もぐらとの戦い
完璧な人間ってなんだ?神の試練とかってなんだよ。
俺は正気を取り戻した。
6月7日。昨日は疲れていたんだろう。今から考えれば変なカルト集団のような思考になっていたように思う。
気を取り直して、ダンジョン攻略である。
気が触れてはいたが、それでも昨日の考察は少なからず俺がダンジョンに潜る意味と、この未だ手に残る感触に関して乗り越える事に意味を見出だせた。内容はなんとも我ながら可哀想なものだが。
だから今日からは自分磨きをすると思って潜ろう。
完璧な人間なんて居ないんだ。人は完璧な人間になろうとするために努力するんだ。その舞台を、俺はダンジョンにしよう。
そう考えると、不思議と気力というか、活力が湧いてきた。
よし、やるぞ。
まずは一昨日のおさらいだ。
俺は2階層の最初の部屋の前に来ていた。一昨日と変わらず、部屋には2匹のもぐらが居る。
昨日は無我夢中で殺したが、今日はしっかり考えながら戦おう。
まず一昨日の戦い方は、真っ直ぐもぐらの内の1匹に近付いて、その尻尾を掴んで首とかをナイフでグサグサ刺したんだよな。そんで、もう1匹をバットで打って、当たり処が悪かったのか、死ぬのを看取ったんだよな。
今から考えても2匹目に関しては申し訳ない事をした。あんな惨いことせず、しっかりとトドメを射してやれば良かった。
それ等を考慮、留意して今回の戦い方を考える。
今日は、まず1匹目は一昨日と一緒で良いだろう。たぶん、1対1なら余裕を持って戦えるから、数を減らすという意味でも1匹目の不意打ちは正解だと思う。
問題は2匹目からだ。戦い方は一昨日のようなものでも良いと思うけど、それだと多数に囲まれた時の事を考えると、少し危うい気がする。確実に倒せる方法か、囲まれないような立ち回りを考えないと。
…………といっても、俺は地頭がどちらかというと悪い。そんな良い方法を思い付けるかどうかもわからない。というかいくら考えても考え付かない。
なら、あとは試して見付けるしかないだろう。
そうと決まれば、早速色々試すか!
俺は部屋の中へと駆け出し、もぐらの1匹を捕まえてその首に深々とナイフを突き刺した。それだけでもぐらは死んだらしく、サランラップのような物に包まれた肉だけを残して消えた。
それを直ぐ様リュックサックの中へと仕舞って、距離を取る。もう1匹のもぐらは、既に地中に潜っているからだ。
いつ来る?
神経を研ぎ澄まし、もぐらがいつ来るのか身構えながら待つ。
10秒も待たずに、足元の地面が少し振動しているように感じる。
俺は咄嗟にその場から後ろに飛び退いてもぐらが出て来るのを待った。
もぐらはすぐに出てきた。場所は俺が居た所と少しずれてたが、概ね俺の居た場所だ。
水中からジャンプして水中に戻るイルカのような、そんな突進を地中からしてくるのか。
もぐらは再び地中に潜った。
次に考えるのはどうやってもぐらは俺の位置を把握しているかだ。
でもこれはすぐに思い至った。要するに地上で見た光景を覚えているのと、恐らくソナーのように、地面伝いに俺の発する音を頼りに俺の位置を割り出しているのだろう。クジラやイルカは人間には聴こえない音でコミュニケーションを取ったり危険を察知するというし、似たようなものだろう。
この推理が合っているかを確認するために実験してみる。
試しにその場で地面を何回かトントンと爪先で叩く。そして5秒ほどしてから後ろに跳ぶ。
その5秒後、俺の居た位置ドンピシャにもぐらが地中から出て来た。
よし!推理は正しかった!
その後何度か試したが、毎回足をトントンした所ドンピシャの所からもぐらが出て来た。これでもぐらの攻撃方法が完全にわかった。良いぞ。順調だ。
次に俺は、俺の攻撃方法を考える。といってもこれはもう思い付いていた。
またも足元をトントンと叩く。そしてバックステップをして、バットを構える。
もぐらが地面から出てくる。俺はそのタイミングに合わせてバットを振り抜いた。
バットに重い確かな感触が伝わる。あの骨を折ったような感触も同様に伝わる。
気持ち悪い。そう思うが、グッとその感覚で萎えることを我慢する。
もぐらは綺麗な放物線を描き飛んでいく。そして地面に落ちたら、一昨日の2匹目のようにジッと俺を睨むだけで動かなくなった。
どうやら実験は成功で、尚且つもぐらは打たれ弱いらしい。
俺は直ぐ様もぐらに近付き、その首にナイフを突き立ててやった。
もぐらが肉へと変わる。またも俺の手には命を奪った嫌な感触が残る。
「……我慢するって、乗り越えるって決めただろ」
自分を鼓舞してなんとか折れるのを堪える。
「スー……、フゥー……。スー……、フゥー……」
深呼吸をする。落ち着くまで何度もだ。
落ち着いたら肉を回収して、次の部屋を見据える。
「……………まだだな」
まだだ。次の部屋はまだ俺には早い。戦うこと自体はもう問題無いが、メンタル的に無理だ。
俺は引き返し、しばらくはこの部屋を周回することにした。




