その後:他の者たち
その後です。
今後「この人のその後が知りたい!」なんて感想を頂けたら追記していきます。
<田中side>
「やぁ君達、また会ったね」
田中はその後も仕事仲間たちの制止を聞かず【硬化】のダンジョンに通った。なんなら休日は自らダンジョンに潜った。目的はただ1つ。日本初の探索者資格試験の時に現れた他と比べて飛び抜けた力を持った青年、加藤孝則にその実力の秘密を教えてもらい、あわよくば彼を殺してその訓練方法を独占しようと画策していたためだ。
しかし探索者試験を受けたそれ以降彼が姿を現すことは無く、そろそろ諦めようかと考え始めた頃に世界にダンジョン攻略の通知が鳴り響いた。そしてその後間もなくに彼が現れた。しかもより力を付けた様子で。
是が非でも聞き出さなければならないと思った。今の内に聞かねば取り返しがつかなくなると直感だったが確信が有った。だから2回目にダンジョンの中で再会した時には執拗に絡んだ。流石に仲間に止められたからその時は折れたが、そのせいで彼から情報を抜き出すことは叶わずその後彼と話す機会は一向に訪れなかった。風の噂で入院したとか聞いたが、流石に人目が有る場所では問い詰められない。
そうして彼のことを忘れられないまま1年が経った頃。彼が再び【硬化】のダンジョンに現れた。それも友人と思われる者たちと共に。
俺やここの市役所の奴等の予想通りなら、ここが世界で2番目に攻略されたダンジョンで間違いない。そして攻略したのは紛れもなく彼だ。
ここの攻略度合は第8階層。彼なら最奥に行くかもしれないが、今やここのトップは猿渡とかいう一般人とその女の加藤瑠璃とかいう女だ。
……そういえばコイツ等も彼と面識が有ったな。なんなら確か、女の方は彼の親族だった筈だ。
そのことを思い出して、彼に直接話を聞きたいのをグッと堪えて彼等に話し掛けた。
しかし返って来たのは沈黙だった。いや、俺の言葉に反応して沈黙したわけではない。本当にただ俺の存在が彼等の眼中に無いようだった。
流石にその態度にキレて女の方に手を出そうとしたら、何か見えない壁に阻まれその場から動けなくなってしまった。
そうこうしている内に彼等は先へと行ってしまった。
彼等が去った後も一向に動くことは出来なかった。何をやっても駄目。まるで俺だけが世界から切り離されてその場に縫い付けられたかのように本当に何も出来なかった。
動けない事への不安と苛立ち、無視されることへの苛立ち、そしてそれは少し時間が経った頃にはこのまま一生身動き取れないのかという恐怖へと変わった。
そんな恐怖と苛立ちを胸にどうしたらこの状況から抜け出せるかを必死に考えていたら、彼が1人で戻って来た。"彼"だ。
彼が戻って来たと同時に、あれだけ身動きが取れなかった状況から突如動けるようになった。
これで彼が原因で動けなくなっていたことが確定した。
だから俺は、久し振りの彼に出来るだけ厭味ったらしく言ってやった。
「久し振りだね。その様子じゃ最後に会ってから更に強くなったみたいだけど、その秘密を教えて欲しいんだけどね。ほら、君はダンジョンの中に俺を身動き取れないように縛り付けてたんだからさ、そのお詫びってことで手を打つよ」
瞬間自分が死んだことがわかった。いや、そう錯覚した。実際には何もされてなかった。ただ睨まれただけで死んだと錯覚しただけだった。それだけで彼がどれだけヤバくなってるか自覚して、更にその力が欲しくなった。
「確か加藤君と言ったか?初めて会った時にも聞いたかと思うが、君はその力をどうやって手に入れた?やはり国に報告されてないダンジョンを知っているんだ」
