改めて
一か八かの賭けに勝利し、なんとか九死に一生を得て生還した俺は、その日は精神的疲労のためその日1日潜ることを止め、家でゴロゴロすることにした。
流石にスライムの攻撃が予想外過ぎた。アレは軽く死ねる。
そんな俺が死を垣間見た日、1つの悲鳴が加藤家に木霊した。悲鳴の主は妹の瑠璃である。
俺はその悲鳴を聞いて、何か有ったのかと思い直ぐ様階段を下りた。聞こえたのはリビングの方からだったからな。
「おいどうした!大丈夫か?!」
そう俺がリビングに駆け込んだのと同時に、俺は誰かに抱き付かれる。その人をよく見ると瑠璃だった。
「お兄ちゃーん!嫌だ死ぬぅ!!」
「うわっ、ちょっ、何が有ったんだよ!急に死ぬとか物騒なこと言うな!俺もさっき死に掛けたっての」
「嫌だー!行きたくないーー!!」
ガチ泣きする瑠璃がなぜこうなったかを今の瑠璃からは聞けないため、事情を知ってそうな母さんに聞くと、なんてことはなかった。
「お前…、夏休み返上して学校が有るってだけでそんなガチ泣きしなくても良いだろ……」
「だって、だって、だって学校が始まるんだよ?!しかも夏休み無しで!!嫌だよそんなの!もっと家でゴロゴロしながらゲームしたい!!」
「お前な……」
瑠璃が泣いていたのはつまり、そういうことである。
それで死ぬとか、ガチな命の危険が有った俺からすれば何喚いてんだよ馬鹿!って感じだが……。
「心配させるなよ……。俺、さっき死に掛けたんだから、休ませてくれよ……。これまで学校が休みだった期間は1ヶ月半ぐらいで、ほぼ夏休みと同じぐらいなんだから、甘んじて受け入れろよ……」
「うー、だってぇ……」
「あんまり文句言うなら、ゲーム全部取り上げても良いのよ?」
「はい黙ります。甘んじて学校に行きます。ですからお母様、それだけは!それだけは何卒ご容赦ください!」
見事な変わり身である。どうやら瑠璃からゲームを取り上げる=瑠璃の死という方程式が彼女の中で成立しているのかもしれない。
「うぅ……ゲームしたいよぉ……」
「だったら今ここでうだうだ言ってないで、さっさと部屋戻ってゲームしろよ」
「無理だよ!こんな暑い中、クーラーも無い部屋でゲームなんてそれこそ本当に死んじゃうよ!」
そう、実は瑠璃の部屋にはクーラーが無い。俺達兄妹は、両親からこう聞かれたのだ。
「テレビかエアコン。どちらか好きな方を選べ」と。
俺は別に、テレビならリビングので間に合うからという理由でエアコンを選んだ。だが瑠璃は、ゲームしたさにテレビを選んだのだ。その為瑠璃の部屋にはエアコンが無い。
この暑い季節では確かに地獄だろう。
「だったらダンジョンにでも潜ってろよ。あそこはまだマシだぞ」
「こんな暑い時期に動きたくない!」
お前ソレ、寒い時期になったら似たこと言うだろ……。
俺はお小遣いを一応貰っているが、全く使うことが無くて、この2年で軽く20万は有る。対して瑠璃は、毎月ゲームに費やしているせいでお金は溜まっておらず、エアコンを買う余裕もない。
ゲームなんか買わず溜めれば良いものを……。
「お兄ちゃん!今ゲームなんか買わず溜めれば良いのにみたいなこと思ったでしょ!」
おっと、顔に出ていたらしい。
「そうじゃないんだよ!ゲームはもはや私の体の一部なの!ゲームをしないと私は死んじゃうの!それぐらいゲームは私にとって大切なの!それが本来夏休みの期間に出来ないなんて……。代わりにあのクーラーの付いてない蒸し暑い教室で勉強なんて……。
イヤァアアアア!!」
「あぁもう!五月蝿い!!本当にゲーム全部取り上げるか処分するよ!!」
「嫌ぁぁ!!お兄ちゃんエアコン買ってぇー!」
おい、この妹、さらっと兄に家電要求したぞ。
「駄目だ。毎月俺と同じ1万円も貰ってるんだから、それで我慢しとけ。俺が高校の時なんてお小遣いは5000円だったんだぞ?お前、5000円で毎月買ってるゲームのソフト、買えるのか?」
「うぅ……。わかった……。我慢するぅ……」
全く、困った妹である。
しかし、この日常が有るからこそ、ダンジョンに潜るのも頑張れてる気がする。
うん。ダンジョンからモンスターが出てくるようになれば、瑠璃もゲームゲームと言ってられなくなる。
それは、嫌だな……。
俺の中で改めてダンジョンを攻略する動機が出来た。




