親友
「よし来たな。先に酒を飲めるようになった先輩として言ってやる。嫌なことは酒飲んで忘れろ」
「先に酒を飲めるようになったって、俺と一月も誕生日変わんねぇだろ……」
「ほら、またそうやってすぐ暗くなる。良いから飲みに行くぞ。美味い店、予約入れてるからよ」
猿渡に飲みに誘われて、来ようか悩んだが、昨日の今日で俺を誘ってくれる猿渡の好意に甘える事にした。
そして待ち合わせ場所から現在猿渡の言う店に向かっている。
「ここがそうなのか?」
「おぅ、静かにのんびり、内緒の話をするときなんかにも向いてる『明鏡止水』って店だ。ここの酒も料理も最高なんだぜ?」
『明鏡止水』。確か、邪念のない落ち着いた静かな心境、だったか?その名前を冠してるって事は、それだけ落ち着いた雰囲気なのを徹底してるのか?飲み屋なんだからワイワイガヤガヤしてるイメージが有るんだが……。
まぁ、入ればわかるか。
猿渡と共に中に入る。
中に入り、猿渡が店員さんと話して、席に通される。そこは本当に個室のようで、中もゆったりとした造りのようだ。
店員さんに飲み放題とかいうものの説明を受け、それを頼む。
猿渡はビールで、俺は飲み慣れてないということで「取り敢えず甘いお酒を」と注文する。そしてお酒とお通しってのが運ばれてきて、何気に楽しみだった乾杯をする。
こんな状況じゃなければ、純粋に楽しく飲めるんだがな……。
「おうおう、酒の席なんだから、いつまでもくよくよしてんな!あーいや、しても良いが、取り敢えず今は酒と料理を楽しめ!」
猿渡は慣れた様子でビールを飲んでお通しの枝豆を「やっぱりこの組み合わせは最高だな!」なんて言いながら食べる。
俺もそれに釣られて飲んで食べてみる。
スライム水などのダンジョン産の食べ物と比べると味の質は落ちてる気がするけど、確かに美味しい。これでビールが飲めたら更に美味いのだろうか。
互いにあっという間に1杯目を飲み終わり、お代わりのお酒を頼むと共に料理も注文する。
お酒はほどなくして俺達の席に届いた。料理はまだらしい。作る時間も有るからそりゃそうか。
お酒が届いたタイミングで、猿渡が真っ赤にした顔で唐突に切り出してきた。
「すまなかった」
唐突な謝罪。何に対してかは、心当たりが有り過ぎた。
「いや、むしろ、お前が言ってくれて良かったと思ってる。ただ俺がそれを受け入れられないだけだ」
「そりゃ受け入れられないだろうよ。昨日の今日だ。いや、だからこそもう少し言葉を選ぶべきだったと思ってな」
「………十分選んでくれてたと思うけどな…。まぁ良いよそれは。仕方ない。俺が周りより圧倒的に、それこそ化け物に見えるぐらいいつの間にか強くなってたってだけなんだから」
そう、安全にをモットーに潜っていたら、その安全にが思った以上の効果を発揮していた。ただそれだけの話だ。あのダンジョンが特殊だったのも関係しているだろう。だから、そう。今回の事は誰も悪くない。
「今回の事は誰も悪くない。偶然が偶然を呼んで、それが奇跡的な事実を呼び込んだだけだ。だからもう、謝らなくて良い」
「…………そうか」
「あぁ……」
俺と猿渡との間に、しばらく沈黙が続く。
そんなタイミングを知ってか知らずか、ある意味ちょうど良いタイミングで料理が届いた。
「……取り敢えず食わねぇか?」
「賛成」
料理を食べる。猿渡の言う通り、この店の料理はかなり美味しい。だから箸が進む。
料理が残り半分になった頃、再び猿渡が話を切り出してきた。
「お前の今後の探索についてだけどな、」
「…………あぁ」
「まず基本1人で探索するのがお前の為だろう。ただ誰にも見られないように気を付けろよ。見られる可能性が有るところでは、出来る限り全力じゃなくかなり力を抑えたやり方でやれ」
「力を、抑える……」
「次にダンジョン攻略した事を俺に教えたよな?俺以外の人にはもう絶対に言うな。家族にはもう言ったかもしれないから良いが、その家族にはダンジョンを攻略したことは胸の内に秘めとくように言っとけ」
「わかった」
「それ等を踏まえて聞きたいんだが、次、いつ潜るよ?」
俺はここでの猿渡の申し出に目が見開いた。まさか、本当に提案してくれるとは思わなかったからだ。昨日のは、その場の言い訳か苦し紛れの俺を慮っての言葉だと何処かで思っていた。
「その、良いのか?お前の場合大学も有るだろ?」
「大学なんて基本、テストさえ点が良ければ、ある程度出席したらそれだけで単位貰えるんだ。で、俺はもう、前期の単位は取り終えてる。だからあとはテストだけ受けて点数が良ければなんら問題は無い。だから、明日……は酒残ってるかもしんねぇから、すぐに潜るなら明後日とかからでも潜れるぞ」
猿渡の言葉に涙が出そうになる。
こんな良い奴、滅多に居ないぞ……。
「あぁ、ありがとう。そうだな、じゃあ明後日頼めるか?」
「おぅ!任せとけ!」
そのあと、飲み放題が終わる時間一杯まで飲んだり食べたりの暴飲暴食をした。頼み過ぎて2人で2万ぐらいしたが、それはそれで良い経験だ。
互いに肩を組み、いつも高校から帰る時に別れてた分岐点まで移動する。今の俺達を端から見たら、漫画やアニメのような酔っぱらいだろう。
分岐点に到着し、自然と互いに離れる。
「じゃあまた明後日の朝な」
「あぁ、またな」
行きまでとは違い、俺の心は晴れやかだった。




