宣言とスライム
5月28日。探索者証を取得してから3日が経った。
世間様はニュースを見ている限りだと探索者時代の幕開けと言えるほど、それぞれのダンジョンの前に毎日探索者になりたい人が集まっているらしい。
そんな中俺はというと、自室のダンジョンで相も変わらずペットボトルを取っていた。
水は消耗品だ。だからすぐに無くなる。その補充を毎日毎日させられているのが現状だ。
ダンジョンに潜るのは個人的にも最近は楽しいから良いんだけど、ペットボトルを最低3ダースは確保しないとならないのは辛いものが有る。
それにまだ、スライムの出る部屋単位で二つ目までの部屋までしか進んでいない。流石にもうそろそろ次に進みたかった。
ということで、母さんに宣言する。
「母さん、俺、これからはペットボトル集めるの止めて、ダンジョン攻略に目的を変えるから、これからは水の確保出来ないからその辺よろしく」
宣言した俺に、母さんは呆気に取られた表情をしたが、すぐに顔色を変えて怒ったような表情で、俺を責めるような目で見てきた。
「なにさ?水が欲しいなら自分で取りに行ってよ。今のところ瑠璃も自分で潜ってるみたいだし、父さんも潜らせてほしいって言ってくる。自分で潜らず人に潜らせて、1人安全なところで物見遊山してるのは母さんだけなんだから、いい加減水が欲しいなら自分で潜ってよ。
俺だって探索者になったんだから、家にばっか構ってられない」
「アンタ!それが母親に対する言葉?」
「俺、何かおかしなこと言った?欲しいものは自分で努力して取ってって当たり前のことしか言ってないんだけど?
そういう訳だから、今後は自分で潜ってね!」
返事を聞かず、俺は部屋に戻った。
後ろから母さんが「ちょっと孝則!待ちなさい!まだ話は終わってないわよ!」とか言ってるけど知らない。
まぁでも、母さんの気持ちがわからないでもない。この2年、何もせずただ自室に籠って勉強ばっかりしてるのに二浪もした俺に対して思うところが有るのはわかる。
俺も母さんも完璧主義の実力主義思考だ。それに母さんはエリート思考まで有るから、二浪もしてる落ちこぼれの俺に強く当たるのは仕方ない。
それでも俺も、少なからず鬱憤が溜まってたんだ。母さんも少しは俺の苦労を知れば良いよ。
部屋に戻って、ダンジョンに潜るときのジャージに着替えて、リュックサックを背負って金属バット片手にダンジョンに潜る。
そして最初とその次の部屋に居るスライムをサクッと倒して、未開の地へと足を踏み入れる。
「ふぅー……。よし!やるぞ!」
俺は奥へと進んだ。
奥へ進むと、やはりこれまでの部屋と変わらない造りで、一本道だった。だから迷わず次の部屋に辿り着くことが出来た。
しかしその部屋には、これまでのスライムと色の違うスライムが居た。
これまでのスライムがくすんだ透明な青色だったとしたら、今度のは綺麗な透明な黄緑色のスライムだった。
取り敢えず斬ったり殴ったりすればモンスターは倒せるし、まぁなんとかなるだろ。その精神で俺は、いつもと違うスライムに、いつもと同じ方法で攻撃を仕掛けた。
何時間経っただろう?黄緑色のスライムがまだ倒せない。
やってることはいつもと変わらない。最初に思い切り蹴って、あとは突進してくるのをバットで打つ。それだけだ。なのにいつも以上に時間が掛かってる。
いつもと違う事と言えば、ある程度打ったらスライムが淡く黄緑色に光るぐらいだ。それ以外は普段と変わらない。
…………淡く黄緑色に光る?
「もしかして…」
回復してる?だから時間が掛かる?
