかれそうな感じ。
「大丈夫?落ち着いた?」
「…うん。ありがと」
「良かった」
昴は笑ってるけど私やっぱり謝った方がいいよね。いきなり逃げ出しちゃったわけだし…。
「あの…昴、私…その、」
「何?」
今更このタイミングで謝るとかすごい恥ずかしい。昴は笑いながら私の髪を離し、涙の跡を拭った。さっきから泣いてばっかだからふいてもらってばかりだ。
「昴も辛かったのに、さっきは一方的に言ってばっかで挙げ句の果てに逃げ出したりしてごめん」
そう言うと昴は困ったように笑った。なんだろう。なんかした?
「私はそれ、ちょっと違うと思う」
「え、」
「今はもっと、違う事言わなきゃ、ね」
「あ、あー…」
昴に意味ありげな目線で見られてやっと気付いた。いや気付いたけど今ここで言うの?後じゃだめなの?
「馨」
ああもう!恥ずかしいんだからこれっきりもう言わない事にしようそうしよう!
「…私も、昴の事、好き。大好き」
そこまで言うと昴はやっと満面の笑みになって私を抱き上げた。
………抱き上げた?
「いやいやいやいや、ちょっと待ってよ!何するつもり?」
「怪我、診てもらわなきゃ。馨の足痛そう」
そう言うなり昴は私をどこかに運ぼうとしている。
「ちょっと待ってそっち私んちぃぃぃぃ!!」
「いいじゃないか。ついでに挨拶できるし」
「やめてやめて!本当に待って!やめて!ねえ!!」
「あっはっは」
「おろしてえええ!!」
私の心からの叫びは受け取られることなく森の中に響き渡るのだった。
ーーーー斯くして、ちょっと変わった女子高生馨、私の物語はハッピーエンドを迎えます。
今回私が学んだ事、それは1人で生きていけないのは人間だけじゃないんだって事。
動物だって怪だって誰かと支え合って生きてる。支え合って生きて、ひとつのまとまりになるんだ。
そう。夜空に浮かぶ、六連星のように。
え?結婚の話はどうしたかって?
残念、物語はここまでだからご想像にお任せします。
それじゃあまた会う日まで。
END.
2019/10/21 転載加筆修正
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!