なんだ? Ⅱ
紗香は秋一の方を見た。
「あんた、怪我させたりしてないでしょうね」
「そんなことするかよ。怪我したらしたで今頃泣いているっつーの」
秋一は言った。
「それもそうね……。それならさっさとお風呂に入ってきなさい」
「はーい」
秋一は、汚れた服を脱ぎながら風呂場に向かった。
その日の夜————
「ふわぁー」
秋一は勉強机に向かいながら大きな欠伸をした。
「どうしたんだ? 秋一」
部屋には祐貴が来ていた。
「疲れて眠いんだよ」
「そうかい」
祐貴は、秋一の部屋に置いてある漫画本を読みながら横になっていた。
「それで今日はどうだったの?」
「6―1で勝ったよ。明後日が二回戦」
「ふーん。今年の西高ってどこまで行けるの?」
「良くて決勝、悪くてベスト8ってところかな」
「大きく出たね……」
「まーな。これでもうちは県立高にしてはそこそこ強いからな」
祐貴は漫画本を閉じると、床に置いた。
「私立校は県外から補強しているから強いからね」
「そこなんだよ。私立は金を持っているからいい選手を獲得できる。だが、県立高は受験して、入部してきた生徒でベストメンバーを構成するから甲子園に行くのに難しい。特に進学校や偏差値が高い学校は、もっと難しい」
祐貴は秋一に分かりやすいように説明する。
「明後日の相手は?」
「中央高校」
「あそこ勝ったんだ」
「奇跡だよ、奇跡。3―2で勝ち上がった」
「へぇー」
「そういや、今日何かあったような気がするんだが……」
祐貴はふと何か思い出したかのように言い出した。
「ああ、今日はサッカー日本代表のテストマッチじゃなかったっけ?」
「それだぁあああああ!」
祐貴は秋一の部屋に置いてあるテレビの電源をつけるとチャンネルを変え、サッカーの試合を見始めた。
「げっ! 0―1でアルゼンチンにリードされているじゃねぇーか‼」
試合は前半残り十分で日本代表が負けていた。
祐貴は、大声で叫び必死に応援した。
「上、騒がしいわね」
紗香が、洗濯物を畳みながら言った。
「そう言えば、今日は祐兄が楽しみにしていたサッカーの試合だよ」
「あ、そう……」
美咲が答えると、紗香は録画していた番組を見ながら洗濯物を畳んだ。