探索者資格試験
今回少し長いです。
『次のニュースです。5月11日の大地震に聞いた声に関する国の方針が確定しました。国はあの日以降現れた主要都市に有る大穴をダンジョンと認め、市民のダンジョンへの───』
5月25日。父さんが言っていたみたいに国がダンジョンに関するあれやこれやを認めて公表した。
法的措置についても父さんが話していたように、国はダンジョンに潜る者を“探索者”と呼称し、ダンジョンにはこの探索者しか入ってはならないという措置を取った。この探索者にならなければダンジョンに潜ってはならなく、潜った場合は1年以下の懲役または500万以下の罰金が発生するとのこと。探索者になる方法は近くのダンジョンに出動した自衛隊員の講習を受けて合格を貰い、合格と記された紙を市役所に提出して探索者カードを貰えばなれるらしい。
俺も探索者資格を取りに行かねば。
未発見のダンジョンについては見付け次第随時報告する努力義務に落ち着いた。努力義務な理由は、もし見付けた穴が家に有る場合だったり、人が入っていけない場所に有った場合、前者はともかく後者はどうしようもないため、近隣の住民は国に届け出て直ちにその近辺から離脱するようにとのことだからだ。
確かに報告しなけりゃそれがダンジョンだったら溢れてくる可能性も有るけど、だったらそれこそ努力義務ではなく普通に義務にすれば良いのにそうしないのは何処か腑に落ちない。
『────市民の皆様がダンジョンに潜る際は十分に気を付けて、探索者資格を取得してから潜りましょう。では、次のニュースです。○×県にある□◇動物園で昨日、ゾウの赤ちゃんが───』
「さて、俺はそろそろ行こうと思う」
「あれ?父さん今日出るの早くない?」
「お前も今日、最終的には市役所に来るつもりなんだろ?」
「あ、なるほど」
「そういうことだ。じゃあ行ってくる」
「いってらっしゃーい」
父さんがリビングから出て行く。それと入れ替わるように瑠璃も起きてきたのかリビングに入ってきた。
「あれ?お父さん、今日早くない?」
「詳しい話は孝則に聞け。じゃあな、行ってくる」
「いってらっしゃーい」
今度こそ父さんは玄関から出て行った。
瑠璃は出て行く父さんに手を振って見送ったあと、リビングに入ってきて俺の前にやって来た。
「それで、なんで父さん、今日こんな早いの?」
「前に父さんが話してたダンジョンに関するあれやこれやだよ」
「あー、あぁあれね。そっか、遂にか。じゃあお兄ちゃんの今日の予定は市役所かな?」
「そうなるな」
「そっかぁ……。んー、私も出来るかな?探索者」
瑠璃はサブカルチャーに明るい。というか完全なインドアだ。所謂ゲーマーというヤツだ。そして基本部屋から出ないから運動も苦手だったりする。なのにこんな言葉が出て来るという事は、やりたいのだろう。
しかし……、
「……人には得て不得手が有るから、別に探索者に拘らなくても良いんじゃないか?」
「やっぱりそうなる?やりたかったなぁー、探索者。お兄ちゃんの部屋のダンジョンなら問題無さそうなんだけどな」
「じゃあ俺が居ないときに潜れば良いんじゃないか?ちょっとした運動がてらに」
「運動……。まぁ確かに運動だよね……。んー、そうだね。お兄ちゃんの部屋のダンジョンで慣らしてからどうするか考えることにするよ。
お母さーん!ご飯ちょーだーい」
瑠璃は興味を無くしたのか俺との会話を切り上げて自分の欲求を満たしに行った。
……諦め切れないのか、探索者になるの。
ダンジョンだから危ないけど、瑠璃がちょっとでも動くことに目を向けてくれるのは、野球部だった俺としては嬉しい。
「ごちそうさまでした」
残っていた朝御飯を口に掻き込み、俺は都心部に出来たというダンジョンの情報をネットで調べるのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
5月25日朝8時50分。俺は歩いて1番近いダンジョンの有る場所まで行き、探索者資格を取りに来ていた。背中には愛用の金属バットをケースに入れて背負っている。
ダンジョン前には沢山の、特に若い俺ぐらいの世代の男女が集まっていた。恐らく此処に居る人達のほとんどが探索者資格を取りに来た人達なんだろう。
俺は受付を探して人混みの中を歩く。
にしても多いな……。これじゃ何処が受付かわかんねぇ…。
そんな時、誰かが俺の肩を叩いた。
誰だ?
