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浪人生、ダンジョンと歩む  作者: 荒木空
第2部~駅近ダンジョン~
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VS大蜘蛛~決着~


 盾に【変化】させた金属バットから脱け出し、何も考えず真っ直ぐ大蜘蛛の後ろ側へと走る。勿論途中に襲って来るであろう脚の攻撃は避けるか元に戻した金属バットで殴るかして防ぐ。


 この部屋に最初に入った頃と比べると遅いし余裕は無いけど、なんとか後ろ側に到着する。


 到着と同時に金属バットの打つ部分を【変化】で返しの付いた銛のような形状にして、跳び上がる。膝も怪我してる訳だから、ハッキリ言ってかなり痛い。痛いけど、なんとか大蜘蛛の腹までは届いた。


 「刺 さ れぇぇえええ!!」


 手が切れそうだとか手に刺さりそうだとか、そんな事を無視して腹に生える毛を左手で掴み、目の前の腹に向かって【変化】させた金属バットを突き出す。


 「キゥァアアアアアアアア!!」


 聞いた事のない音が耳に入る。それが大蜘蛛の悲鳴だと気付くのにそう時間は掛からなかった。

 大蜘蛛は悲鳴を上げると共に体を大きく振った。右へ左へ、上へ下へ、時には大きく跳び上がったり腹を木に打ち付けるなどして暴れ回った。


 俺にはしがみつく事しか出来なかった為、死に物狂いで腹にしがみついた。


 しかし、大蜘蛛も馬鹿ではないらしい。すぐに木と木の間に移動するとお尻から糸を出し、唐突に巣を作り始めた。

 流石に何をしたいかわかった為、無理矢理金属バットを大蜘蛛の腹から引き抜き、大蜘蛛の腹から離脱する。…………何度か大蜘蛛の腹を金属バットで突き刺してからだけど。


 木の根の隙間に移動した俺の予想は見事に当たり、案の定大蜘蛛は出来た巣に、特に俺が居た辺りの腹を入念に巣の糸に擦り付けたり巣を確認するような動作を始めた。


 たぶんあのままあそこに居れば、今頃巣に引っ掛かっていたんだろうって思うとゾッとするな…。


 再び俺は金属バットを持ち手の付いた盾に【変化】させ、隙間に入り込んで盾で蓋をする。今度はちゃんと、盾に少し視界確保のための覗き穴も開けといた。


 穴から覗くとまだ大蜘蛛は巣に腹を擦り付けてる。

 どうやらまだそこに俺が居ると思っているらしい。擦り付ける度にシルクのような白い糸に日焼け止めみたいな色の白い少しプリッとした液体が付く。


 …………気持ち悪い光景だな…。


 1度覗くのを止め、持ち手を引っ張りながら木の根に(もた)れる。

 そしてリュックサックから水をなんとか取り出し、蓋を開けて中の水を飲みながら、今度は大蜘蛛から飛び散ってる白い液体について考える。


 虫からそもそも液体なんて出るのか?出てもそれは毒液なんじゃないか?そんな事を思い付く。でもすぐに毒液という考えは捨てた。前に見た映画で虫を食べる文化圏の食事シーンで出てきた虫の甲殻の中身が白かった事を思い出したから。

 あの時はカブトムシだったけど、まぁ同じ虫だし蜘蛛も腹の中の肉というか内臓というかは白だろ。


 そう仮定した場合、じゃあつまりあの大蜘蛛は今、自分の身を文字通り削って俺を自分の体から引き剥がそうとしてるって事になる。

 なんて言うか、ここはダンジョンの中だし大きさも普通の蜘蛛とは違うけど、『自然界』ってものを強く意識させられるな……。


 「っと」


 危ない危ない。また脱線してた。

 つまり、惨くて俺のポリシーには反するけど、あの大蜘蛛の体を徐々に徐々に削ってやれば、時間は掛かるだろうけど確実に勝てる。勿論次やその次にもあぁやって体を削ってくれるかはわからないけど、勝ち筋が無かった暗闇に出来た光だ。試さない訳にはいかない。