「あのさ、」
俺の言葉を遮って"彼"が話す。心底疲れたような声で、まるで小うるさい自分の周りを飛び回るハエを見るかのように。
「なんでそんなに執着してくるのかわかりませんが、あなた1人動けなくしてモンスターの前に誰にも気付かれないよう放置することも出来るんですよ?俺がそういう悪いことをしようと思えば出来るぐらいの力が有ることは、さっき貴方の体自身が証明していたでしょう?」
「…………脅しかい?」
「これ以上付き纏うなら、という話です。金輪際俺と俺の周りの人間に付き纏うのを止めてください。守れないなら最終手段に出ます」
「…………外に出て訴えたら勝てるよねこれ?」
直後に肩に鈍く焼けるような痛みが走った。何をされたかわからなかったが、彼の手が肩に置かれてるから掴まれたということはわかったが、それだけでこんな痛くなるのかと困惑が生まれた。
「ほら反応出来てない。それにちゃんと忠告しましたよね?」
そこで意識が一瞬落ちた。
次に目が覚めたら四肢が何かに引き千切られたように無くなっていて、周りには探索者達は俺が居るにも関わらず俺の目の前を素通りしていく。大声を上げて呼び掛けてみても反応は無い。"彼"達に話し掛けようとした時と同じ反応だ。
そこで自分がどういう状況か把握した。周りにはモンスターの肉塊や恐らく糞尿が有った。
こういう"掃き溜め"はダンジョン内で生態系が形成されてる場所ではよくある。要するにここはダンジョンのゴミの集積場所。ここに集められたものはダンジョンに吸収されるか吸収される前に他のモンスターに喰い尽くされるかの2択だ。
「嫌だ!こんな最後なんてあんまりだ!!俺が何をした?!!ただ秘密を握ってる青年に詰め寄っただけじゃないか!!!!嫌だ!死にたくない!!誰か!!誰か俺を助けてくれ!!!!」
その後この田中という男を見た者は居なかった。
彼は元々小さな命令違反を繰り返す常習犯で、ダンジョンが出来てからは私欲に走る行動が目立った。特に一般人に手を出したと彼の同僚から報告を受けてた彼等の上司は、今回の件を良い事に田中を二階級特進とし、深く調査されることはなかった。
<猿渡side>
「加藤が攻略したダンジョンに入れさせてください!」
加藤が世界に旅立ってから数日後。俺は意を決して加藤の家を訪ねて加藤の両親に頭を下げた。
曜日が土曜だったこともあって加藤の両親が揃ってるだろうと思って、アポイントメントを取らなかったのは失礼だったけど、ギリギリ訪ねても失礼にならない時間に訪問した。
最初訪ねた時は驚かれたけど快く家に上げてもらえて、そして通されたリビングで土下座で頼み込んだ。
「さ、猿渡君、急にどうしたんだい?取り敢えず頭を上げて説明してくれないかい?」
言われた通り頭を上げて説明した。
加藤にとても失礼な態度を取っていたこと。対等な友人関係に戻りたいこと。なんなら追い抜かしたいこと。その為に今のまま普通にダンジョン攻略していたら一生追い付けないこと。
全部話して、だから加藤が攻略したダンジョンに潜りたいと伝えた。当然加藤が攻略したダンジョン内の時間が現実の時間より早いと聞いてて、だからその分早く強くなれるかもしれないということも伝えた。
話し終えた後にもう1度頭を下げた。
下げた頭の位置からは加藤の両親の顔は見えないが、その前に見た表情から察するに困ってるであろうことはわかり切ってた。だがここで了承してもらわないとアイツには一生追い付けない。
2人が俺が頭を下げてる間にどんなやり取りしたかは知らないが、頭を下げていたらリビングに最後の加藤家の人間が入って来た。瑠璃ちゃんだ。
