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Epilog スタートライン

次回更新については活動報告を

 ……胸に重みを感じる。

 そういやデュラハンの奴、何回も刺してきたからな。ゲームとはいえ後遺症でも残ったらどうするんだよ。

 というか、本当に後遺症が残ってないか? 胸が結構しんどいんだが……。


 まぶたを開ける。

 胸にあるのははしばみ(・・・・)色の塊。

 ……ユエちゃんか。


 ということは俺、一度死んで戻ってきたのか? でも確かリスポーンは開拓使の安置所のだったはずなんだけど……。


「……う、……うん」


 椅子に座り、俺の胸にうずくまるようにして寝ていたユエちゃんが身じろぎをした。

 ……ふむ、起こさないよう、もう少し静かにしてるか。考えることならたくさんあるし。


「……うにゅぃ」


 努力もむなしくユエちゃんの目がパチリと開く。

 ……あ、目が合った。


「…………」


 つい目を閉じてしまう。


「……あれ、お兄ちゃん気がついた? でも寝てる? う~ん」


 再び胸に重みがかかる。

 様子をうかがうため、そっと薄目を開いた。


「あーー、やっぱり起きてるー」


 しまった、また目が合ってしまった。


「もーー、起きたなら起きたっていってよ、心配したんだから。もー、もーーー」


 牛みたいにうなりながら、ぽかぽかと胸をたたいてくる。

 なんだかちょっとおかしくて、くすりと笑ってしまう。


「もー、何笑ってるの。怒っちゃうんだからー」


「あはは、ごめんごめん」


 ユエちゃんの頭をなでた。

 相変わらずもーもーとユエちゃんは言っている。

 ユエちゃんには悪いが、ちょっと笑ったおかげで、戻ってきたっていう実感がわいた。


「んもーー」


 ユエちゃんが頬を膨らませながら立ち上がった。


「ごめんってば」


 再度謝る俺に対し、ユエちゃんは笑いかける。


「…………ううん、いいの。お兄ちゃん元気になったし。お父さんとお母さん呼んでくるね」


 扉を開け部屋から出て行く。


「心配かけちゃダメなんだからね。もー」


 あはは、まだ言ってる。




 

 ……さっきユエちゃん、お父さんとお母さんを呼んでくるって言ってたよな。

 ということは二人とも無事だったって事か。

 よかった。最後まで見届けずに倒れたからな。ああは言ったものの心配だったんだ。


 顔を横に向けるとボロボロになった服がたたまれている。

 これだけ見ても、激闘だったんだなってのがわかる。

 なんだか他人事みたいだけど、正直実感沸かないんだよね。


 それよりも、このボロボロになった服、どうしよう。直せるのか?

 直せるにしろ直せないにしろ、店に持って行ったら怒られるよな。

 俺、店のおに、いやおねぇさん苦手なんだよな。


 ……よし、嫌なことは後回しにしよう。

 それよりもクエスト報酬を見ようじゃないか。


 ……ふむ。レベルが上がってるのと、ユニーククラスの解放。それに伴うヘルプの追加か。

 クラス名は《ツクモツキ》。《ウェポンマスター》からの転職が可能。この転職はどこでもできるのね。

 そして待望の戦闘職。とはいえこれ、なかなかにピーキーじゃないか?

