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浪人生、ダンジョンと歩む  作者: 荒木空
第2部~駅近ダンジョン~
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一悶着


 8月31日。遂に退院の日がやって来た。


 退院の手続きをさっさと済ませて、病院を出る。


 「お世話になりました」


 「加藤さん、貴方はこの数ヶ月という短期間の間に入院するほどの大きな怪我を2度もしています。その事を深く理解した上で気を付けてくださいね」


 「…………俺も動けないのは辛いので、出来るだけお世話にならないように頑張ります」


 看護婦さんにそう告げて、俺を迎えに来てくれた母さんと一緒に病院を出る。


 「さぁ、車を用意してるから帰るよ」


 「待って、母さん。先に寄りたい所がある」


 母さんにお願いして向かったのは、あの駅近のダンジョン。

 現在の時刻は平日の昼前。この時間になると本来なら人は少ない筈なのに、ある場所には人集りが出来ていた。

 場所はちょうど、俺が最後にダンジョンから帰ってきた時に、母さん達や猿渡達が居た辺りだ。


 「さぁさぁ皆さん、これが腕試しの金属バットだ!これを持ち上げる事が出来たのなら、ダンジョンの攻略なんて楽勝だ!

 挑戦には1回300円貰うけど、『俺こそは!』という人は是非試してみてください!」


 その人集りの中心。そこで比較的若い男性がそんな事を言っている。彼の前には猿渡の着ていたような格好の若者が列を作っていて、ちらほらと周りに見物客と思われる人達が待機していた。


 ……人の商売道具(相棒)を商売転用されるのは、なかなか腹立たしいな…。


 俺は列を無視してズカズカと真ん中まで行き、バットの有る所まで進む。


 「ちょちょちょ、格好的に一般人の方ですよね?困りますよ。勝手に列を無視して入って来るなんて。貴方もこの重たくて誰も持てない不思議なバットに興味が有るんでしょう?ならまずは順番を守ってもら」

 「訴えますよ?」


 「マナーのなってない奴だ」みたいな呆れたような表情(カオ)で俺に話し掛けて来る男性に言いたい事だけ言って無視する。

 男性は唐突に俺に『訴える』と言われた事に面を喰らったのか、呆けた表情(カオ)をして固まった。


 バットに歩み寄る。


 「悪いな、相棒。一月以上待たせてしまって。今退院してきた所だから、帰ってメンテナンスして、互いにコンディションを整えたら、また助けてくれよ」


 そう言ってバットを拾う。

 バットはスッと持ち上がり、非常に軽かった。昔、まだダンジョンが出来る前の普通のバットだった頃に感じていた重さすら感じない。


 「久し振りだから重く感じると思ったんだけどな…。羽みたいに軽いな」


 言うとバットは、元々のバット本来の重さに戻った。

 「もしかして気を使ってくれたのか?悪いな。でも散々休んだから心配は要らないぞ」そう思いながらバットを軽く振る。バット本来の使い方である腰を捻ったスイングや、ダンジョンで使っているような振り方をする。

 本当に約1ヶ月振りだから体が鈍ってるのか、個人的にはしっくりこない。


 ……本当はこのままダンジョンに潜るか、もしくはこの場で【変化】を試したかったんだけど、流石にダンジョンは母さんに止められるし、【変化】も使えるのは俺か父さんや瑠璃ぐらいだから使えない。何よりそもそも【変化】させようと思ってるのが刃物だから最悪捕まる。

 我慢するしかなかった。


 俺が一通りバットを振り終え、ここでの用事を済ませたから帰ろうと母さんの待ってる車まで戻ろうとすると、強く手首を掴まれた。掴まれた手首を見て、そこから伸びる腕の先に誰が居るのかを確認すると、先程の男性だった。


 「何か?」


 「困るんだよね、勝手に持ち出されると。それはもう市の物だ。何処の誰だか知らないけれど、持てることには驚いたし、持てるという事はここにそれを置いて行った人なのかもしれない。だけど、1ヶ月以上も放置してたんだし、通行の邪魔にもなってた。然るべき対処という物が必要なんじゃないかい?」


 「………………」


 またこういうめんどくさい人か。

 俺は内心うんざりしながら、携帯を取り出して母さんに電話した。


 『はい、もしもし。どうしたの孝則?』


 「ごめん、母さん。バット取りに来たらめんどくさい人に絡まれた。俺のバットを勝手に見世物にしてお金取ってる人に。今から警察と、あと、なんでか知らないけど俺のバットが市の物になってるらしいから、ついでに父さんや他の役人さんも呼ぼうと思うから、先に帰ってて」


 『……確かに持ち主が現れるまで市の管理って扱いではあったけど、それも前以て、貴方が持ち主だと警察や市にも届け出は出していたわよね?』


 「うん、その筈。なのに『然るべき対処という物が必要なんじゃないかい?』とか言い出しててさ。めんどくさいから警察沙汰にしようかと」


 『…………私の息子は、いつからそんな野蛮になったの?』


 「ストレスとフラストレーションのせいとだけ言っとくよ。そういう訳だから先帰ってて」


 『はいはい、そういうことならわかりました。ご飯の準備しとくわね』


 「よろしく」


 通話を終える。終えて、未だに俺の手首を掴む男性に向き直った。


 「今から警察を呼びます。このバットが市の物と仰っていらしたので市役所の人間も呼びます。その上でお聞きしますが、()()()()()()()()()()、貴方はこの手を離してくださるんですね?」


