ほら見ろ…って、はげじゃないの?
クサイは窓を背に座っていた。
部屋は高級な家具で装飾され、彼は大きな机を前に、これまた立派な椅子に腰掛けている。
彼のお腹周りはスマートとは決して言えないようなものだった。
頭は黒々とした毛並で堂々とそこにあった。
「そうか、よくやった。で、ブツはあったのか?」
クサイはメガ達を捕まえた若い20代の男に気持ちの悪い笑みを浮かべて言った。
男の方は少し緊張しているようで、背筋を伸ばして目が宙を泳いでいる。
「は!それが、換金されていたようでありまして、そのすべてはここに…。」
男の声は段々と覇気が無くなって行った。
男が目線を斜め右前においてある箱にやるとクサイも同じようにそれを見た。
「そうか。…で、捕まえたのはメガと少女二人にじいさん一人か…。まぁ、いい。例のようにやっておけ。」
クサイはそう言うとクルっと窓の方を向いて右手をサッと振って男を部屋から追い出した。
―ガタガタ!
クサイは男が部屋から出た瞬間慌てるように椅子から立ち上がって必死になって箱にたどり着いた。
箱を開けていっぱいに詰まった紙幣を見たクサイは目の色を変えて、それを見つめた。
―ガチャ…
その時男が戻ってきて突然扉を開けた。
「な!?…なんだ!ノックぐらいしろ!!」
クサイは裏返った声で叫んだ。
「も!申し訳ございません!考えたら明日は非番を貰ってまして処分はどのように…」
「そんなこと考えればわかるだろう!明日の番の者にそのように伝えておけ!!」
「は!!申し訳ございませんでした!」
男はそう言うと去っていった。
クサイは深いため息を付いた。
「ふふん…これで俺のものを盗むやつもいなくなる。一石二鳥だな。カッカッカッカッ!!」
クサイは妙な笑い声を部屋に響かせていた。
朝の光が天井近くの小さな格子窓から差し込んでいる。
ピコはそのちょうど下の床で寝ていて眩しくて起きた。
「…えぇ…ではよろしくお願いしますわ…」
誰かが牢屋の中でコソコソとしゃべっているように感じた。
「うぅん…だぁれ?」
ピコはまだはっきりとしない頭でその方向を見た。
そこにはアトがいた。
アトは牢屋の一番奥の隅にちょこんと座って何故か壁の方を向いていた。
その姿が少々ダークなもので一瞬ピコはびっくりしてしまった。
ピコの荷物はメガの小屋の机の下に置いてきたけれど、アトはリュックとは別にポーチを持っていた。
たぶん、子供だからって、ポーチはノーマークだったのかそのまま牢屋に入れられた。
ピコはピコで小銭入れの入った腰巻きも取り上げられなかったが。
こちらは気がつかなかったのだろう。
「なんだ、アトちゃんか…。おはよう。」
「おはようございます。」
アトは挨拶をすると持っていたポーチの中に何かを入れた。
そして鉄格子に右足と右腕を引っ掛けて仰向けで寝ているメガのところまできた。
「起きてくださいな!」
アトはそういいながら足げにして身体をゆすった。
なにやら機嫌が悪いらしい。
キュートなアトの姿は何処へ行ったのだろうとピコは思った。
「あぅ…」
メガはボーっとしたままひっかけていた腕と足をアトの方へ向けた。
そしてその腕がアトの足を捕まえた。
「ちょ!…お触りにならないで!!」
アトは身を引いたがメガはしつこく足に絡んでくる。
「もっと…」
メガはなにやら寝言を呟いているらしい。
「もっとぉ…」
「なんなんですの!!?」
アトは必死にメガを放そうとした。
「もっと蹴ってぇ…」
メガはそう呟いて幸せそうな顔をした。
ちょっと気持ちが悪い…とピコは思った。
「えぇ!…俺そんなこと言ったの?」
メガはアトのきつい一撃で見事に目覚めた。
どうやら夢のことは覚えていないようだ。
そのころ牢屋の片隅で寝ていたグルーチョは起きて部屋の中をグルグルと歩きまわっていた。
「おじいちゃん。どうしたの?」
ピコはあまりにグルーチョの動きが挙動不審なものでやっと止めに入った。
「おぉ…テラ…扉が開かんでな…1日も欠かしたことはないんじゃ…外に出たいんじゃ…。」
グルーチョはフルフルと震えながら呟いた。
「なんだ?じいさん、どうかしたの?」
メガはアトと話していた所その様子が気になってこっちを向いた。
「あぁ、気にしないで…いつもお爺ちゃん朝になると体操をしていたのよ。」
「あぁ…。すまん、爺さん。俺のせいで…」
メガはそういうとグルーチョのところに言って真剣な顔をして謝った。
グルーチョはその開いているのか閉じているのかわからない目でメガを見つめた。
グルーチョがそうやって眺めている間、数秒の間があった。
―カッ!
その時グルーチョがその糸のような眼を一気に見開き、メガをガン見した。
「な…なんだい。爺さん…」
メガはびっくりして声が裏返った。
「お…おぉ…もしや、マル!マルかい?いつの間にこんな成長して…。」
「はぁ!?」
グルーチョは何故かすごく興奮してメガの肩をがっしり掴んだ。
その眼には何か光る物が見えた。
「お、おじいちゃんどうしたの?」
ピコは不思議そうに質問するとピコの方に機敏な動きで身体を向けた。
「覚えてないのか?ピコ!マルだよ!マル!…なぁ!マル!」
グルーチョはそう言うとメガの頭を撫でた。
メガの方はその手を拒まずどうしていいか困っていた。
「そんなの覚えてないわよぉ。それにこの人はメガっていう名前よ。」
ピコは困り果てたメガを見てグルーチョを諭した。
「そんなことはない!!マルはマルなんじゃ!この耳!!この目!!この髪!!そして、この頭の形!!どこからどう見てもマルじゃ!!」
グルーチョはぷりぷりと怒った。
ピコはどうしていいのかわからず黙ってしまった。
「あ…いいよ。マルで…。」
そう言ったのはメガだった。
「でも…。」
ピコは申し訳なさそうにした。
―ガチャ!!
そんな騒動の中突然扉が開いた。
…と思ったら一人の兵が扉を開けてこっちを見ていた。
「お前ら、何してんだ?」
兵は少しポカンとした顔でこっちをみていた。
「あ…いえ、何でも…。」
アトはその3人より前に出て兵士に何故かにっこりと笑いかけた。
「…まぁ、いい。お前ら、牢から出ろ!」
そう言うと、出口の方からどんどんと兵が来て4人に後ろ手で手錠をかけて牢から連れ出した。
4人とも抵抗はしなかった。
ピコはオロオロと不安そうな顔でそれに従っていた。
アトとメガは冷静で真剣な顔付きで歩いていた。
グルーチョはまるで散歩でもしているような暢気な顔をしていた。