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浪人生、ダンジョンと歩む  作者: 荒木空
第1部~自室のダンジョン~
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仲直り


 6月5日。俺は部屋の隅で足を抱えて震えていた。

 初めて感じた死の恐怖は、思った以上に俺に精神的な重いダメージを残したらしい。


 正直もうダンジョンに潜りたくないとすら思う。

 ダンジョンに潜るということを、正直ナメていたと認めざる負えない。

 最初は必要に駈られて、その次は自分の意思でダンジョンに潜った。それから潜ったのは半ば母さんの意思だったけど、今日の今日までは基本的に流されて潜っていた。途中から自分の意思で潜っていたとも言えるけど、やはり何処か遊び半分だったように思う。


 そんなときに一気に現実を突き付けられたような気がした。それほどまでにもぐらに殺され掛けたのは俺にトラウマを植え付けるには充分だった。


 部屋の隅で足を抱えて震える。

 正直何もしたくない。でも、部屋からは出たくない。いつモンスターがダンジョンから出てくるかわからなくて怖いから、見張ってないとという強迫観念に駈られる。



 クゥーー……



 それでも腹は減るらしい。俺の体は欲望に忠実だ。この空腹を満たすために、離れるのは怖いけど、部屋から出ることにした。




 「アンタ、酷い表情(カオ)してるね」


 昼御飯を食べるため1階に下りてきたら、久し振りに母さんから声を掛けられた。


 でも、正直返事する気力が無い。

 俺は黙っていつもの席に着いた。


 「……何か有ったの?」


 それでも話し掛けてくる母さんに、かなりの煩わしさを覚える。


 「……母さんには関係無い。ダンジョンに潜る気のない母さんには」


 思わず抱えていた愚痴を漏らしてしまう。

 しかしそれだけでダンジョンに関しての何かしらを感じ取ったのか、ばつの悪そうな表情(カオ)をしながら困ったように母さんがあることを言った。


 「なら潜らなければ良いじゃない」


 一瞬何を言われてるのか理解出来なかった。


 もぐら、無くて良い?


 もぐらなくていい?


 潜らなくていい?


 ……俺の中で何かが切れる音がした。


 「そうやって母さんはいつも無責任な事を言って!俺が潜らなきゃ誰があのダンジョンに潜るんだよ!


 父さんか?瑠璃か?あり得ないだろうけど母さんか?


 父さんは市役所で仕事が有るから何度も潜れる訳がない!

 瑠璃は高校生だからそっち優先だ!

 残った母さんは端から潜る気無いだろ!

 何が潜らなければ良いだ!なんでそれを今言うんだよ!!

 俺が潜らなきゃ誰がこの家の安全を守るんだよ!!

 命の危険も無いところで言いたいこと言ってるだけのババアは黙ってろよ!!」


 言ってからハッとする。母親に対する言葉じゃない事を散々言った。


 「…………ごめん。言い過ぎた。飯はいいや、部屋に戻る」


 「まぁ待ちな」


 席を立って、部屋に戻ろうとしたら母さんに手を掴まれて拘束された。


 「離して」


 「アンタが私に対してどう思ってるかはよぉーくわかった。アンタの言い分は尤もだ。


 ただ孝則。アンタだけ一方的に言いたいことを言うってのは不公平じゃないか?」


 母さんの顔を見る。 

 母さんは不適な笑みを浮かべていた。


 母さんが何をしたいのかわからない。


 「……そうだね。じゃあ言いたいこと言って良いよ」


 席に座り直してそう促した。


 俺が席に座り直すと、母さんは手の拘束をといて優しい笑みを浮かべながら話し始めた。


 「私は少し前…今月入るちょっと前までアンタが疎ましくて仕方がなかった。正直、なんで生きてるんだこの出来の悪い奴は、なんて思ってた」


 母さんからなかなかきっつい告白がされる。


 口角がピクピク痙攣してるのがわかった。


 「なんであれだけ勉強して2回も浪人するんだ、このバカ息子は。あれだけ勉強して2回も浪人するなんて、生きてる価値なんて無いんじゃないかって、本気で思ってた。

 アンタが頭から血を流して倒れた時も、正直アンタの心配じゃなくて世間体の心配をした。

 そのぐらい働きもせず勉強して二浪してるアンタが邪魔でしょうがなかった」


 「それ、本人に言うことじゃないでしょ……」


 「黙って最後まで聞きなさい。


 邪魔でしょうがなかったアンタが、自分の意思でもう水は取って来ないって言ったとき、物凄く腹が立った。生きてる価値もない奴が何我が儘言ってるんだって。

 でもお父さんに怒られて、アンタと距離を置いて色々考えてみたら、私の方が我が儘だったって気付いた。それに、やっぱり自分は親なんだなって思った」


 そう言った母さんは、ジッと俺の方を見てくる。

 

 「少し前まではホントどうでも良かった息子が、やっぱり危ない目に遭うのは嫌だと素直に思うようになった。

 だから、アンタがもし、もうダンジョン潜りたくないって言うなら、お父さんと相談して国に報告して、此処を引き払っても良いと私は思ってる。この話をしたらたぶん、お父さんも納得してくれると思う。


 だから孝則。潜りたくないならもう潜らなくて良いのよ?」


 ………………。


 やっぱり母さんは無責任だと思う。それに卑怯だとも思う。あれだけ潜れ潜れ、水を取ってこいと言ってた癖に、人が弱ってる時にこんなことを言ってくるなんて。ホント無責任で卑怯だと思う。


 「…………母さん。やっぱり母さんは無責任で卑怯だと思う。

 ……だからこそ、母さんの言うことは聞けない。やっぱり俺は、ダンジョンに潜る」


 もしこれが、母さんの計画通りの展開だったとしても、無責任で卑怯な事を言われたんだ。無責任と卑怯には、無責任と卑怯で返さないと。


 「そういう訳だから、早くご飯用意して。食べ終わって一服したらまた潜るから」


 「そう。ホント、親のいうことを聞かない駄目な息子ねアンタは」



 久し振りの母さんとの会話は、内容が酷かったけど何故か元気が出た。




 母親との仲直り回でした



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