第5階層主-前編-
時間オーバーしてしまいましたが、更新です。
今回長めです。
翌日9月4日。昨日食べた分を補充して、全く同じ装備で第5階層のボスが居ると思われる場所に向かった。
父さんや母さん、瑠璃には「今日は5階層のボスと戦う予定だから、もしかしたら日を跨ぐかも」と伝えておいたから、遅くなっても問題は無いと思いたい。
昨日、距離を置いて見たあの拓けた場所は、第4階層のボスに初めて挑んだ時の様なプレッシャーを感じなかったから、たぶんあの時より苦戦はしないと思うけど、それでも念には念をって事で伝えておいた。
毎度の如く受付を済ませ、すぐに第5階層へ。
行くと、まぁ、なんとなく予想はしてたけど、昨日あれだけ荒らした森は全て元通りになってた。
ダンジョンってのは本当によくわかんない場所だ。
また荒らしながら行くのも良いけど、正直面倒だな…。
ふと相棒である金属バットを見る。まだボス戦の前だけど、少し試してみたいことが出来てしまった。
俺は目の前に広がる樹海ともいうべき森に対して、片刃の大きな剣に変えた相棒を徐に時代劇なんかで見る抜刀の体勢に構える。その体勢で大きく深呼吸をして集中したあと、一気に左から右へと相棒を振った。
振っている途中、相棒を伸ばせるだけ伸ばした状態をイメージしながら振るのを忘れない。
そうして俺が振るった剣は、俺の予定通りの成果を出した。俺の立つ位置を中心に、前方凡そ5メートルの樹海が俺の振るった高さから上が斬り落とされた。
まぁ、その切り口は中学の時の技術の授業で使ったノコギリの断面みたいに荒いものだったけど、なんとか切れた。
ただこの方法、物凄く腕と腰に負担が来ることがわかった。あと、気のせいだとは思うけど、相棒から非難されてるような感覚が有る。良い案だと思ってやってみたけど、必要に迫られない限り、今後はもう2度とやらない方が良いかもな……。
楽に進めると思って試した方法が失敗に終わったため、昨日のように相棒をマチェットに変えてゆっくり目的地が在るであろう方向へと進む。
当然途中に蛇に襲われたけど、まぁそこはいつも通りサクサク進んだ。
そうやって進むこと体感30分。遂に目的地である拓けた所まで帰って来れた。
案の定周りは何も無いが、真ん中に第3階層のゴブリンの村の中心とは違い魔法陣みたいなのが在った。
その魔法陣は光ってて、サブカルチャーに明るくない俺でもあそこからボスが出て来るんだろうなってことが想像出来るくらいわかりやすく在った。
荷物を改めて確認して、もし第4階層のボス戦の時みたいに長期戦になっても大丈夫な装備か確認する。
一通り確認して、問題無かったから、俺は目の前の拓けた場所に足を踏み入れた。
途端、魔法陣が強く発光した。目を瞑るほどではなかったけど、気付くとそこには大きな蛇が居た。頭の横幅だけで2メートルは有に有るであろう大きな蛇が。
あまりの迫力に、思わず固まってしまう。それぐらい迫力があった。圧力はアレだ、恐竜なんかの映画でティラノサウルスとかの大型肉食恐竜の顔が間近にある、みたいな迫力だ。
ただ目の前に居るのはフィクションの中のティラノサウルスじゃなくて、実際に目の前に実在してる大蛇だ。棒立ちなんかしてたら当然攻撃されるのは必然。
直後、大蛇が大きく口を開け、俺に向かって突っ込んできた。
「あっっっぶね!!?」
なんとか牙に当たらず、寸での所で正気を取り戻したおかげか、掠ることなく避けることに成功。
突進してきた大蛇はそのまま俺が来た方向へと飛んで行った。でもすぐに向きを反転させて、また俺に向かって突進してきた。
「そう何度もやられるか!」
迫り来る大蛇をギリギリ横に避ける。その時に片刃のぶっとい剣にした相棒を大蛇の口の向きに合わせて置いておく。
俺の目論見は見事成功し、大蛇の口の端を相棒が斬り付けることに成功した。ただ、全部が全部上手く行った訳じゃなくて、確かに大蛇の、人間で言う唇の端部分に傷を付けるだけになった。そのまま大蛇は相棒を咥えて俺ごと木にぶつかった。当然大蛇が木の真横を通れば、相棒の分だけ横に余計に伸びてる俺は自然と木に叩き付けられるのは自明の理で、背中から叩き付けられた。