俺は後ろに振り返った。そこには2年振りぐらいに見る見知った顔が有った。
「よっ、加藤!久し振り」
「久し振りだな猿渡」
猿渡信吾。俺の高校の同期だ。
「此処に居るって事は、お前も探索者資格を?」
「そういうお前もな、加藤。というか、大学は良いのか?」
「それ、嫌味か?こちとら二浪してる落ちこぼれだよ」
「お前は上を見過ぎなんだって。コーチにも言われてただろ」
「上目指さなきゃどこ目指せって言うんだよ?」
「そりゃお前、仲間と楽しんだりさ」
「仲間と楽しみながらは当たり前だろ?」
そんな他愛の無い話をしつつ流れに身を任せて歩いていると、いつの間にか受付らしき場所に着いた。
「俺、今から受付だから」
「あぁ、俺もだ」
そう言って各々受付に居るお姉さんに話し掛けた。
「すみません、此処って探索者資格に関する受付ですか?」
「探索者資格の取得を御希望の方ですね。では此処にお名前と志望動機をお書きください」
そう言って渡されたのはアンケート用紙みたいな物とバインダーだった。
名前を書く。そして志望動機の所には適当に『未知なるものを探索したいがため』って書いた。
書いたものを受付のお姉さんに渡す。
「はい受け取りました。ではこちらの整理券をお持ちください。順番になりましたら自衛隊の方に呼ばれると思いますので、それまでお待ちください」
受付のお姉さんに「ありがとうございました」と俺を言って、その場を離れる。
ちょうど猿渡も終わったのか近付いて来た。
「何番だった?」
自分の番号を見る。そこには9と書かれていた。
……探索者資格を取りに来た人、案外少ないのかな?いや、でもこの量だしな……。
「9だ」
「おぉ、俺も9だった」
2人も9が居るって事は、それぞれの数字を複数持った人が居るって事か。
9……10人ずつ居るなら90人か。それならこの量にも納得だな。
それから時間になるまで猿渡と世間話を繰り広げた。
そして9時になった時点でパンッという乾いた音が辺りに響いた。
『えぇー、探索者資格を取りに来た皆様、おはようございます。本日皆さんの案内を務めさせていただく加藤と申します。これより番号をお呼びいたしますので、呼ばれた方はダンジョンの中へとお入りください。それ以外の方は、呼ばれるまでお待ちください。
ではまず1番の方から中にお入りください』
メガホンの音でそんな声が聞こえる。というか家の父だった。
父さんの指示に従って、パッと見10人ぐらいの人がダンジョンの中へと入って行く。
俺は順番が来るまで猿渡と話しながら待った。
程なくして『9番の方はダンジョンの中へとお入りください』という指示が入る。
それに従い、猿渡と共にダンジョンの中へと入った。
入るとそこは、俺の部屋のダンジョンの最初の部屋と同じでしっかり部屋と認識出来る造りの場所だった。
その中央には宝箱が有り、その隣に迷彩服を着た焼けた肌をした男性が立っていた。
「初めまして。本日皆さんの試験官を務める田中です。それでは皆さん、いきなりですが、私が合図を出したら私に攻撃してきてください。私は皆さんが怪我をしない程度に反撃しますので、私が止めるように言うまで攻撃をし続けて来てください」
挨拶されるなりそんな事を言われた。
一瞬呆けたが、意味を理解してケースから金属バットを取り出す。
「皆さん、準備は出来ましたか?では、攻撃してきてください」
「スタート」と手を鳴らして告げられた直後、俺以外の探索者希望者達は一斉に田中さんへと向かって行った。猿渡もだ。
それを田中さんは軽く移動するだけで避けて、人とすれ違うタイミングでそれぞれの脇腹にチョップを入れていた。
それがよほど強い力なのか、すれ違うだけで他の希望者達は地面に蹲った。
おいおい、いきなりこれ、詰んでないか?
「どうしたんだい?来ないのかい、そこのバットを持った青年」
田中さんは余裕そうな笑み……実際余裕なんだろうけど、余裕そうな笑みを浮かべながら、手をクイクイと曲げて挑発してきた。
……っしゃ、やってやろうじゃん!
俺はバットを逆手に持って右から左へ、田中さんの胴を殴るように向かって行った。
「良いね。逆手に持ったのは反撃を考えてかな?さっきまでの動きを見てての対処だね。うん良いよ。続けて」
田中さんは俺が横に振ったバットを後ろに下がる事で避けて、振り抜いた俺のがら空きの右側面に掌底を打ってきた。
掌底は見事に俺の脇腹に当たり、口から息が漏れる。
そのまま衝撃のまま後ろに飛ばされ、俺は地面に転がる事となる。しかし、息は漏れたけど不思議とそこまで痛くなかった。
俺はすぐに起き上がり、再び、今度はドロップキックをしようと田中さんに駆け出した。
しかし田中さんはそれも避けて、寝転がる状態になった俺の鳩尾を踏もうと足を振り下ろしてくる。
それをなんとか間にバットを入れることで防いで、転がりながら田中さんから離れて立ち上がり、田中さんと向き合った。
「君、良いね。そのガッツも良いけど、何より俺に対する対処をちゃんと考えてる。まだまだ稚拙で危なっかしいけど、君なら探索者としてもやって行けるだろう」
そう言って俺に向かって赤い番号の書かれたプレートを投げ渡して来た。
それを危なげなくキャッチする。
「それを持って受付の所に行って、合格証を貰うと良い。君は合格だよ。帰る前に宝箱を開けて帰ってね。そして中に有る紙に書かれた物を読んで、読み終わったら宝箱の中に戻しておくように」
まだ2回ほどしか攻撃してないのにそう言われて呆気に取られる。
しかしいつまでもそうしている訳にも行かず、「ありがとうございます」と言って猿渡に声を掛けた。
「猿渡!そういう訳だから、先に市役所行って来るわ」
他のまだ蹲っている希望者同様倒れてる猿渡にそう声を掛けて、バットをケースに仕舞い宝箱に近付く。そして中を開けて紙に書かれた文字を読む。すると、俺の部屋のダンジョンの時は【変化】だったが、今回は頭の中に【硬化】の文字が浮かんだ。使い方も、なんとなくわかる。
俺は改めて田中さんに礼を言ってこの場を立ち去ろうとした。
此処に来たときに降りてきた階段に足を掛けようとしたときに、後ろから声が掛かる。
「金属バットの君!此処とは違うダンジョンにかなり潜ってるでしょ?」
田中さんがそう声を掛けてきた。
内心ドキッとする。毛穴が拡がったのがわかった。
でも此処で肯定も否定もしたら相手に俺がダンジョンに潜ってる事がバレる。だから俺は、
「なんのことですか?」
そう言って足早に階段を駆け上がった。




