第14話
「ここがそのファミレスだよ」
「へえ、きれいな店だね」
「でしょ?いろんなメニューが安いしおいしいからたくさんの人に人気なんだよ」
店は夕飯時でとても賑わっていた。平日だが家族連れもちらほら見える。だがしかし客層のメインは高校生や大学生であるせいか、そういった面々が数多く見受けられた。
「制服はちょっとまずかったか…」
「なんで?」
「知り合いに見つかったら気まずいし…」
「?」
「私が気まずいの。ま、ここ窓際だけど角の席だからそんな目立たないし、ゆっくり食べていこうか」
「そうだね」
「昴、どれがいい?」
「馨のおすすめが食べたい」
「うーん…ハンバーグセットはどうでしょう」
「うん。それにする」
「じゃあ私はオムライス!」
注文を済ませた2人は他愛もない話で盛り上がっていた。今までは馨の両親も居た手前、昴も気を遣っていたが今はその必要が無いため大分ゆったりとした様子だった。
「お待たせいたしました」
「へえ…すごい」
「ごゆっくりどうぞ」
「ありがとうございます」
運ばれてきた料理に目を丸くし、配膳してくれた店員に丁寧きお礼を言う動作がなんとなくおかしくて馨はクスクス笑った。ナイフとフォークは使えないので、箸で食べるように箸だけを手渡し、自分の分のスプーンをとりだした。
「すごい、火にかかってないのに熱いね」
「プレートがまだ熱いからね。気を付けて」
「いただきます」
昴にとってはじめて見るこの食べ物はまだ熱く、昴は苦戦しながらも一口食べた。
「どう?」
馨が恐る恐る聞いてみると、昴は徐々に柔らかく微笑んだ。
「……おいしいよ」
「!よかった」
昴が微笑んだのを見て馨も安心したように笑った。それからも特別ではないいつものような話題で2人は盛り上がり、食事を終えた。
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした。おいしかったね」
「うん。ありがとう、馨」
「いいよ。また来ようね」
そう言いながら馨はレジで2人分の会計を済ませ店を出ようとした。その時だった。
「…先輩?」
「え?」
「あ、やっぱり先輩だ!久しぶり先輩!」
「千尋くん?なんでここに?」
ドアに手をかけた昴と馨の背後から声をかけてきたのは馨の2歳年下の相田千尋だった。
「俺もここで友達と晩飯食ってたんだ。先輩、そっちの人は?」
「とっ、友達だよ友達!」
私の奥さんになんの用ですか?と聞きそうな雰囲気だった昴を視線で制して馨は苦し紛れの嘘をついた。
「へえ…友達、ねえ?」
「な、なんかおかしい…かな?」
千尋は訝しげな視線を馨に向けた。千尋は何事にも鋭いタイプなのだ。
「いや?実は俺、今先輩達の事見てたんだけど…先輩が2人分の会計してたじゃん?」
「そ、そうだね」
千尋は今度は鋭い視線で昴を見据えるた。
「何?あんた、先輩のヒモ?」
「紐?」
「ああああ違う違う!違う千尋くん!ちょっとこいつ今日財布忘れちゃったとか言っててさ、ヒモじゃないんだよ」
「本当に?」
「ほんとほんと」
「ていうかなんでそんなに必死なわけ?」
「え、いや、別に…」
しどろもどろな馨に対して千尋はため息をついた。そして顔をあげるとまたも鋭い視線と鋭い語調で昴に告げた。
「ねえあんたさあ、先輩の何なのか知らないけど先輩にひっつくのやめてくれない?」
「何故」
語尾に疑問符がつかないところを見ると温厚な昴が珍しく不機嫌になっているのだろう。
こんな昴は見たことがない。ここはさっさと家に帰るべきじゃないのだろうか、内心大慌ての馨は今にも前に出そうな昴の腕に手をかけた。
「なんでって簡単な事じゃん。俺が先輩を好きだからさ」
「…………は?」
馨は素っ頓狂な声を上げた。本気で予想外だったらしい。昴に至っては口をあんぐりとあけている。
「こんなヒモやめて俺にしなよ、先輩」
「え、いや…」
「っと、俺の用件はこれだけだから。じゃあまた明日、学校でね」
そう言うと千尋は挑戦的な笑みを浮かべて席に戻っていった。
残されたのは、驚きと戸惑いで放心状態の馨と、珍しく不機嫌な昴の2人だけだった。
2019/10/21 転載及び加筆修正