 とりあえず転職は保留だな。

 ……あっAPも7もらえてる。これもとりあえず保留っと。


 デュラハンからの素材は無し。ま、剥ぎ取りしてないからこれは仕方ない。


 そして最後にエリア解放報酬……。

 報酬内容は〈テスキヨ湿原の鍵〉と〈ランダムボックス〉。

 〈ランダムボックス〉はわかるんだよなぁ。ようは何かしらのアイテムがランダムで手に入るんだろう。リアルラックのない俺にとっては微妙なものだけど。

 問題はこの鍵だ。テキストには「現在使用できません」とある。


 ……わからん。

 こんな時はフジノキだな。早速連絡をって、うおっ。……メールが一杯届いてる。


 なになに? ああこれはカネティスからか。

 夜連絡が取れなくなった。安置所にリスポーンした体がいつの間にかどこかに運ばれている、等々。


 ……心配性だな。とりあえず無事って事と妖精のとまり樹亭にいることを伝えておけば良いか。

 後フジノキにはエリア解放と鍵の憲を聞いておくとしよう。

 とりあえず今できるのはこんな所かな。


「う、う~~ん」


 大きくのびをする。


「お、大丈夫そうじゃねぇか」


 ノックの音とともにおっちゃんが部屋に入ってきた。

 ソレイユさんとユエちゃんも一緒だ。


「まぁ、とりあえずこれでも食べな」


 おっちゃんの持ってきた盆の上にはどんぶりが、中にはとろりとした黄金色のかゆが入っていた。

 真ん中の三つ葉の青も鮮やかなたまご粥だ。

 箸をとり早速食べ……、おっちゃんの視線が気になる。


「もう、お父さん。お礼を言うんじゃなかったんです?」


 ソレイユさんがたしなめるように言った。


「お、おう。いやコダマが飯を食ってから言うつもりだったんだよ」


「そんなこと言って、急に恥ずかしくなったんでしょう。だいたいそんなに見てたらコダマ君だってご飯が食べづらいでしょうに、ねぇ」


「え、ええ」


 ソレイユさんに水を向けられ、ついうなずいてしまう。

 それを見て、おっちゃんはくしゃくしゃと頭をかいた。


「あーもう、わかったよ。コダマ、お前のおかげで俺たち三人の命が助かった。ありがとう、この通りだ」


 おっちゃんが深く頭を下げる。


「え!? いや俺は……」


 言いよどむ俺に待ったをかけ、おっちゃんは続ける。


「飯食いながらでいい、聞いてくれ。コダマが来なかったら俺たちの命はなかった。それは明らかだ。ユエだって命は助かっても自由のない生活が待っていた。それを救ってくれたのはお前なんだ、ありがとう……」