「あれ猿渡さんじゃん。どうしたの土下座なんかしちゃって。お父さん達も困った表情して」
俺は瑠璃ちゃんに事のあらましを全部話した。すると瑠璃ちゃんは俺の隣に来て俺と同じように頭を下げた。
「お父さんお母さん。私もダンジョンに潜りたい」
そこで下げていた頭を1度上げて次のように続けた。
「もちろんいきなり1人でなんて言わない。猿渡さんと一緒にお兄ちゃんのダンジョンに潜らせて」
「いや、そうは言ってもだな瑠璃?」
「猿渡さん、お兄ちゃんのダンジョンの入り口はお兄ちゃんの部屋の押し入れの中だよ」
ご両親の制止を聞かず、瑠璃ちゃんは俺の手を引いて玄関で靴を回収してから加藤の部屋へと向かった。高校の頃何度も遊びに来た馴染みのある部屋だ。その部屋の一角には何故か大量の魔石が置いてあって、その反対の襖を開くと下段の床部分が階段になっていた。
瑠璃ちゃんはその中へと手を離して下りて行く。
今も尚放って置かれてる兄妹の両親たちの様子が気になりつつ俺も体を屈めて階段を下りて行けば、駅前の【硬化】のダンジョンの最初の入り口によく似た場所が広がっていた。そして真ん中には【硬化】のダンジョンで最初に見た宝箱が置いてあり、瑠璃ちゃんはその近くに立っていた。
「猿渡さん。恐らくこの辺に【変化】の巻物の入った宝箱が有ると思うから、その中から【変化】のスキルを手に入れちゃって」
色々聞きたいが、瑠璃ちゃんが女の子特有の謎の圧を掛けて来るから大人しく従って宝箱に近付き箱を開ける。
瑠璃ちゃんの言っていたように中には【硬化】のダンジョンに有ったような巻物が入っていて、それを手に取ると【変化】のスキルを手に入れたことがわかった。
瑠璃ちゃんはそれを見て俺がスキルを手に入れたと判断したのか、先へと進んで行ってしまう。
流石に危ないため彼女の手首を掴んで引き止めた。
「瑠璃ちゃん、流石にこれ以上は危ないって!俺も何も持って来てないし、いくら加藤の奴が攻略してるからって滅茶苦茶危ないって!」
「猿渡さん」
俺が必死に止めると、流石の瑠璃ちゃんも止まってくれた。
と思ったら、いつの間にか俺は瑠璃ちゃんに見下ろされていた。
「は?」
「私実はお父さんやお母さんやお兄ちゃんに内緒でこのダンジョンに潜ってたんですよね。具体的には学校が休みでお兄ちゃんが駅前のダンジョンを攻略しに行ってる時に。それで一応、自力でこの階層のボスを倒す所までは進めたんですよ」
「え?瑠璃ちゃんが?あの瑠璃ちゃんが??」
「そうです。あの運動音痴で走るとすぐ息切れするような私がです。このダンジョン限定なのか、ダンジョン全部がそうなのかはわかりませんが、恐らくダンジョン滞在時間が長ければ長いほどその人の身体能力や基礎体力なんかはある程度伸びるみたいなんですよね。私がこのダンジョンで実験した結果的に。
そのおかげでこの階層の攻略は自力で出来ましたが、第2階層からは少なくとも私1人じゃ攻略出来そうにないんですよ」
ペラペラと話す瑠璃ちゃんは何処か得意げで、同時に本当に困ってそうに表情を歪めていた。
「何が出るんだ?」
本当は「危ないことしちゃダメだ」って注意する方が先なんだろうけど、思わず先が気になってしまって話の続きを促してしまう。
「出るのはモグラです。しかも滅茶苦茶プリティーな可愛いモグラ。モグラさんって呼んだ方が良いかもですね。
でもこのモグラ、1匹だけで出て来るならまだ対応のしようが有るんですが、2匹以上になって来ると捌ききれないんですよ。なんでだと思います?」
