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第10話

「昴、いい?人間の姿で外を出歩いちゃだめだからね。外に出るときは人に姿が見えないようにするんだからね」


「子供じゃないんだし、一回言われればわかるよ」


「言っても聞かなさそうな分子供より心配なんだって…」


翌朝、制服を着て自転車も準備した馨は玄関の前で昴に人間の姿で外を出歩かないように言い聞かせていた。昨日の時点で商店街のおおよその人に昴と馨の関係が知れ渡ったからだ。


しかも馨としては、その関係というのも昴が勝手に馨を未来の奥さん呼ばわりしているだけで自分は未承認なのである。だがしかし商店街の人は馨の否定を恥ずかしがっているんだろうと間違った方向に認識しているのだ。


「全く…昴が会う人みんなに勝手に奥さん奥さん言うから…」


「間違ってはいないはずだけど」


「その認識からが間違いだ」


馨は頭を抱えたが昴はいつものようにニコニコ笑っているだけだった。この分では人間に化けて外を出歩くのも時間の問題だろう。


「そういえば馨、時間大丈夫?」


「あ、大丈夫じゃない!行って来まーす!」


「気を付けるんだよ!」


馨を見送った昴はふと考えた。

さて、これから何をしよう?



いつもより遅い時間に家を出た馨はとにかく自転車をこいだ。いつもだってそこまで余裕を持って登校してるわけではないので今日はもしかしたら遅刻してしまうかもしれない。


「急がないと…!」


飛ばしたおかげでいつもの時間に学校に着くことができた。息を切らしつつ通い慣れた校舎を歩き教室に入った。


「お、おはよう…!」


するといつもは座ったまま挨拶を返すクラスメイトが馨の所に近寄ってきたのだ。


「おはよう馨!」


「聞いたよ、馨!彼氏いるなら紹介してよ!」


「イケメンの彼氏がいたなんて知らなかった」


「しかも婚約までしてるんでしょ?」


「羨ましいなあ」


「……はい?」


一度にポンポンポンポン言われて思わず目が点、言葉に詰まった。


「照れてんの?」


「早く暴露しちゃいなよ!」


「ていうかさ、」


ようやく馨は口を開いた。一気に場が静まる。


「私って…彼氏いたの…?」


「…は?」


唖然とするのはクラスメイトの方だった。


「え、いや、マジ?」


「うん。私彼氏なんて居なかったはすだけど」


「水くさいなあ、馨は。昨日一緒に買い物してたじゃない」


「…ゆ、ゆりちゃん…」


「忘れたとは言わせないからね」


「……あ、あ、ああああ!!」


馨はそこでやっと合点がいった。


昴だ。昴のことだ。彼氏なんて言われたからナチュラルに忘れてた。

この場に昴が居なくて良かった。昴が聞いたら小躍りして喜ぶに違いない。いや、もしかしたら未来の奥さんと訂正する可能性だってある。


「馨?」


「あ、いや、あいつは別に彼氏とかそんなんじゃなくて…」


「またまたー!彼氏じゃなかったら同棲しないでしょ普通は!」


ゆりちゃん…!頼むからこれ以上みんなが喜ぶネタ提供やめて…!

もう同棲って聞いた途端にみんなの目の色変わったもん…。


「馨、同棲って?」


「一緒に住んでるの?」


「でも馨は一人暮らしじゃなくない?」


「じゃあその彼氏って親公認!?」


「すごーい!」


「……………」


彼氏ってとこを除けば合ってるだけに何も言えない。もしバレたらまためんどくさくなるし…。

そしてこのみんなの表情ときたら!なぜこんなにも生き生きしてるんだろう。


「だからね、みんなよく聞いて。あいつは私の彼氏じゃな…」


キーンコーンカーンコーン…


「あ、予鈴だ!」


「ホームルームはじまるじゃん」


「この話の続きは休み時間にゆーっくり聞くからね!」


「まじ……?」



朝のホームルームが終わり、授業も終わり、馨はとにかく質問責めにあった。

彼氏の名前は?いくつ?何してる人?出会いはいつ?何年付き合ってんの?


「疲れた…」


「おつかれー」


昼休みにも質問質問質問。なかなか離してくれないクラスメイトに、ご飯を食べたいからと言ってようやく屋上まで抜け出してきたところだ。


「沙知絵も止めてよ!私見てたんだからね、沙知絵が後ろの方でニヤニヤしてたの」


「あはははは」


ケラケラ笑っているのは馨の友人、進藤沙知絵である。ざっくばらんな性格、さっぱりとしたショートカット、涼し気な目元。その凛とした姿から男子だけでなく女子からの人気も高い。

おっとりした性格でほわほわした雰囲気の馨とは反対のタイプである。その沙知絵と並んで馨も人気が高いのだが本人は自覚したるところか。


「それで?本当に彼氏なの?」


沙知絵が笑いながら尋ねるのを馨は沙知絵の隣に座り込みながら言った。


「沙知絵まで何言うの。違うよ。多分」


「多分?」


「いや…同居はしてるからさ」


「赤の他人が同居?下宿みたいなもんかしら」


「うん。まあそんな感じ」


弁当を食べながらゆっくりと馨は答えた。

だがしかし下宿という言葉はどうにもしっくりこない。


少し考えるふうをした沙知絵は合点がいったようにそれなら、と楽しそうに口を開いた。


「私がそのイケメン狙っちゃおうかな」


「ダメだよ!」


「あら、なんで?」


馨にもなんだって自分がこんなに大きな声で即答できたのかわからない。馨は慌てて即答した理由を探した。


「だって…いや、その、あ、ほっほら!!沙知絵彼氏居るでしょ!ダメだよ彼氏居るのに二股しちゃ!ね?」


「ふうん」


その後何を言っても沙知絵はニヤニヤと如何にも面白そうに笑うだけだった。

2019/10/21 転載及び加筆修正

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