 ……そうか、俺やったんだな。

 二人を助けるって約束を守れたんだな。笑顔を守れたんだな……。


 自然と涙がこぼれてきた。


「あほう、お前が泣いてどうするんだよ」


 そういうおっちゃんこそ目尻に涙が浮かんでる。


「んひひ、お父さんも泣いてる。もー、こんな時は笑わなきゃダメなんだよ」


 ユエちゃんも泣き笑いだ。

 はは、そうだよな。そうなんだよ。これを見たかったんだ……。



 ひとしきり泣いて笑って、おかゆを食べ終わったところでおっちゃんが、さてと切り出す。


「まずはこいつをコダマに渡さねぇとな」


 ゴトリと机に置かれたのは剣と銃。レントゥスとフォルティスだ。


「助けてもらった礼ってわけじゃないが受け取ってくれ。こいつらだって飾られてるよりコダマに使われる方が良いだろ」


「わかりました。ありがとう」


 これはありがたい。早速手に取り、クラスも《ツクモツキ》に転職させる。

 とたん、頭に声が響く。


『ハッ、感動の再会が泣き顔とわね。戦ってるときはちったぁましだと思ったが、軟弱な坊やに逆戻りかい?』


『そう言ってやるなフォルティス。それよりも私は、協力した我々に礼の一つも無いのが気になるがね』


「うるさい」


 つい荒げた俺の声に反応するユエちゃん。


「何? どうしたのお兄ちゃん」


「あ、ごめん。ユエちゃんにじゃないんだ。こいつらがいきなりしゃべってきて……」


「え!? お兄ちゃん、このことお話しできるの? すごーい」


 ユエちゃんが驚きの声を上げる。というか銃と剣を相手にこのこ扱いか……。将来は大物だな。


『ふむ、なかなかに見所のあるレディだ。このレディの笑顔を守るために戦ったのか。紳士として、とりあえずの合格点をやろう』


『あーもう、うるさいな。ちょっと黙っててくれ』


『仰せのままに』


 レントゥスとの会話を無理矢理打ち切った。


「驚いた。そいつらと会話ができるのか。爺さんと同じだな。ますますその武器を持ってもらわないと」


 おっちゃんは納得したようにつぶやきながら、さらに机の上にゴトリとものを置いていく。

 黒い金属と、禍々しい瘴気を帯びた剣だ。


「こいつらはデュラハンから剥ぎ取れたもんだ。俺らが持っててもしょうが無いし、コダマが持って行け」


「えっと、いいんですか?」


「いい、いい。邪魔なだけだ。……あー、その剣な装備するのはやめておけよ。明らかに怪しいからな」


 確かに見るからに怪しいよな。剣の方は気をつけて道具袋に放り込む。

 黒い金属は……、〈魔化鉄〉か。これは素材になるのかな? とりあえず道具袋にぽいだ。後で詳しい奴に聞こう。フジノキとかトライゾン案件だな。


「あ、そうだ。俺の方はこんなのが手に入ったんですけど」


 そう言って取り出したのは〈テスキヨ湿原の鍵〉と〈ランダムボックス〉だ。

 おっちゃんに見せてみる。


「お、〈ランダムボックス〉じゃねぇか。開けてみな、良いのが出てくるかもしれねぇ。こっちの鍵は……、よくわからんな」


 鍵についてはおっちゃんも知らないのか……。

 ボックスについては予想通り。とはいえリアルラックのない俺にとってはなぁ……。

 ――そうだ。


「ユエちゃん、これ開けてみない?」


 ユエちゃんにボックスを渡してみる。

 良いの? という目で俺とおっちゃんを見る。


「おっちゃん、危ないものが出るって事は無いですよね」


「あ、ああ……。大丈夫だが、獣魔とか出たらどうなるかわからんぞ。ユエになつくかもしれねぇ」


「それならそれでいいですよ。どうせ俺が開けてもろくなもんでませんし……」


 ユエちゃんを促すと、戸惑ってはいたがうなずいてくれた。


「わかった。それじゃあ良いの出すね。とぉおお」


 変なかけ声とともにボックスが開かれる。

 そこには…………、こぶし大の大きな木の実があった。

 木の実と言っても食べられるような感じじゃない。ゴツゴツとして堅そうだ。


「おっちゃん、これって食べられます?」


 おっちゃんは呆然としている。


「…………こいつは」


「おっちゃん。さすがにおっちゃんでもこれを料理はできない?」


「おいおいおめぇ、こいつを食べるなんてとんでもねぇよ。こいつは妖精樹のタネだぜ」


 妖精樹っていうと、この店に絡まるように立ってる樹のことだよな。

 確かおっちゃんたちが手に入れた苗木をこうしたんだっけか?


