任務中に幼女を拾った 1話 幼女、拾った
はじめまして。Re:⑨といいます。
不定期更新になりますが、よろしくお願いいたします。
少女はずっと戦っていた──
暗闇の中でずっと戦っていた──
見えない者が敵だった──
敵が何なのかもわからないまま──
少女は敵のことを知っている──
敵も少女のことを知っている──
少女は虹色に輝く剣を振る──
敵は見えない剣を振る──
二つの剣が交わったとき、残ったのは一つの星と暗闇だけだった──
◇
男は暗闇の中に一人木の上に立ち満月を見ながら独りごとを呟いていた。
「ったく、あいつも面倒な任務を任せやがってよ~。あんなやつの護衛ぐらい下の者にやらせればいいのによ」
男は髪の毛を掻きながら愚痴をこぼしていた。男はその面倒な任務の帰りである。それもそのはずだ、男が護衛していた人物は男が嫌っている者だったからだ。木の上に立っていたのは満月を眺め、気分を紛らわそうとしていたからだ。
「これならワーニンに弁当でも作ってもらえばよかったな」
男の言うワーニンという人物は、男がよく泊まっている<デビット>っていう宿屋でバイトをしている娘のことだ。男はワーニンに今日は遅くなるから宿主に伝えておいてと連絡役を任せていた。それでワーニンは「お弁当を作りましょうか?」と言ってくれたが、それはワーニンに申し訳がないので、「いらない」と言ってしまったのだ。それを男は今後悔している。正確には食べ物はあるにはあるのだが量が少ないため今食べるのがもったいないと思っている。
「まあ、いいや。早くデビットで休むとするか」
といいながら目の前にある木に飛び乗ろうとしたそのとき。
遠くのほうで白い光が輝いているのが目に入った。
「ん?なんだ?」
男はそんな白い光のことは無視して帰ろうかとも思っていたが、そうもいってられないのだ。男が所属しているミクセル王国軍の規則には白色の発煙筒が見えたら救助せよとの規則だからだ。近くに王国の者がいればよかったのだが、周りにあるのは森が茂っており軍の姿が見えない。仲間を見捨てることは男にはできなかった。
「しゃーねーなぁー」
男はそんなことを言いながら再び頭を掻く。
『β!』
男は半径1km圏内の物体を脳内に完全構成し、分析をすることができる能力『β』を持つ。
だが、
「なんだと?」
男は困惑していた、なぜならその光の正体がわからなかったからだ。仕方なく男はもう一度『β』を発動した。
しかし、
男は再構成・再分析したにも関わらず、正体がわからなかった。いや、わからないってのは間違いである。最初の分析と二度目の分析の結果では周りには自分を除いて森や石などの物体しか確認できなかった。つまり、元から存在がないのだ。だが、今も目の前で白い光が輝いている。
「くそっ、なんでだ!?」
男がそんなことを言っているうちに白い光は消えてしまっていた。男は「くそっ!」といい、木から降りて、白い光のあったところに走っていった。
男は約10分でその光ったところまでやってきた。
「たしか、この辺だったよな?」
男は走るのをやめて歩きながらその光の正体を探した。
だが見つからない、そうして30分探し回ったそのとき──
「っ!?な、なんだ?」
男は微かにだが、力の波動を感じた。
男は腰にある黒い剣を手に取り、その力の波動を感じながら、警戒しながら近くまで寄った。そこで男が見た光景は──
「お、女の子?」
女の子は木の下で眠っていた。
「ふにゅ~ん」
そう。少女は気持ちよさそうな声を出し、寝ていた──
これは少女というか
幼女──
しかも、生まれたての姿で丸まりながら。
「こ、これは、い、いったい」
男はものすごく動揺していた。そりゃそうだ!裸の幼女が寝ていたら、動揺するに決まっている。男はすぐに腰にあるポーチから大きな布を取り出し、その幼女にかけた。
「おーい、風邪ひくぞー」
男は幼女の頬を指で軽く刺し、呼び続けた。
◇
少女はずっと戦っていた──
暗闇の中でずっと戦っていた──
見えない者が敵だった──
敵が何なのかもわからないまま──
少女は敵のことを知っている──
敵も少女のことを知っている──
少女は虹色に輝く剣を振る──
敵は見えない剣を振る──
二つの剣が交わったとき、残ったのは一つの星と暗闇だけだった──
「ん、んー」
幼女は目を覚ましたらしい。幼女は眠たそうにあくびをし、目をこすりながら体を起こした。
「おお!ようやく目を覚ましたか!」
男は起こすのをやめて近くにあった木に横になって幼女が起きるのを待っていた。
「んー?ここはどこー?」
「ここは森の中だ」
男は幼女の近くまで行き、質問に答えた。
幼女は回りを見渡した、「ほんとうだ~」とのんきなことを呟いていた。
「君はミクセル王国の住民かい?」
「みくせるおうこく?」
(ミクセル王国のことを知らない?まさか、ここらでは一番有名な大国だぞ?もしかしたら──)
「君、名前はなんていうの?」
男は幼女に名前を尋ねた。
「えっとね。んーとね。ありぇ?」
幼女は首を傾げた。
(やはりか)
男は幼女が記憶喪失だということに気づいてた。だから名前を尋ねたのだ。
(でも、困ったな。名前も思い出せないとなると問い合わせることも難しい)
(いや、こんな森の中で幼女が寝ているんだ、捨てられたと考えるのが普通か)
男は迷った。この子をこのまま見捨てるか、とりあえずついてきてもらうか。
(考えるまでもないな。連れて行こう)
男は決心した。
この日、男は任務中に幼女を拾った──