 「…………本気ですか?」


 「さぁ?でも、このバットの正当な所有権が誰に有るのか、そして俺と貴方、どちらに正当性が有るのか、それはハッキリすると思いますよ」


 俺がそう言うと、男性は俺の手首から手を離し、お金を入れてた箱を抱えて逃げ出した。


 「待て!!」


 しかし、病み上がりなのを考慮しても、お金の詰まった箱を抱えて走る一般男性の走るスピードで、昔から運動していて身体能力も物凄く上がってる俺が追い付けない筈もなく、アッサリ捕まえて組伏せる事が出来た。


 「離せ!!自分が何をしてるかわかっているのか!!?」


 「そっくりそのままその言葉をお返しします。


 すみません!誰か警察に通報してくださいませんか!」


 警察への通報は他の人に任せて、俺は男を拘束しながら父さん……というか市役所に電話した。


 「すみません。ダンジョン探索者部部長の加藤史規(かとう ふみのり)に繋いでもらえますか?


 あ、父さん?俺だけど。今退院して駅近のダンジョン前に居るんだけどさ、……ん?うん、そうそう。それでさ、なんか人のバットを使って見世物にしてお金取ってる人が居て、……え、そうなの?!あー、じゃあ警察沙汰にしたら不味い?いや、実は並んでる列とか色々無視してバットを拾ったら手首を急に強く掴まれて。……んー、良いの?良いのならこのまま警察交えて市役所の人も交えて話そうとか考えてるんだけど……うん。うん。ごめん、父さん、忙しいのに……。……わかってるよ!じゃあそういう訳だから、市役所の人の派遣とこの前作ってくれてた書類よろしく。じゃあまた、夜に。


 アンタ、市役所の人間なんだって?市役所の人間が平日の昼間に仕事投げ出して小遣い稼ぎって、それどうなの?」


 「………………」


 そこからは淡々と物事が進んだ。

 やって来た警察の方々に事情の説明をして、説明が終わった辺りでやって来た市役所の人達が持ってきた書類と、俺の身分証と、ついでに持ってきてくださった俺の探索者証の書類を見せた事で俺は完全に無実であり俺に正当性が有るということを証明する事が出来た。

 対して男性は、どうやら市役所の人間で、しかも俺のバットの管理をするためだけに派遣された所謂落とし物管理系の仕事をしていた。つまり、俺以外の人間がバットを持ち出そうとした際、それを止める為の人間だったそうだ。


 普通、市役所が落とし物1つで人員1人を割くというのは有り得ない話なんだけど、それは8月1日に新しく施行されたダンジョンに関する法で、『ダンジョン及び探索者に関係する物の落とし物は、それぞれの市区町村で責任を持って監理すること』というものがある。この法は、ダンジョンに関する物というのは現時点でも未知数の物だ。その未知数の物をしっかりと国が管理しているという表向きのアピールと、問題が起きた場合いつでも排除するという裏のアピールの有る法だ。


 この法が施行された事で俺のバットも本来なら市役所で管理される筈だったらしいんだけど、瑠璃からの話が有った通り誰にも持てなかったし、分解も出来なかった。

 勝手に人の所有物を分解しようとするなという怒りも湧くが、そういった理由で俺のこのバットを管理する為の人を用意せざるを得なくなった。

 そうして選ばれたのがこの男性だった訳なんだけど、魔が差したのか元からそうするつもりだったのか、たぶん管理するのに立候補したらしいから元からそうするつもりだったんだろう。人のバットを使って商売を始めた。

 結果、臨時収入が新入社員の一月分の給料並みに入り、美味しい想いをしていたんだとか。何処の誰だかわからない俺が唐突に現れて、誰も持てない筈のバットを軽々と拾って帰ろうとした事に男性は焦ったらしい。結果、権力を使って脅そうとした。

 でも、相手が悪かった。父を市役所に持ち、動けなかったストレスとフラストレーションで普段より少し攻撃的だった俺に攻撃的な態度を取った結果、速攻警察を呼び出す宣言をされて、自分が不当にお金を稼いでた事がバレて捕まるのが恐くなったらしい。その結果がお金を持っての逃亡だった訳だ。

 男性は職務怠慢と同時に職務放棄をしていた為、即刻捕縛。稼いだ分のお金は市に還元され、罰金を払うこととなった。


 俺は事のあらましを一通り終えたあと、もう帰っても良いとの事だったので嬉々として早々に退散した。


 それから街中を軽くジョギングしながら帰路へと着き、家に到着してからは母さんのご飯を食べて、その日と翌日はそのあとずっとゴロゴロした。

 バットのメンテナンス……、といってもタオルで磨いたりぐらいだけど、をやったり、【変化】と【硬化】を一通り試したり、裾とかは(ほつ)れてたり汚れが落ちきってなかったりするけどまだまだ着れるジャージの点検や着心地を改めて確かめたり、この1ヶ月出来なかった事を1日掛けて丁寧に行った。

 自室のダンジョンに入って、あの腕輪を試したりもした。腕輪については自室のダンジョンではいまいち効果を実感出来なかったけど、なかなか使える道具だということがわかった。


 そうやって、色々コンディションを整えて、準備をこれでもかというほどやった。

 そして明けた次の日である9月2日。この日から俺は、再び駅近ダンジョンに潜り始めた。




 父親の名前が判明&父親との通話を省略。

 理由は個人的なものはありますが明確な理由は無いです。



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