「……いや、種から育てるには人が手を入れたらダメなんだったか? 純粋なものの手がどうとか……」


 何やらおっちゃんはぶつぶつ言っている。

 ユエちゃんはこちらを不安そうに見ていた。


「ありがとユエちゃん。おっちゃんが困るくらいには貴重なものみたいだ。大切にするね」


「んひひ。よかった、お兄ちゃん」


 これもとりあえず道具袋にぽいだな。どうして良いかわからん。


「おま、そんな無造作に。……いやいい、俺もどう対処したら良いかわからん。それよりも、だ」


 おっちゃんが居住まいを正した。


「最後にお前にやるものがある。……この“妖精のとまり樹亭”だ」


「…………はぁ?」


 おもわず聞き返してしまった。


「正確に言うとコダマとユエ、二人のものだな。デュラハン相手に戦うとなると十中八九死んじまうと思ってな。権利をお前ら二人に委譲しておいた」


 おっちゃんの言葉に呆然としてしまう。

 対してユエちゃんはむくれ顔だ。


「もーー、死ぬとか言っちゃダメなの。もー」


 おっちゃんをぽかぽかとたたいている。


「わかった、わかったからユエ。ちょっと母さんのところへ行ってな」


「はいはい、ユエはこっちに来なさい……」


 ソレイユさんがユエちゃんを抱きしめる。

 ユエちゃんはまだもーもー言っているようだ。


「ま、そんなわけでだ。この店はお前らのもんだから。好きにするといい。別に売っちまったってかまわねぇぜ。俺らは店がなくても生活には困らねぇ」


「いや、いやいや。何を言ってるんだおっちゃん。せっかくお客もついてきたところだったのに」


 おっちゃんはポリポリと鼻をかきながら答えた。


「いや、まさかお前らが客を集めるとわな。予想外だったわ」


 ――なっ。ということは最初から死ぬかもしれないって思ってたって事か。


「まぁ、店を続けるならそれでもいい。飯作るのは好きだからな。他に何かやれってんなら何でもするぜ。どうする?」


 おっちゃんがどちらでもいいと告げる。

 そりゃもちろんおっちゃんには店を続けてほしいんだけど……。なんかしゃくに障るというか。思い通りにしたくないって思いが頭をよぎる。

 …………どうしようか。

 ……そうだな、こんなのはどうだろう。


「もちろんおっちゃんに店を続けてほしいです」


「そうか」


 おっちゃんは笑顔だ。なんだかんだ言って店を続けたいんだろう。でもそれだけじゃ済ませないぞ。


「ただ……、一つお願いがあるんです」


「……なんだ?」


 いぶかしげな顔のおっちゃん。


「いや何、簡単なことです。俺宛にいろんな依頼来てますよね。おれ、これから全部は受けられなくなりそうなんです。だからその依頼を俺以外の受けたい人に割り振ってもらえないかなぁと」


「――なっ、そいつは」


 言いよどむおっちゃん


「もちろんユエちゃんも賛成してくれたらですけど、かまわない?」


 ユエちゃんに聞くと、うんと頷いてくれた。


「みんなにもお兄ちゃんのお手伝いをしてもらうようにするの? さんせーい。お父さんも良いでしょ?」


 さっきまでのむくれ顔が一転笑顔になってる。


「いや、しかし……」


 なおも言いよどむおっちゃんに、ソレイユさんが語りかける


「あなたの負けですよ。何でもするって言ったんですから……。私も手伝いますから、ね?」


 その言葉に背を押されたのか、おっちゃんは不承不承頷いた。


「わかった。……わかった、やってやるよ」


 おっちゃんがさしだしてきた手を握り握手を交わす。

 契約成立だ。


 その時、ピリリリリと音がした。見るとフジノキからメールが届いている。


『みんなで店まで来たんだけど閉まってるよ。もし大丈夫なら開けてほしいな』


 ……おお、わざわざ来てくれたのか。


「おっちゃん、もしかして店閉めてます?」


「ん? ああ、店の権利を譲った手前、勝手に開けるわけにもいかんかったからな」


「……えっと、友達が来てるみたいなんで、良かったら開けてきてくれません?」


「なるほどな、ちょっとまってな」


 おっちゃんは立ち上がり階下へ向かう。

 途中、階段の降り際でこちらを振り向いた。


「あ、そうだコダマ。もういい加減その気色悪い敬語をやめろ。似合ってねぇし、何よりもう……、家族みたいなもんだろうが」


 吐き捨てるように言って足早に降りていった。


「…………」


「あーー、お兄ちゃん、かお真っ赤ーー」


 ユエちゃんに指摘されるも、仕方ないじゃないか。恥ずかしいに決まってる。

 どうせおっちゃんの顔も真っ赤になってる。


 そんな俺を、ユエちゃんとソレイユさんが笑う。


 階下のドアを開けたのだろうか、下からもわいわいと声が聞こえてきた。

 キツネさんやカネティスの声が聞こえる。

 あれ、この声は服屋のおねぇの声じゃないか……。やばい、服のことどうしようか。



 ……このゲームを始めて、最初はどうしようかと思ったけど。いろんな人に会って、教えを受けて、そのおかげで今ここにいることができた。

 多分、今ようやくスタートラインに着いたばかり何だろう。

 だけどこんなみんなに笑ってもらえるスタートって、それはそれでいいもんじゃないかって、そう思った。


 さあ、冒険の始まりだ。

エル:一章の終わりだよー。

エル:戦闘シーンで口を挟む勇気は無かったから黙ってたんだよー。

エル:とはいえ、ここでいったんお別れ、次は二章でねノシ

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