穴
家に着いて自室に戻って最初に口から出たのは「うわぁ……」である。
部屋はまさに驚天動地と言える有り様だった。
入院中の俺の服の事があったからかろうじてタンスの前は開けていたが、あとは家具が散乱していた。
カーペットなんかは俺の血だろう。赤黒く変色している。
そんな状態の自室を見て、人はどう思うだろう?どんな反応をするだろう?少なくとも俺は「うわぁ……」である。
さて、何処から手を付けたものか……。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ふぅー。あ゛ー、疲れた。病み上がりにたった1人で1日でやらせる作業じゃねぇだろこれ。まぁ手伝い拒んだの俺だけど」
朝に帰ってきて、それからすぐに部屋の片付けをして、なんとか夜には元の部屋に戻すことが出来た。
カーペットは知らん。たぶん買い換えるのは自腹だから、家出るまでこのまんまだ。
物が少なくて良かった。
「…………で、だ。なんだこれ?」
場所は押し入れの床。押し入れは俺の布団を仕舞うぐらいにしか使っていなくて、それも上の段しか使ってない。
問題なのはその押し入れの下。なんか太った人でも余裕で入れそうな穴が空いてた。
もう1度言おう。なんだこれ?
穴と呼称したが、正確には階段になっている。下り階段だ。
……下りろって事か?
まぁ良いや。飯食ってからにしよう。
俺は押し入れの戸を閉め、部屋から出た。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
部屋から出た頃には穴の存在なんか忘れ、普通に風呂に入ってその日は寝た。
問題は翌日のまたまた9時頃に起きた。
ドンドンという何かを勢い良く叩く音で目が覚める。
俺は跳ね起き何事かと周囲を見渡した。
音の発生源は押し入れ。俺はそこで穴の存在を思い出し、急いで玄関に置いてある中高で使ってた金属バットを取りに行った。
そして帰ってきてもまだドンドンと押し入れの襖は音を立てている。
「…………………」
俺は意を決して襖を開けた。
するとそこには丸い半透明の物体があった。
直感的に俺はそれがなんなのかがわかった。しかし、だからこそ有り得ないとも思った。
それは昔やったゲームに登場する敵モンスター【スライム】と姿が酷似していた。
有り得ない。そう、思い固まる俺だったが、どうやらこの物体はそんなことお構い無しらしい。俺に向かって跳んできた。
「うわっ!」
俺は驚き、咄嗟にその物体Xを野球のボールを打つようにフルスイングした。金属バットは運良く物体Xに当たり、壁へとぶつかる。
ベチャっと物体Xが壁に広がる。その様はまるでアニメのグロシーンなんかにある脳漿を床にぶちまけたかのようだ。
物体Xは徐々に壁から剥がれ床に落ちる。
そして再び俺に向かって跳び掛かって来た。
今度は挙動をしっかりと見ていた為、ちゃんとタイミングを合わせて金属バットを振り抜く。バットはしっかりと物体Xに当たり、今度は襖の中へとシュート。階段の中へと入って行った。
なんとなく、物騒だがこのまま殴り倒せば良いような気がして俺は物体Xを追い掛け、階段を下る。
階段を下りた先では物体Xがフルフルと震えていた。その様はまるで、今にも死んでしまいそうな様子だ。
それを見て殴るのを一瞬躊躇った。
しかし実際跳び掛かられてるからと自分に言い聞かせ、震える物体Xへ向け何度も何度もバットを振り下ろした。
どれくらいそうしていただろうか?気付けば物体Xの姿は何処にも無く、代わりに黒く濁った石が落ちてた。
「なんだこれ」
石を拾い上げる。
石は先程も言ったが黒く濁っておりハッキリ言って汚い。
ただ、これまでに見たこともない石ではあったため、それをジャージのポケットに入れて戻る事にした。
階段を上り、押し入れから這い出る。
そしてバットを横に置き、布団の上に寝っ転がった。
「なんだこれ」
先程までの事に対して訳がわからず呟く。
そこで気付いた。俺の部屋は2階だが、下りた階段の長さは明らかにこの家の地下にまで続いていた。間取り的に階段が部屋にあるとしたら玄関まで続いている。にも関わらず玄関には着かず、何処かの洞窟みたいな所だった。
そこでまた気付いた。そして思い出した。そこで思う。
あの穴、ダンジョンじゃね?