第十六話 サイレントスコープ
ごめんなさい、短いです。
明日も同じ時間に更新予定です。
生ぬるい風が吹いている。
まぶたを開けると湿原が広がっていた。
雲一つ無い満月のせいか、周りはしっかりと見える。
湿原と言っていたから足場が悪いかと思っていたが、そうではなく所々に沼地がある以外はしっかりとしている。
「Kakakakakakakakakaka」
不気味な声が響き渡る。
と同時に、ガアァンと大きな音が聞こえてきた。
「向こうか」
音はまばらに生えた木の向こう、ここからは死角となった位置から聞こえてくる。
次いで聞こえる剣戟の音。……おっちゃんたちはまだ無事のようだ。
急いで向かおうとする俺を細剣が止めた。
『待ちたまえ。もしや何の準備も計画も無しに向かおうというのかね? 網無くして淵にのぞんでも、望む大魚は得られまいよ』
一体何のことだ?
疑問に思う俺に銃が告げる。
『はっ、レンは相変わらずわけのわかんねぇ例えを出す。おい小僧、相手はデュラハンなんだろう。歩きながらでも良い、勝ちたきゃアタシ達の話を聞きな』
促されるままに歩きながら二人の話を聞く。
『まずはクラス、スキルの確認をすると良い。我々に先代の力が少し残っているせいだろう。使えるスキルやアーツがあるはずだ』
……確かにレントゥスが言うとおりいくつかのスキルやアーツが確認できる。中には短剣系のアーツまであった。
『それじゃあ次はアタシだな。アタシには今二つ弾が込められている。どっちも先代が魔力を込めた弾だ。威力を出そうと思ったら溜めに時間がかかるが、聖属性のダメージを与えることができる。うまく使いな』
『ふむ、デュラハンが相手では、私だといささか決定打にかけるからね。ここはフォルティスに任せるとしよう。さて確認はすんだかね? では敵とのご対面だ』
木々が開ける。
そこには、少し離れた位置で馬上騎士と打ち合うおっちゃんがいた。
3メートルはあるだろうか。騎士は鎧も馬も黒く彩られ、かすかな瘴気すらまとっている。
あれがデュラハンなのだろうか。馬の首から先はないが騎士の方はしっかりと兜を装着していた。
打ち合うおっちゃんは、見るからにダメージを受け満身創痍のていだ。
後ろに倒れたソレイユさんをかばっているせいか、うまく相手の攻撃をさばけていない。
思わず駆け出そうとした俺をフォルティスが止めた。
『まちな! 相手はこちらに気づいてないんだ。ちょうど良い、ここから狙え』
「――なっ。早くおっちゃんを助けに行かないと」
『ハッ』レンティスが鼻で笑う。『今小僧があそこに行って何になる。レンも言ってるだろ。決定打を持ってるのはアタシだってな。それに溜めが必要って言うのもな。それともなにかい? 今のお前にあいつの攻撃を捌きながら溜めを作れる実力があるとでも言うのかい?』
……くっ。
『私としては、不意打ちなどと言うスマートさに欠けることはしたくないのだがね』
『レンは黙ってな、勝ちゃ良いんだよ』
『仰せのままに、レディ』
『――ちっ。小僧もさっさと構えな。早く助けたいんだろ? 狙って魔力をチャージしろ』
言われるがままフォルティスを構える。
弾はすでに込められている。後は魔力を込めるだけ。
……どうすれば良いのかはわかる。弾に込められた先代の魔力に俺のを這わせ、一つにしていく。
『わかってるじゃないか。よーし、それでいい。他人の作った弾を十全に扱うにはその作業が必要だ。その代わり、今のお前じゃ撃てない弾を撃つことができる。後はイメージだ。一体どんな弾を撃ちたいのか。それをしっかりイメージしろ。今なら弱点なんて関係ない、当たれば一撃さ。それとここからは念話だ。使えるはずだよ』
『わかった、これでいいか』
『そうだ。ふん、なかなか飲み込みも早いじゃないか』
デュラハンに狙いをつける。
おっちゃんとの戦いはデュラハン優位で進んでいた。
馬に乗っているというのもあるし、何より後ろをかばって戦ってるせいもあるだろう。
すでに体は傷つき満身創痍のていだ。
『まだか?』
『まだだ、待ちな』
気がせいる。
デュラハンの持つ剣が、おっちゃんのオノを大きく打ち据えた。
オノが手を離れ飛んでいく。
――ぐっ
『まだ、もう少しだ。それよりもどんな弾を撃ちたいか。ちゃんとイメージしときな』
……俺の撃ちたい弾は何だ?
フォルティスは当たれば一撃と言っていた。なら求めるのは確実に当てること。
あいつから見つからずに、その胸を打ち抜くこと。
デュラハンが二人から大きく間合いを取った。
「Kakakakakakakakakaka」
どこからか聞こえてくる奴の笑い声。
奴が馬を走らせる。狙いは……。
狙いはソレイユさんの方だ。あいつ、後ろに狙いをつけやがった。
焦ったようにかばいに向かうおっちゃん。
それを嘲笑するかのように、奴の笑い声が響き渡る。
丸腰のおっちゃんができることは少ない。
――早く、早く撃たせてくれ。これじゃあ間に合わない。
馬が、騎士が二人に迫る。あと少しで奴の間合いだ。くそっ。
『……よく我慢したね。撃ちな――』
待ちかねた言葉が聞こえた瞬間、指が引き金を引いた。
《サイレント・スナイプ》
意外なほどに音もなく、光もなく、弾はデュラハンめがけてただまっすぐに進む。
月が陰ったのか、数瞬の暗闇のあと視界が明けると、デュラハンは馬から落ち、倒れていた。
馬も崩れ落ちる様に倒れる
「誰だ!?」
おっちゃんが声を上げ辺りを見回す。
こちらを見つけ驚くおっちゃんに、軽く手を上げながら近づいていく。
「おっちゃん、無事で良かった」
「コダマか。お前一体どうしてここに。いや、それよりもその銃と剣は……」
歩きながらデュラハンを確認する。
鎧の騎士はぴくりとも動かない。馬の方も同様で徐々に消え去っていっている。
「いや、話せば長くなるんだけど……。それよりもソレイユさんは大丈夫なんです?」
おっちゃんは倒れた体を起こした。
「MP使い切ってるのに無理して魔法を使って気絶しただけだ。少しすれば目が覚める。こいつが起きりゃ怪我も治してもらえるな」
おっちゃんの体には無数の切り傷がついていた。大きな傷がないのは幸いだが。
「二人して無理しすぎです。本当に無事で良かった」
「はん、コダマに心配される羽目になろうとわな。まぁお前の事情ってのも帰ったらゆっくり聞かせて――」
ドン!!
近づいてきたおっちゃんに突き飛ばされる。
「なにするんだ、おっちゃ――」
見上げたおっちゃんの腹には、深く剣が突き刺さっていた。
「……がはっ」
倒れ込むおっちゃんの影から見えるのは、黒い瘴気をまとった騎士。さっき倒したはずのデュラハンだった。
「Kakakakakakakakakaka」
どこからか奴の笑い声が響いた。




