衝撃の事実
さっさと受付で登録を済ませ、早速猿渡とダンジョンに潜る。
「此処は第1階層には何が出るんだ?」
「蟻だ。中型犬ぐらいの大きさの蟻がだいたい1度に2匹から最大5匹出てくる」
「なんだ、1体ずつじゃないのか。不親切だな」
「お前がクリアしたダンジョンは違うのか?」
「最初は雑魚スライム1体。その次の部屋が2体。そうやって増えていってボス部屋が5体って感じだったな。道も1本道だ」
「なんだよその初心者専用みたいなダンジョン。俺ならお前より早く攻略してやったのに」
「お前はあの地獄を知らないから言えるんだよ」
特に第4階層は何度心が折れた事か。
そうこう話している内に目の前に蟻が3匹現れる。
「どっちが何体担当する?」
「まぁ、ここは此処の先輩たる俺に任せろ」
そう言って猿渡は拳を構えて蟻へと駆け出した。
しっかし、遅いな猿渡のスピード。手を抜いてるのか?まぁ、第1階層だしあり得そうだな。
「【硬化】!」
猿渡はそう叫ぶと蟻の1体の横に回って体の節目掛けて拳を突き出す。
拳は見事に蟻の体に突き刺さり蟻が『ギィイ!』と鳴いた。蟻って鳴くんだな。猿渡は拳を蟻から抜き、他の蟻にも同じように節を殴って拳を突き刺しを繰り返したあと、こちらへ戻ってきた。
蟻達は何故だかわからないがこちらには来ず動いている。その様は藻掻き苦しんでいるようだった。
「おい、まだ生きてるぞ?」
「あ?知ってるよ。これで死ぬのを待つんだよ」
「……そんな惨いことしてるのか?」
「惨いって……、あのな加藤。アイツ等はモンスターだ。モンスターに可哀想も惨いも無いんだよ。安全に狩れたらそれで良いんだよ」
猿渡のあまりにも酷い物言いに思わず顔をしかめてしまう。
「わかった。お前はそういうスタンスでやってるんだな。だったら俺は俺のスタンスを貫かせてもらうわ」
俺はケースから金属バットを抜いて、バットで1体1体の頭をバットを振り下ろして潰してやった。
それだけで蟻達の頭は潰れ、黒く濁った石へと姿を変えた。
「ヒュー。頭に1発とかえげつねぇ……」
「モンスターだけど生きてるんだからな。苦しんで死ぬより、最後はスッパリとトドメを刺してやる方が後味が良い」
「え、お前、そんなスタンスでダンジョン潜ってんのか?ハァー!ダンジョンクリアした奴はその心持ちも違うってか?」
「茶化すな。俺は1度、俺を恨んでるような目で睨みながら苦しんで死ぬモンスターを見てからダンジョンのモンスターだからと割り切れなくなっただけだ」
「はぁー、なんて言うか、相変わらず真面目ちゃんなんだな」
「だから茶化すなって。お前、動物系のモンスターか人型のモンスターを相手にしたこと有るか?」
「いや?まぁ一応第3階層までは潜れるがそんなに戦ってないな」
「なら1度動物系か人型のモンスターとやりあって同じように苦しむように倒してみろ。アレは精神に堪えるぞ。
……さぁ、石を回収して進もう。どうやらこのダンジョンでも俺の攻撃は通用するらしいから、サクサク進もう。ここには稼ぎに来てるんだろ?」
「おう!それもそうだな!よし、進もう」
俺達はその後も何度も何度も蟻達との戦闘を繰り返した。どうやらこの階層は蟻しか出ないようで、しかも戦利品は黒く濁った石だけのようだ。まぁ、もしかしたら斬ってトドメを射したらまた変わるのかもしれないけどな。
ほどなくしてボス部屋に到着した。
「ハー、潜った初日で1階層のボス部屋ですか。
なぁ加藤?これからお前に寄生しても良いか?」
「断る。これぐらいなら良いが、今後連携しないと駄目となるとどちらかが必ず足を引っ張る。それで共倒れはごめんだ」
「あー、それもそうだな。俺も基本大学の友達と潜ってるし」
「そういう事だ。さぁ、ボス戦だ。互いに死なないように頑張ろう」
俺達はボス部屋の中を覗き見た。
ボス部屋には中型犬ぐらいの大きさの蟻が5体に大型犬ぐらいの大きさの蟻が1体居た。大型犬サイズのがボスか。
「猿渡、ボス戦の経験は?」
「5人以上でなら。少なくとも2人とか正気の沙汰じゃない」
「わかった。じゃあ1度、俺1人でやってみるからここで見といてくれ」
「お、おい。それは流石にナメ過ぎじゃないのか?」