よし、次は淡く光るタイミングに合わせて殴りにいこう。
そう決心し、何度目かのホームランを決めたところで、再びスライムが淡く光る兆候をし始めた。
「今!」
俺は急いで近付き、バットを【変化】でナイフにしてグサグサ刺した。
すると呆気なく倒すことが出来、黄緑色のスライムが居た所にはこれまた黄緑色の液体の入ったペットボトルが落ちていた。
黄緑色の液体……。見ようによってはビタミン豊富なジュースにも見える。
「なんだろう、これ」
正直飲む勇気は無い。でも何かの役に立つかもしれないため、リュックサックに仕舞う事にした。
そして次の部屋に向かう。此処も一本道で迷うことはなかった。
着いた部屋には、今度は4体のスライムが居た。
急に4体とか増え過ぎじゃない?3は何処行ったんだよ3は。
でも、ウダウダ言ってても仕方ない。
いつも通り俺は駆け出した。
まずは1番手前のスライムをいつも通り遠くへと蹴り抜く。そしていつもなら離れて1体1体打つんだけど、今回はそうはせずに、さっきのことが有るから1体1体向かってくるのを中心で殴ることにした。
今までと違う方法で、しかも複数を相手にしているから、殴り溢しが生まれて何度もスライム達の突進を喰らう。幸い、ダンジョンに潜っている間に鍛えられたのか体は頑丈になっているのかは不明だけど、あまりダメージは無かった。
でもダメージが少ないだけで、しっかりダメージは入る。
俺はそれでもなんとか殴りまくり、途中からバットを【変化】でナイフにして斬り続けた。
どのくらい戦っていたのかわからない。わからないけど、なんとか4体全部を倒すことに成功した。
地面には4体分の戦利品であるペットボトルが落ちている。俺はそれを拾うことをせず、大の字で地面に寝転がった。
「ハァ……、ハァ……、ハァ……、ハァ……。キッツ……」
流石に今の俺では、まだ4体相手に中心で戦うのは難しいらしい。最後の方なんて腕を振るのと体がほぼ同時に動いてた。それでよく倒せたと思う。
「ハァ……、ハァ……、ハァ……」
体を少し捩って近くに有るペットボトルの1つを掴んで、その蓋を開けて頭から被るように飲む。
いつも以上に水が体に染み渡る感覚が有って、これだけで物凄く強くなったような錯覚を覚える。
ペットボトル1本を空けた事でなんとか呼吸は整い、大の字から俯せになって起き上がる。
「ふぅ……。しばらく4体以上相手にするのは慣れてからにしよう」
口に出すことで決意を新たにし、リュックサックを下ろして中に残る3本のペットボトルを仕舞い、今日は帰ることにした。
今日はもう、これ以上、戦いたくない。
しかしそうは問屋が卸してくれなかった。
1つ前の部屋に戻ると、3体のスライムが居た。さっきの黄緑色のヤツは居ない。
「………………。……オラァ!やってやらぁー!!」
俺は3体の中心へ向けて駆け出した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
帰ってきて夕飯の時。俺のご飯は白飯だけだった。
母さん、流石にこれは無いって……。
「母さん……」
「ふん!」
子供か!
「孝則、母さんに何したんだい?」
俺は父さんに母さんに宣言した事を話した。
「…………取り敢えず孝則は、母さんの制止を聞かずに戻った点は孝則が悪いね。でも母さん、流石にこれはない」
「なっ」
「だって孝則は至極当然の事を言ったんだよ?むしろ今まで十分頑張ってくれたと言って良い。なのにそれ以上を親が望むのは駄目だよ」
父さんにそう諭された母さんは、表情をムスッとさせ台所の方に行った。
「孝則も母さんを許してやってくれよ。母さんアレで、孝則の事を心配してたんだからな」
「わかってるよ父さん」
ドンッと、乱雑に俺の前におかずが置かれる。
母さんは俺と顔を合わせない。
そんな母さんに俺は「ありがとう」と言ってご飯に手を付けた。
こうして俺のダンジョン攻略が家族内で公式になった。




