ライバルであり、親友であり
今回短いです。
それは、俺が入院して約半月が経った頃の事である。
この日も俺は、病室のベッドの上で暇を持て余していた。
瑠璃は確かに宣言通り毎日来てくれる。母さんも2日置きに来てくれる。父さんも仕事帰りに来てくれる。家族がお見舞いに来てくれるというのはそれだけでこの暇過ぎる地獄のような入院生活に色をくれた。
更に嬉しい事に、何処からか俺が入院したことを聞き付けたのか中学や高校の頃の友人達が顔を見せに来てくれた。高校の方は恐らく猿渡が知らせてくれたんだろう。そこから同じ高校に進学した中学の奴等が拡散して俺が入院している事が拡散されたんだと思う。
そんなプチ同窓会みたいな勢いでやって来る友人達の波が落ち着いて、夜。面会終了時間まであと30分という時間にアイツが来た。
猿渡だ。
「…………よぉ」
「……よぉ」
互いに余所余所しく軽く挨拶を交わす。
俺がダンジョンから帰ってきた時にも猿渡は居たし、その時にリュックサックと探索者証を猿渡に渡してたりしていた訳だから、別にここまで気不味い感じにならなくても良いのかもしれないんだろうけど、あの時は非常事態で互いに何かしらの形で頭が麻痺してた。それに俺が早々に気絶したからスムーズに事が進んだんだろうけど、それをカウントせずに冷静になったら、俺達が最後に会ったのはあの第4階層の待合所で別れた以来だ。
あの時の事が印象的過ぎて、どうしてもあの時の事が頭から離れず意識してしまう。そしてそれは猿渡も同じなんだろう。だから互いに何処か余所余所しいんだと思う。
「………………」
「………………」
互いに喋ることは無い。沈黙だ。
窓の外から1番近い道路を車が通ったのだろう。その音がやけに五月蝿く聞こえる。
「あのさ……」
「あのさ……」
互いに話し掛けるタイミングと言葉が一字一句被る。それがまた気不味さを加速させる。
しかしこうしていても埒が明かない。俺から切り出す事にした。
「……ありがとな」
「………何がだ?」
「母さんから連絡が有って、俺を心配していつも潜ってるメンバーにも掛け合ってくれて、俺を救出しようとしたんだろ?だから、ありがとう」
「……ッ!」
俺がお礼を言うと、猿渡は一瞬面喰らったような表情をしたあと、すぐに弱音がボロボロ出てきそうな情けない表情をした。
「そんな、お礼を言われるようなことはしてないぞ」
「そうか……」
「あぁ……」
「………………」
「………………」
「リュックサックと俺の探索者証はどうしたんだ?一応母さんから話を聞こうとしたんだけど、母さん自身がよくわかってないみたいでいまいちよくわからなかったんだ。良かったら教えてくれないか?」
「…………先に結論から言うと、お前のリュックサックの中身はまだ換金出来てない。だから探索者証ごとお前の母親に返した。
なんで換金出来なかったかと言うと、俺とお前はあの当時パーティーを作って潜っていた訳ではないし、提示したのがお前の探索者証なのにその受け取りをしようとしたのが他人の俺だったから、規則的に俺では換金出来なかった。
換金しようとするなら、探索者証の持ち主が死んだ時、または探索者証の持ち主が半月以上の意識不明の重体または自力で換金所まで来れない場合に限り、探索者証の持ち主の現家族または正式な後見人だけが受け取ることが出来るみたいだ」
「……成り済ましの防止や持ち逃げの可能性への対処か」
「たぶんな。当然の処置だと思う」
「だな」
「………………」
「………………」
1つの話題が終わる毎に俺達の会話は1度途切れた。高校の頃では考えられない話だ。
勿論喧嘩もしたし、その時は互いに話さなかった。でも1週間も経てばいつの間にかまた一緒になって馬鹿やってた。それが今じゃこのザマだ。
どんな風に話してたんだっけ……。
「……………………はぁー……。我ながら情けないな…」
俺が昔を思い出していると、そんな声が耳に届く。
この場に居る人間は俺と猿渡しか居ないから、この主は猿渡だろう。
猿渡に視線を向けると、彼は土下座していた。
彼が何を言いたいのか、何に対しての土下座なのかは言わなくてもわかる。わかるだけに、わざわざ土下座するために来たのかと思ってしまう。
「…………土下座するほどの事か?」
「土下座するほどの事だろ」
頭を下げたまま猿渡は言う。ホント、
「馬鹿だよな…」
「………………」
「ホント馬鹿だよお前。そんで俺も馬鹿だ。お前がそうやって頭を下げるほど俺に対して悪く思ってるって事も伝わってくるし、手紙の内容的に仲直りを望んでるのも伝わってくる。そんなお前を見て、俺は俺でお前を許してお前の手紙の内容通り飲みに行ったりしたいと思ってる。期待してしまってる。
でも、互いに気不味さが有って、俺はお前を本能的に怖がらせた。お前は俺に対して怖がった。その負い目で昔みたいに話せなくなってる。
ホント、馬鹿だよな、俺達……」
「………………」
「取り敢えず面会終了時間も近いし今日は帰れ。お前の気持ちは十分伝わってる。そんで俺の気持ちは今伝えた。でも互いに整理が出来てない。だから整理が互いに出来たら、今回の事は無かったみたいにまた馬鹿な事やって笑おうぜ。それで良いんじゃないか?」
猿渡から視線を外して、猿渡が居る方とは逆の方向を見ながら言う。
猿渡からの返事は無い。ただ、啜り泣くような声が聴こえて来て、そのあと衣擦れの音がする。恐らくだけど立ったんだろう。
足音が聴こえる。その音は徐々に俺から離れて行くため扉の方へ歩いて行ってるんだろう。
「俺みたいに無茶して寝たきりになったり、ましてや死んだりするんじゃねぇぞ泣き虫」
「…………るせぇよ。言われなくてもお前みたいにはなんねぇよ。
お前こそ、今度こそこんな心配を俺やおばさん達にさせるんじゃねぇぞ大馬鹿野郎」
「ハッ、言われなくともこんな無茶はもうしねぇよ」
「………………」
「………………」
「じゃあ、また、な」
「待ってるからな」
コツコツと靴が廊下を叩く音だけが耳に入る。その音は徐々に遠くなっていく。そして何も聴こえなくなったところで、俺は猿渡が居たであろう場所を見た。
「ホント馬鹿だよ……」
半月振りの猿渡との会話は、やはり俺に暖かい物をくれた。
待ってる。そう言ったが、律儀に待つ気は無い。俺は俺で、ドンドン進んでやる。
先程までのやり取りを振り返りながら、俺はそんなある種の誓いを胸に抱いた。




