決別
黒く濁った石や、刃毀れた剣や棍棒を回収してリュックサックに仕舞う。仕舞い、ボス部屋の外に居る猿渡を呼ぶ。
「猿渡、終わったぞ」
しかし猿渡が来る気配は無い。どうしたのかと思い猿渡の居る方を見れば、猿渡はその場に腰を下ろしていた。
…………またか。
俺は猿渡に近付いた。すると、猿渡は同じだけ後ろに下がった。その顔は呆けたように間の抜けた顔をしていることから、恐らく後ろに下がったのは偶然か、無意識だろう。
………………猿渡は俺の事を化け物と言ってたな、そう言えば。怖いとも言ってたな。……そういうことか。
まぁ、2度目だし、ある程度心の整理もついてた。田中の事が有ってから考えてた事を実行するのにはちょうど良いだろう。
俺は猿渡に、彼が反応出来ないほどのスピードで近付き、そのまま彼を担いでこの場所の中央に移動する。なんとなく、次の階層への入口はそこのような気がしたからだ。
真ん中まで移動し、そこの地面に触れる。すると慣れたホワイトアウトが起こり、無事に第4階層の待機室に着く。
着いたら猿渡を下ろし、彼の目の前に刃毀れた剣を数本と黒く濁った石を5つほど置いた。そして優しく触れるように猿渡の頬を叩き、正気に戻す。
「おい猿渡、正気に戻れ」
俺が近くで頬を叩きながら声を掛けると、猿渡はハッとし、「あ、え、もう終わったのか?」などと本当に驚いたような声を上げる。しかしその声と体は震えている。
…………………。
「猿渡、大事な話が有る。聞いてくれ」
「どうしたよ改まって」
「確認だが、今日本で1番潜られてる階層ってのは何階層なんだ?」
「だからどうしたんだよ急に」
「良いから答えてくれ」
「…………確か東京の秋葉原に有るダンジョンが7階層まで潜ってるな」
「じゃあこのダンジョンの最高到達階層は?」
「………ホントなんでそんなこと聞くんだ?
このダンジョンは最高が確か第3階層だった筈だ」
つまり、今は第4階層が最高到達階層で、俺達だけと。
「猿渡、今日限りでお前と潜るのは止めようと思う」
「……はぁ?なんだよ急に。お前、さっきからおかしいぞ?」
「…………どういうことかは、自分の体を見てみろ」
猿渡は怪訝そうな表情をしたあと、自分の手を見た。そして俺が何を言いたいのか察したのだろう。一気に情けない表情をした。まるで、今からすぐにでも泣きそうな表情だ。
「そういう事だ。だからもう、お前とは潜れない」
「いや、でも、お前!いや、確かにそうだけど……、だが!」
「お前、俺がゴブリン達を倒してお前を呼んだ時、どういう行動したと思う?」
「…………え?」
「俺が近付いた分だけ後退ったんだよ。表情は間の抜けた情けない表情なのに、体は震えて今にも逃げ出したい。そう体で表現してた」
「……………………」
「田中の件で、お前にこれ以上迷惑を掛けられないと思っていたところにこれだ。だから猿渡。俺はもう、お前とは、いや、俺はもう、誰とも潜れない」
「…………すまねぇ……」
「気にすんな。一昨日のでもう、化け物と言われる覚悟は出来た」
「すまねぇ……」
「この目の前に置いた刃毀れた剣や棍棒や黒く濁った石は俺からの餞別だ。受け取ってくれ」
「すまねぇ……」
「そういう訳だ猿渡。お前も死なないよう、頑張れよ」
「すまねぇ……。すまねぇ……。本当にすまねぇ……」
「………………」
後ろから「すまねぇ……。すまねぇ……」という啜り泣くような声が聞こえる。それをBGMに、俺はエレベーターで帰還した。
胸にポッカリと穴が空いたような、そんな虚無感と共に。