そこで俺に振るのかと思いつつ、これまでの経験や少ししかわからないモグラの生態なんかを総動員させていくつか考えられる要素を挙げていく。そして1番しっくり来たものを口にする。
「地面からの攻撃とか?」
「流石猿渡さん!正解です!あのモグラちゃん達、時間差で多方向から私に突進してくるんですよ。しかもこれがかなり痛い。いえ、痛いというより響くんですよね。こういうのを衝撃って言うんでしょうね。で、この衝撃が私にはかなり辛いんですよ。第1階層のボスからドロップする回復薬をいくつも持ち込めばたぶん攻略事態は出来るんでしょうが、それでは地力が付かない。時間を掛ければワンチャン有るかもですが、正直待ってられないというのが本音。
そこで猿渡さんです。猿渡さん。私とパーティーを組んでこのダンジョンを攻略しませんか?もちろん毎日付き合えという訳ではありません。猿渡さんの都合の良い時にです」
「どうでしょうか?」そう尋ねて来る瑠璃ちゃんの眼には強い意志が有るように見えた。それはやると決めたら絶対にやるまで諦めない彼女の兄の目にとてもよく似ていて、例え俺がここで断っても、断ったら今度はもっと違う方法を考えて1人で潜るだろうことが容易に想像出来る表情をしていて。
答えなんて最初から用意なんてされてる訳が無かった。
「わかったよ瑠璃ちゃん。でもいくつか約束というかルールを決めよう。それが吞めないなら俺は瑠璃ちゃん抜きで潜らせてもらう。なんなら加藤にチクる」
「うっ…。お兄ちゃんを出すのはズルいですよ猿渡さん……。」
悔しそうにする瑠璃ちゃんは、よく知る加藤のことが大好きな瑠璃ちゃんで、この感じなら条件を吞んでもらえそうだと内心安心した。
「ルール1。俺も平日は駅前のダンジョンに仲間たちと潜る。だから潜るとしたら土日だけ」
「はい」
「ルール2。学校を優先すること。俺達はまだ学生で、親に学校に通わせてもらってるんだから、学業は最優先。これは絶対だよ。もちろんダンジョン攻略の結果体調崩すとかの問題が発生したら以後最低2週間は一緒に潜らない。良いね?」
「……良くないですが、当然のことなので、はい…」
心底嫌そうに顔を歪める瑠璃ちゃんにこちらも苦笑いしてしまう。
加藤から聞いてる感じ的にかなり頭が良かった筈なんだが、彼女にも何かしらの悩みが有るんだろうな…。
そんなことを思いつつ、最後のルールを提示する。
「最後は、そもそもの話として俺も許可は貰ってないけど、ご両親に許可を貰うこと。あとでもう1回俺も頭下げるけど、現状加藤に追い付くには最低加藤がこのダンジョンに潜った時間以上に潜らないと話にならない。だから何が何でも潜らせてもらえるように土下座でもなんでもするけど、そもそも家は君等兄妹のお父さんの物だ。まずはお互い所有者の許可を貰わないとね」
俺がそう言うと、瑠璃ちゃんは先程まで以上に嫌そうな表情をして、困った表情をした。
「あー、許可は当然なのですが……、そうなるとやっぱり……」
「そうだね。黙って潜ってたことも説明しないと駄目だね」
「それが1番難解過ぎる!!お兄ちゃんはまだ良かったよ?!だって男の子だしスポーツやってたもん!!でも私は絶対反対される!なんならお兄ちゃんの部屋への立ち入りを禁止される!!それだけは!それだけは絶対にダメ!!そうなったらお兄ちゃんの部屋のエアコンが使えなくなっちゃう!!それだけは絶対にダメ!!でもダンジョンも潜りたい!!
ねぇ猿渡さん!猿渡さんから当然の条件だけどさ!なんでそんな条件出したの!?酷いよ!!」
「アハハ!親に隠れてやるからこうなるんだよ!
