探索開始
通路の先は今度こそ洞窟といった様相で、此処からが本番といった感じだった。
おぉ…、雰囲気有るな……。
洞窟の中を進む。洞窟、といっても通れるところは1ヶ所しかない一本道で迷うことは無さそうだった。
幾分か進むと拓けた場所に出た。その中心に見覚えのある姿が2つ。物体Xだ。
俺はすぐに近寄って、片方を蹴り抜く。蹴った方の物体Xはサッカーボールを蹴った時のように綺麗に飛んでいき、この部屋の隅の方のでベチャっと潰れた。
それを見届けたところで横から何かの衝撃が有り視界が揺らぐ。
頑張って堪えてこれまた頑張って距離を取ってみると、残ってた物体Xが俺目掛けて突進してきていた。恐らく先程視界が揺らいだのも突進のせいだろうということは、状況から考えて正解だろう。
「っにゃろう!」
初めて物体Xと交戦?した時と同様、突進に合わせてバットを振り抜く。それにより物体Xは宙を舞い、天井に当たってこれまたベチャっと潰れた。
ホームラーン!ってな!
その後、交互に突進してきては俺が打ち返すというのを繰り返し、次第に物体Xは動かなくなり、最終的にはフルフルと震えるだけになった。
その段階になり、俺は近付いて物体Xの片方をバットで何度も殴って倒した。
そしてもう片方だが、なんとなく刺したらどうなるか気になったため、金属バットをナイフに【変化】させ、それで何度もぶっ刺した。
結果、バットで倒した方はまた黒く濁った石がバットで倒した物体Xの居た場所に落ちてて、ナイフで倒した物体Xの居た場所には何故かペットボトルが落ちてた。
……何故ペットボトル?
両方拾い上げて、石はポケットに仕舞って、ペットボトルを見る。そこには『モンスター産の美味しい水!これを毎日飲めば長生き出来るよ!』と書かれていた。
……胡散臭い。
しかし今の俺は咽が渇いていた。そして目の前には胡散臭くとも美味しいという水がある。
自分でも咽が鳴ったのがわかった。
…………。
俺は意を決してその美味しい水とやらを飲むことにした。
美味しい水を飲んでみる。
飲むと、まず感じたのは水が体に浸透していく感覚。普通ならよほど咽が渇いてないと自覚しない事だろう。
次に感じたのは体が作り替えられてる?と錯覚する程度の違和感。体が作り替えられるってなんだという話だが、直感的にそんな感覚だと思った。でも気のせいだと思うほど微々たる物だったし、不思議と不快感は無い。むしろ好調だ。
最後に感じたのはその感じた違和が体に馴染む感覚だ。これは水が浸透していく感覚と似ている気がする。
そして何より、
「むちゃくちゃ美味ぇ!」
なんだこの水?!これが所謂ポーションなんじゃねぇかってぐらいめちゃくちゃ美味ぇ!
俺はあまりの美味さにあとの事を考えず全部飲み干してしまった。
「まだ飲みてぇ!」
そのあと俺は、この部屋と次の部屋を行ったり来たりして物体Xをナイフでめちゃくちゃ狩った。出る度に飲んで、飲み終わったペットボトルはその辺に捨てて、とにかく腹がチャプンチャプンになって動けなくなるまで続けた。途中何度かバットにして殴り倒したりもしたけど、とにかくナイフで倒した。
どうやらバットだと黒く濁った石が、ナイフだとあの水が出るらしい。これは良い発見だった。
飲むのが苦しくなった段階で、俺は持って帰る分で数本水を確保してから自室へと戻った。
戻って外を見てみると、何故かまだ外は明るい。何故だ?少なくとも5時間は中に居たぞ。それなのになんでまだ空は青い?
慌てて時間を確認してみると、時間は入ってから5分ほどしか経っていなかった。
次に携帯で日付を確認したが、日付は5月21日のままだ。
どういう事だ?
訳もわからず、しかし確かな虚脱感と空腹具合に、俺は1度リビングに向かった。
「あら、どうしたの?」
リビングに行くと母さんが話し掛けてきた。その顔に心配の色は無い。
「……ダンジョンに行ってきた。5時間ほど」
「? 5時間って、何を言ってるの?さっきダンジョンの事を話してからまだ10分も経ってないわよ?」
言われて確信する。ダンジョン内の時間はこちらでの1分はダンジョン内の1時間ということを。
俺は石とペットボトルを母さんに見せた。
「お土産」
「何、この汚い石とペットボトルは?」
「石はよくわかんないけど、ペットボトルの水はめちゃくちゃ美味しい。両方ともダンジョンのモンスターを倒して手に入れた」
俺がそう言うと母さんは怪訝な表情を浮かべ、俺をジッと見つめてくる。
俺もそれをジッと見つめ返した。
「……嘘、じゃないのね?」
「うん」
そう返事をすると、母さんはペットボトルの1つを受け取り、おもむろに水を飲んだ。
「お、おい」
俺の制止も聞かずゴクゴクと全部飲み干す母親のその胆力というか根性に驚きながらも飲み終わるのを待つ。
飲み終わった母さんはペットボトルを机の上に置きこう言った。
「もっと取って来なさい。備蓄出来るぐらい多く!」
そう言うと母さんは残りのペットボトルを俺から奪い取り、ゴクゴクと全部飲み干した。
お、俺の5時間の苦労が……。
それから、登山用の大きなパロットグリーン色のリュックサックを背負わされ、何度も何度もダンジョンと家を往復させられた。
リュックサックには1回のトライで12本入った。リュックサックには余裕は有ったが、それ以上は身動きの関係で断念した。いや、500mlのペットボトルとはいえ12本もあれば背中に市販の2リットルのケース一箱分の半分ぐらいの重さが有るんだ。いくら物体Xが弱いとはいえ動けなくなるのは危ない。
勿論咽が渇けば、その都度飲んだ。本当は何か食べたい気持ちも有ったが、無いものは仕方がない。
そうしてダンジョンと家を往復し続ける事、家の時間で1時間半。リビングにはかなりの量の水が並んでいた。軽く販売出来る程度には有る。
「よし、孝則。母さんは今からこれをご近所様たちに配って来るから、アンタは更なる補充を頼んだ!」
「ちょっ、母さん待って!流石に休ませて!それにご近所って、今からこの辺の家、全部回るの?!何分掛かると思ってんの!?」
「どのくらい掛かるかなんてアンタに言われなくてもわかってる。というか、田舎のご近所付き合いは洒落にならないんだから。それに、こういう時こそ助け合いでしょ!」
「いや、そうだけど!」
「じゃ、行ってくるから、またよろしくぅ!」
「ちょ母さん!」
またも俺の制止も聞かずに母さんは外へ出て行った。
俺は疲れも有り玄関を出て行った母さんを追い掛けることはせず、自室に戻ってゆっくり一服したあと、またダンジョンに潜った。