「ッハッッ!!」
口から肺の中の空気が強制的に吐き出される。
なんとか相棒を手放すようなことはしなかったけど、あの大蜘蛛の時に近い負荷が体に掛かったのが痛みに少し朦朧とする頭でもわかった。
端から見れば、恐らく今の俺の状態は弱ってるように見える筈だ。
弱ってる敵をこういう時蛇は……。
ソコまで考えて、結論が出たのとその行動を大蛇が取ったのは同時だった。大蛇は俺をぶつけた木ごと絞め上げて来た。
諸にダメージの入った俺はマトモに身動きが取れず、あっさりと大蛇に拘束されてしまう。
【シャァァアアアアアアッ!!!!】
蛇は本来鳴かないらしいが、敢えて擬音にするならそんな音が鼓膜を震わせる。大蛇は絞め上げた状態で俺に威嚇してきて、ソレが終わると同時に絞め上げる力を増して行く。
強化されてる俺の体からミシミシと骨が軋むような音が体内から聴こえる。そんな悲鳴を上げる体に鞭を打ち、なんとか左腕と相棒の剣先を大蛇に向ける。
「喰…ら…え……、ク…ソ…ヘビ……!!」
左手には力を入れ、相棒は剣先が伸びるように意識する。
相棒は剣先を限界まで伸ばして大蛇の左目へ、腕輪の先が返しの付いた糸は大蛇の右目へと向けて伸びる。そしてそれは運良く突き刺さった。
先程とはまた違った悲鳴の声を上げ、大蛇は俺の拘束を緩めた。その際、一瞬俺を絞め上げる力が増して更に俺の体が悲鳴を上げたけど、それはまだ我慢出来るレベルだったからさっさと脱け出してこの広場の反対側まで無理して走って大蛇との距離を取った。
距離を取り、木の裏に背中を預ける形で大蛇から隠れて、リュックサックに入れておいた回復するポーションを呷る。ソレだけでさっきまで悲鳴を上げてた体は落ち着き、ちょっと疲れた程度まで回復出来た。
「マジあっぶね…、死ぬかと思った」
思わずそんな言葉を漏らしつつ、未だに痛みに悶える大蛇を木の影から覗く。
大蛇は目の部分から赤い液体を垂らしながら、目がやられた痛みからかその場でドッタンバッタン体を地面や木に打ち付けてるけど、ソレ故のダメージはそんなに入ってそうに無い。アレだ。子供の癇癪みたいに暴れはするけど、本人にそんな痛みは無いみたいな感じだ。
てか、アイツマジで容赦ねぇな……。いやまぁ、俺がアイツを殺しに、アイツは俺を殺しに来てるんだからそりゃまぁそうか。
にしても、どうすっかな……。痛みに暴れる大蛇の様子を覗きながら考える。
取り敢えず暴れてるのが収まると同時に突っ込むのは確定として、問題はその後。相棒は大蛇の鱗の前では切れ味が足りなかったのか、はたまた刃の入りが悪かったのか全然斬れなかった。希望的な後者はこの際無いもと考えて、前者を前提に考える。どう攻撃を加えるか考える。
これが毒の無い生物がモデルなら、目潰れたんだったら体の中は柔らかいってことなんだから体の中に入って、中身をグチャグチャにしてやれば倒せる。倒せはする。
「でも、なぁ……」
その方法は俺のポリシーに反するし、何より毒の有る生物がモデルなんだから、間違っても口辺りには絶対に近付きたくない。何より大蜘蛛の時よりも余裕が有る。
そうなると出来る事と言えば、
「【硬化】か……」
俺の部屋のダンジョンを【変化】のダンジョンと呼ぶのなら、このダンジョンは【硬化】のダンジョンだ。なら必然的に【変化】じゃなくて【硬化】を用いた戦い方では勝てるって訳だ。じゃないと攻略出来ないしな。
正直【硬化】はジャージと防御の時に体にしか使ったことがない。と言うか【変化】の便利さが異常なんだよ。
でもここは【変化】のダンジョンじゃなくて、【硬化】のダンジョン。ソコまで整理出来たなら、後はやるしかねぇよな加藤孝則?
相棒を本来の金属バットへと戻し、暴れる大蛇が落ち着いたタイミングを見計らって俺は駆け出した。