「お前と一緒に入って、苦しませるぐらいなら1人で入った方が俺は良い」
そう言って俺は、1人ボス部屋へと入った。
後ろから猿渡が何か言ってるが、今はもう蟻達に集中してるから何を言ってるか理解出来ない。
バットを【変化】で脇差しサイズの刃物にして逆手に持つ。
「よぉ蟻達。今からお前等殺すけど、出来るだけ楽に殺してやるから、抵抗しないでくれよ」
言いつつ天井と壁までの距離を見る。蟻達は部屋の真ん中に居て、そこから俺の居るところまでがだいたい20メートルくらいか。
住む家の部屋として見たら十分広いが、戦うとなると狭いな……。
蟻達は俺が話し掛けた事で俺に気付き、取り巻き5体が俺のすぐ目の前まで近寄って来ていた。
「オラ!!」
1番近くの蟻の頭に刃物を突き刺し、突き刺した所を支点に蟻の背中に乗る。
そして持ち方を変え、力任せに刃物を突き刺した蟻の尻の方まで引っ張る。それだけで蟻の体は綺麗に裂け、蟻の顎のような物に姿を変える。
そのまま俺は次に近い蟻の所に行き、再び逆手に持ち直した刃物を縦に構えてその状態でタックルをする。それだけで蟻に綺麗に刃物は入り、体はこれまた綺麗に裂けていき顎のような物に姿を変える。
次に近い蟻には【変化】をやめて元に戻った金属バットで頭を叩き込む事で倒す。蟻は黒く濁った石へと姿を変え、残りボス含め3体となる。
そこで取り巻きの1体が俺に肉薄してきた。俺の体は今にも蟻の顎に挟まれそうになっていた。
これを咄嗟に【硬化】を服に掛ける事で防ぎ、噛み付いて来た蟻を蹴り上げる。蹴り上げると蟻は大きく体を持ち上げ、それと同時に俺を解放する。解放された俺は仰け反る蟻の体にバッティングの要領でバットを叩き込む。蟻は爆発するようにバットが当たった所から弾け、黒く濁った石になる。
残る取り巻きも俺に近付いて来ていた。俺はその最後の取り巻きに向けバットを3体目と同じように頭にバットを打ち込む事で倒す。
そこで一息吐き、ボスを見る。
ボスは顎をガチガチと鳴らし、威嚇してきている。俺が1歩近付けば、ボスも1歩下がる。
それを見た俺は、【変化】で太さ2センチを保った状態で伸ばせるだけ刃物を伸ばした。最終的に175センチの俺より少し短いぐらいの長さになった剣を居合いの要領で構える。
俺と蟻との間に1拍の間が出来る。
そこで息を大きく吸って、吐き出すと共にボスへ向け駆け出す。
ボスも覚悟を決めてくれたのか俺に向かってくる。
俺はボスの横を走り抜ける。走り抜ける際、剣を一緒に振り抜く。
そして完全に走り抜けたあと、振り返ってボスへと再び駆け出し、剣を縦に構え力任せにボスの尻から頭へ向け駆け抜ける。
ボスの体は俺に十字に斬られた事により完全にその命は尽き、少しだけ黒く濁った石へと姿を変えた。
「ふぅー……。猿渡!終わったぞ!」
戦闘が終わったため集中を解き、猿渡に声を掛けた。
声を掛けた猿渡はボス部屋の入口で座り込んでいた。
「?どうしたんだ猿渡?」
「お、おまっ!自分が何やったかわかってんのか!!?」
「?」
「…………そういえば、少し天然入ってたな……」
猿渡はそう言ったあと立ち上がり、ボス部屋へと入ってきた。
「お疲れ様。いや、疲れてないんだろうな、その様子だと」
「?さっきからどうしたんだよ猿渡?様子が変だぞ」
「んぁ?あぁ、それには理由が有るんだよ加藤。
加藤、悪いことは言わない。俺以外の奴とは組むな。組んでも信頼出来る奴だけにしておけ」
「急に何言って」
「ハッキリ言う。今のお前の戦いを見て俺はお前が怖くなった。でも普段のお前を知ってるし、お前は絶対無闇矢鱈にその力を使うとは思わない。
でもな加藤。お前、今ここに潜ってる俺達他の探索者の何倍も強い。俺からどう見えてるか教えてやろうか?」
「………………何さ?」
「化け物だよ。そのぐらい今の戦いは次元が違った。だから、周りの声を聞きたくないなら悪いことは言わないから誰とも会わないように、会ってもその力を見せるな。見せたらお前がしんどくなる」
「……………………そうか」
「そうだ」
猿渡から告げられた事実に、俺は言葉が出なかった。
その日は2階層に下りて待機室から戻った。
この日はもう、潜る気にはなれなかったから。