さぁ、取り敢えず今は戻ろう?まずはちゃんとご両親に俺達は許可を貰わないとダメだ」
瑠璃ちゃんを説得して、ダンジョンから出ると加藤の部屋の中にはご両親が揃って俺達を待っていた。
そこで改めて瑠璃ちゃんと一緒になって頭を下げたら、いくつかの条件を呑むことで潜ることを許可された。
1、このダンジョンに潜る際はご両親のどちらかが必ず同行すること。(基本的にはお父さんの史規さんが同行する)
2、ダンジョンに潜るのは週1に留める事。(加藤家ご夫妻の体力的な問題)
3、このダンジョンで手に入れた水やペットボトルは1割と魔石は全て俺の物で残りは全部加藤家に納める。(一種の税の代わり。代わりに昼飯と晩飯を食べさせてもらえることになった)
4、ダンジョンに潜って良いのは中の時間で最大でも10時間だけ。(要は勤務時間のようなもの)
5、瑠璃ちゃんが探索者証を手に入れたら必ず俺はパーティーを組むこと。(変な輩が寄って来たら護るようにと念押しされた)
6、必ず無事に帰還すること。(後に残る怪我をしたら即刻潜るの禁止)
この条件で潜ることが許された。瑠璃ちゃんは瑠璃ちゃんで別の条件が有るみたいだけど、「絶対にやり遂げてやる!」と意気込んでたし大丈夫だろう。
そうして次の土曜から潜ることが決まり、俺は平日は工藤・赤里・花菱たちと駅前のダンジョンに潜り、土曜は加藤の家のダンジョンに潜った。
最初の3ヶ月ほどは史規さんのペースに合わせて徐々に潜ってい行った。4ヶ月目以降は史規さんも慣れたようで攻略のペースを上げた。
瑠璃ちゃんは受験生にも関わらずダンジョンに潜り続けているのに成績をキープ。むしろ更に成績を伸ばして大学受験も難なく首席で合格したそうだ。瑠璃ちゃん曰く、「時間の流れを気にせずやりたいことやれるって良いよね!」とのこと。絶対ダンジョンに潜って時間色々と誤魔化してるだろと思ったけど触れないことにした。なんだか触れちゃいけないような気がしたから。
驚いたことは史規さんで、彼は俺とは違って【硬化】を持ってなくて【変化】しか持っていない筈なのに、普通にモンスターに突っ込んで行って、真正面から攻撃を喰らいながらその脳天にトンカチを何度も振り下ろしてモンスターの命を奪っていた。
流石に攻撃を喰らうのは不味いと思いそのことを本人に注意すると「打たれ強くなってれば母さんや瑠璃や孝則を庇って時間稼ぎが出来るだろ?俺が持ち堪えていれば、孝則や今なら猿渡君が敵をやっつけてくれる。ならこういう致命傷にならないような頃から痛みに慣れてないとね」とウインクされながら言われた。
心の中でだけど、思わずアニキ!と叫んでしまったのは内緒だ。いや格好良過ぎるだろ史規さん。
これを聞いた直後からの駅前のダンジョン攻略での俺の立ち回りが変わったのは言うまでもない。
そうやって徐々に加藤の家のダンジョンを攻略すること半年。瑠璃ちゃんも無事大学に上がって落ち着いた頃には、【変化】のダンジョンの最終階層である第6階層に挑み、攻略することに成功した。後追いだけど、ダンジョン1つ攻略したという事実はとても大きく、物凄い達成感を覚えた。
そうしてダンジョンから帰ろうとダンジョンの待機室に戻った時、不可解なことに瑠璃ちゃんが気付いた。
「ねぇお父さんに猿渡さん。このダンジョンって、お兄ちゃんの言葉が本当なら第6階層までだよね?」
瑠璃ちゃんがそう言ってエレベーターの方を指差す。そちらに目を向けると、攻略するまでは存在しなかった筈の階層を示すランプが2つも増えていた。そしてその片方は赤色に染まっていた。
つまりこれは、まだこのダンジョンを完全に攻略したわけではないということの証明だった。
「おいおい加藤、攻略した筈じゃなかったのかよ……?」
