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浪人生、ダンジョンと歩む  作者: 荒木空
第1部~自室のダンジョン~
35/68

自室のダンジョンクリア


 「ジャージ良し。リュックサック良し。金属バット良し。

 体調良し。体の可動域良し。


 よし、準備万端。よし、潜るぞ」



 7月11日。この日は俺にとってとても意味の有る日になるだろう。その証拠に、体が朝からやけに高揚している。

 今日、俺は、ダンジョンの最終階層に(のぞ)む。


 深呼吸をし、呼吸を整える。


 よし!行くか!


 俺は最終階層の待機室へと移動した。




 最終階層の待機室は、やはり今までと同じ作りだった。エレベーターの光るランプのようなものも、これで全てが点灯している。


 「………………」


 通路の先を見据え、もう1度深呼吸をする。なんだか緊張してきた。それを深呼吸とストレッチで和らげる。


 「よし、よぉし、行くか」


 一歩踏み出す。そのまま歩を進めていると、最初の部屋に到着する。そしてその最初の部屋は、ボス部屋だった。第4階層と似ている。

 しかし第4階層とは全く違った。ここに来て、未知のモンスターがそこには居た。緑色の肌、長く伸びて尖った耳、口は大きく裂け鋭い牙が生えている。腰には腰布だけを巻いており、見るからに手入れのされていない刃毀(はこぼ)れた剣を握っている。

 瑠璃じゃなくても俺でもわかった。それはゴブリンだった。そのゴブリンが、いきなり5体居た。


 最終階層、鬼畜過ぎやしませんかね?いきなり人型5体とかきつすぎ。


 しかしそうも言ってられない。奴等は確かにボスモンスターで、俺がアイツ等を倒さなければいつまで経ってもダンジョンを攻略出来ない。


 俺は覚悟を決め、いつもの戦法を実行するためタイミングを計る。


 まだだ、まだ待て。

 まだだ、もう少し待て。

 もう少し、もう少しで向こう向く。

 よし、今!!


 俺は駆け出し、1番手前のゴブリンの心臓部分目掛けて【変化】で俺が1番使いやすい長さ、ネット曰く脇差しぐらいの長さにしてゴブリンの心臓部分を狙う。


 他のゴブリン達が俺の存在に気付いた。やはり最終階層のボス部屋、反応が早い!

 でもコイツだけは、コイツだけは仕留める!!


 狙いを定めたゴブリンがこちらへと振り向く。

 刃の切っ先は、狙いを定めたゴブリンが完全にこちらを振り向いたと同時に、狙った場所へと辿り着いた。


 辿り着いた。それと同時に俺はそのゴブリンの腹を蹴って大きくバックステップをして距離を取る。殺せたか殺せてないかの確認なんて後回しだ。今は攻撃が来るのに備えないとならない。


 ゴブリン達は仲間が1体殺られた事に苛立ちを覚えたのか、グギャグギャ言いながら剣を構えて俺目掛けて突進してきた。

 勿論俺は逃げた。人型の1対多戦なんて生まれてこの方やったことなんてない。だから逃げる。逃げて、足が速いのから順に斬る。斬ったらまた逃げる。その繰り返しだ。


 少数で回り込まれたらその内の1体を轢いて刃物で殺そう。

 多数で回り込まれたら後ろに居る奴を刺して横に逃げよう。

 壁に追い詰められたら突破出来そうな所に突進してそこから逃げよう。

 とにかく俺、足を動かせ!完全に囲まれたらリンチだ!だからとにかく逃げろ!逃げて活路を見出だせ!!