 もう1度覗き穴から大蜘蛛の様子を見る。

 覗いた先では大蜘蛛がキョロキョロと何かを探している。


 まぁ、十中八九俺だろうけど。


 この盾は金属バットの色をしてる。つまり色が剥げ落ちてるけど青色と銀色をしている。自然界で青色なんて深い海か空の色くらいなもんだ。そんな色が木の根部分にあるのにそれがわからないってことは、たぶん目が悪いんだろう。


 これでまた1つ攻略方法がわかったな。


 俺はちょこちょこと木の根部分沿いに盾を構えたまま大蜘蛛の近くまで近付き、時を窺う。

 狙いは大蜘蛛の意識が完全に巣から離れて俺を探す為に巣を背にしたとき。その時に再びあの腹にブチ込んでやる。




 そしてその時はすぐにやって来た。

 大蜘蛛が巣から離れた。巣から離れるんだから当然巣を背にする事となる。

 俺は脚に溜めれるだけ力を溜めて、その溜め込んだ力を解放するように地面を蹴る。


 景色はすぐに大蜘蛛の腹の下に変わる。そこから俺は、最初に大蜘蛛の腹に張り付いた所とは別の所を目掛けて跳び上がる。

 2回目ともなればかなり楽に到着する事が出来、直ぐ様左手で大蜘蛛の腹の毛を掴んだ。そして目の前の腹目掛けて返しの付いた銛のように【変化】させた金属バットを突き刺し、その場で傷口を拡げるようにグリグリと掻き回す。


 「────────!!!!」


 再び部屋に悲鳴のような音が響く。それに合わせて()()が激しく揺れる。恐らく、本来ならここでさっさと金属バットを引き抜いて離脱するのが賢いんだろうけど、欲張る事にした。

 俺はそのまま毛から左手を離して大蜘蛛の腹の上に向かって今居る位置より高い所の毛を掴む。そして今度は金属バットを引き抜いて、左手より高い位置目掛けて更に金属バットを刺す。




 最早音すら鳴らなかった。音すら鳴らさず大蜘蛛はその巨体を激しく揺らし、時には木に体をぶつけ、時には作った巣に体を擦り付け、大蜘蛛は必死に俺を引き剥がそうとした。

 それを俺は時にはその巨体に張り付き、時には激しく気持ち悪くて嫌だったけど拡げた傷口の中に無理矢理体を捩じ込んだりしてとにかく大蜘蛛の腹を傷付けた。


 やはりというか、大蜘蛛の肉というか中身は人が触れて良いものではないらしく、腹の中に入った時は体から煙が上がった。だからずっと腹の中に入ってて、腹の中から大蜘蛛の中身を抉りまくるという作戦は出来なかったけど、とにかく大蜘蛛の腹を傷付けまくった。




 そうして更に時間が経つこと体感数時間。遂にその時がやって来た。

 大蜘蛛の体をグサグサ傷付けまくっていると、ある時を境に大蜘蛛は糸の切れたマリオネットかのように突如その抵抗をやめた。

 何か来る!と身構えた。でも大蜘蛛は全く動く様子はなくて、次第にその体がサラサラと細かい光の粒というか砂のようなものとなりその場から姿を消す。

 その場に残されたのはリストバンドみたいな腕輪と大蜘蛛の糸と思われる白い塊と拳大のあの石だった。


 それを確認した瞬間、俺は直ぐ様その場に大の字で寝転がる。そして何度も何度も過呼吸かと言えるほど何度も胸を上下させて、天井を見上げた。


 「……………………ははっ!」


 勝った!その歓喜と生き残ったという安堵感とやりきったという達成感。これ等が胸一杯に広がり、それ故にこれまで溜まっていた疲労感が一気に押し寄せ眠くなる。というか寝てしまいたい。

 それをグッと堪えて重たい体を引き吊りながら戦利品を回収して腕輪はなんとなく手首に填めてジャージの袖でそれを隠して、いつの間にか出現していたエレベーターのようなあの門を潜って第5階層の待機室だと思う場所に移動し、そのままダンジョン入口まで戻ってその日のダンジョン探索を終えた。


 今日は本当に死ぬかと思った。早く帰って母さんのご飯を食べて温かい風呂に入って布団に入って熟睡したい。



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