思わず弱音が出て来る。それでもこの場に居る誰よりも何か有った時に対応出来そうだったのは俺だけだったため、意を決して「俺が様子を見て来ます」と言って赤色のランプに触れて飛んだ。
飛んだ先は相変わらずの待機場所だったけど、そこからでも見えるこの階層のフィールドはとてもおどろおどろしかった。
まず全体的に暗かった。そして地面は腰ぐらいまである草で覆われていて、生えてる木には所々蜘蛛の巣が張っていた。感想としては薄気味悪い森だ。そしてこの光景に似た場所を俺は見たことが有った。
駅前の【硬化】のダンジョン。その第5階層と似た雰囲気だった。しかし蜘蛛の巣は無かった。蜘蛛の巣は【硬化】のダンジョンの第4階層だった。
そして加藤は【硬化】のダンジョンをクリアしている。ということはだ。
気付いたあくまで可能性の話でも衝撃的過ぎる憶測に、俺は即座に瑠璃ちゃん達が待つであろう階層に戻って憶測を交えた感想を言い放った。
「たぶん!たぶん新しく現れた第7階層は駅前の【硬化】のダンジョンのコピーだ!雰囲気が第5階層以降と滅茶苦茶似てた!」
聞いた瑠璃ちゃんと史規さんは目を見開き驚いた表情をした後、顔を見合わせ俺の方を向いてきた。
「モンスターはどうだったんだい?」
「確認してませんが、恐らく【硬化】の方の第4階層以降のヤツが出ると思います!」
「じゃあ仮に猿渡さんの憶測が本当だったとして、じゃあランプは2つ有るってことはつまり……」
瑠璃ちゃんの言葉で俺と史規さんは顔を見合わせ、瑠璃ちゃんに抗議の声を上げた。
「それは絶対に無い筈だ!攻略したなら世界にあのアナウンスが」
「そのアナウンスが流れないようにお兄ちゃんがそういう報酬の望んでいたら?可能性は……ゼロじゃないですよね?」
被せて言われたその言葉に眩暈がした。ようやく追い付いたと思ったら、知らぬ間に加藤は更にその先に行っていたって訳だ。あくまで憶測の域を出ないけど、こういう時の瑠璃ちゃんの予想はだいたい当たるとこの半年でよーく思い知らされた。
「勘弁してくれよ加藤……。お前は1人でどこまで行くんだよ……」
漏れる弱音を吐くだけ吐いて、頬を叩いて気合を入れる。
今はまだアイツの影を追い掛けているけど、いつか絶対に追い抜くと改めて決心して。
「史規さん、瑠璃ちゃん。今後も通っても良いですか?」
俺のお願いに2人共目を見開いて驚いたが、すぐに笑顔になって無言で第7階層のランプに触れて飛んで行った。
答えはどうやら聞く前から決まっていたらしい。
そんな2人に内心頭を下げながら、ここには居ない親友を思い浮かべる。
先へ先へと1人突っ走る、いつの間にか遠い所に行ってしまった親友を想う。
「絶対追い抜かしてやるから覚悟しとけよ」
まずは【硬化】のダンジョンの攻略からだ!!
俺の親友を追い抜くって目的はまだまだこれからだ!!
如何だったでしょうか?
これにて『浪人生、ダンジョンと歩む』は完全完結とさせていただきます。
色々思うことは有るかと思いますが、それは良ければ感想の方に送っていただけると大変嬉しいです。
そして次回作ですが、決めました。
『アスターク』にします。アスタークとはとある剣の名前で、Twitterでも漏らしましたがアスタークの生みの親の作品か『アスターク』かで悩んだのですが、『アスターク』を先にした方が良いという判断になりました。
言うなれば『アスターク』は私荒木空としてのエピソード1や2や3だとすれば、アスタークの生みの親の作品はエピソード0に当たるようなものです。
エピソード0を先に出すのは違うじゃないですか。例え時代の波に取り残されても私は私の書きたい物を書きます。
さて、そんな決意表明も程々に。
改めてここまで私と孝則たちにお付き合いくださりありがとうございました。
それでは皆さん、また何処かで会いましょう。
以上、荒木空でした。