 俺は足を動かし続けた。


 どれくらい時間が経っただろう。気付けばゴブリン達は1体だけを除き体は傷だらけで、俺は血塗れで、ゴブリンの数が2体にまで減っていた。

 俺は傷だらけでまだ息の有る個体にトドメを射す。

 これで残すは1体だ。


 『ゲヒヘ』


 笑った、のだろう。ゴブリンが俺には理解出来ない声で鳴く。その笑みは嫌悪感を覚えるには十分なものだった。


 『ゲヒヘ。ゲヒヒ、ゲハハハハハハ』


 笑う。嘲笑(わら)う。嗤う。嗤ったあと、ゴブリンは俺に向かって剣を振り下ろしてきた。咄嗟の事だったため、俺は回避が間に合わなかった。仕方なく脇差しで受ける。

 ゴブリンの顔が近くなり、ギリギリと鍔迫り合いが起きる。互いの顔は拳3個分ほどの距離に有り、ハッキリ言って嫌悪感以外抱かない。


 ゴブリンは尚も嘲笑(わら)ってやがる。


 「調子に、乗んじゃ、ねぇ!!」


 「ゲハ!」


 押され気味だった鍔迫り合いを、ゴブリンの腹を蹴ることで一旦距離を取った。


 距離を取り、脇差しをネット調べの普通の小太刀ぐらいまで伸ばし、刀身を分厚くして逆手に持って構える。


 「良いぜ、やってやらぁ。チャンバラがお望みなら、俺も技術の向上がしたいからな。トコトンまで付き合ってやる」


 ゴブリンは起き上がる。起き上がると、再び嗤い、出鱈目に持った剣で斬り掛かって来た。


 「鍔迫り合い上等!殺し合い上等だよクソッタレ!!」


 半分自棄だった。しかし、この時は何故かこうしなければならない気がした。



 まず斬り掛かって来たゴブリンが上から剣を振り下ろして来る。俺はそれを、ゴブリンが剣を持ってる方側に避けて、すれ違い様にゴブリンの腹を斬る。


 「誰がマトモに相手してやるかよ!バーカ!」


 互いが互いに相手に背を向けた状態になる。

 別に示し合わせた訳ではない。示し合わせた訳ではないが、ほぼ同じタイミングで俺達は再び向かい合う。

 ゴブリンの腹からは血が流れている。マゼンタ色と黒を混ぜたような汚い血だ。採血の時の血の色に似ている気がする。しかしゴブリンはそれを気にした様子は無く、一瞥したあと何事もなかったように、三度(みたび)斬り掛かって来た。

 今度は右斜め上から左斜め下へ。さっきよりもスピードが速い。

 俺はそれを避けきれないと判断し、剣で受け流す。

 ゴブリンは受け流されても尚俺の方へと進み、片腕で何度も何度も斬り掛かって来る。その度に俺は、後ろへと下がり、気付けばいつの間にか壁際まで押しやられていた。


 『ゲハハ』


 ゴブリンから再び嘲笑(わら)いが漏れる。それは下卑たもののように聞こえた。


 「ふざけやがって……」


 俺の独白なんて気にした様子も無く、ゴブリンは突きを放ってきた。


 「んにゃろう!」


 俺はゴブリンの懐に潜ることでこれを避ける。そして今の一瞬で長さを最初に【変化】を使った時のサイズまで【変化】させ、ナイフでゴブリンの胸へと突き立てた。


 「こ、の、ま、ま、死ねぇええ!!」


 ナイフを刃が上を向くように(ひね)って、力技でそのまま上へ斬り裂く。


 『ゲ、ゲハ、ハ……』


 そんな声と共に、後ろから倒れる音が聞こえる。

 後ろに振り返ると、ゴブリンが俺へと手を向けていて、しかしすぐに事切れたのか持ち上げられていた手は地面へと落ちた。

 そしてゴブリンは、刃毀(はこぼ)れた剣と黒く濁った石を残し姿を消した。


 こうして、俺の、自室のダンジョンの攻略は幕を閉じるのであった。





 『おめでとうございます。この度、世界で初めてダンジョンの1つが完全踏破されました。攻略者には新たな力と安寧を、その他の皆様は更なる発展を夢見て頑張ってください』


 『踏破された当ダンジョンはこれ以降氾濫はせず、潜らずとも問題はありません。また、当ダンジョンの資源はいつでも無限に回収可能です。

 踏破者には【変化】の他に【転化】を贈呈します』





 頭の中に、そんなアナウンスを残して。



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[一言]  『おめでとうございます。この度、世界で初めてダンジョンの1つが完全踏破されました。攻略者には新たな力と安寧を、その他の皆様は更なる発展を夢見て頑張ってください』 『踏破された当ダンジョンは…
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