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ベタなシチュエーションで…

 「ごめんねぇ~」

ピコはさっきグルーチョのよだれがアトのお気に入りの服についてしまったことと抱きしめすぎたことを詫びた。

「…もういいです。」

アトは悟ったような淋しそうな表情でピコの前を歩いていた。

アトはピコによだれを拭いてもらいなんとかしみにもならずすんだので記憶さえ消えてしまえばと少し思った。

 三人は兵士達に最後の条件についてあるものを受け取るとすぐにその場を離れ町に入っていった。

「よーし!これで防具とか道具とか買うぞ!」

ピコはその受け取った物を眺めながら歩いていた。

それは金塊だった。

蔵の中で眠っていた金塊の少しを資金の足しにとくれたのだ。

ピコはそういうところはちゃっかりしており、何かを買う時も値切るのが上手くなっていた。

ただし、リュックにその金塊をいれる隙間があまりなかったので、換金場所をさがして町を歩いていた。


―ドドーン!…ドカーン……ドドカーン…


 その時だった。


さびれかけた町が突然騒がしくなり、なにかが爆発するような音が何度か聞こえた。

三人は驚いて立ち止まりそちらの方を見る。

すると右斜め後方に大きな屋敷があった。三人が歩いている通りに門があるらしい。

そこから三人がいる位置の3メートル先ほどから塀が続いている。

どうやら、音はその中から聞こえる。


『つかまえろー!』

『泥棒だ!!』


どうやら屋敷内に泥棒が侵入して逃げ回っているらしい。

「泥棒!?」

ピコは持っている金塊を包みごとぎゅっと抱きしめた。

『そっちいったぞ!』

中から警備の人間らしき声が聞こえた。

どうやらかなり近い。


―ガサ!!


木の葉が擦れる音がするとそのあたりの木から誰かが塀の外に飛んできた。

塀の外に幹が少し飛び出ている木から逃げるために上って、下りてきたようだ。

その誰かは門の方を気にして、こちらに走ってくる。


―ドン!!


それは一瞬のうちに起こりピコは路上にうつ伏せになっていた。

「ごめん!」

そう言ったのはその誰か…たぶん泥棒だろう。

頭には深々とニットのような帽子を被っており、白っぽい前髪が少し見えるだけでその容姿をはっきりとは確認できないが男だとわかった。

しかもかなりの美形だ。

雰囲気は若い。

「いったぁ…。」

ピコは起き上がり、腰をさすり彼を見た。

「やべ…。」

彼はピコではなく門の方を見ていた。

その方向から男達がぞろぞろと出てきている。

彼は手に持っていたものが路上に散らばっていたということに気が付いてすぐにそれを袋に詰めて勢いよく門とは反対方向に去って行った。

ピコはあっけに取られて去っていく彼を見ていた。

「びっくりした…。」

ピコはアトが呆けた顔で見ているところほこりを払いながら立ち上がった。

怪我がないか確かめると下に落ちているものを取ろうと手を伸ばす…

しかし、ピコはその手が虚しく宙をヒラヒラと舞うだけで何もつかめていないことに気が付いた。

「え?…あれ?!」

金塊の包みが見つからない。

その様子を見ていたアトは口を開いた。

「あ…の…あの人が…」

アトは冷や汗をかいて青ざめた顔でさっきの男が去って言った方向を指差した。

「!?!?!?!?!?」

ピコは言葉もなく頭を抱えてアトよりもさらに青くなった。



「ふうぅ…なんか侘しいね…。」

三人は静かな酒屋の店内の窓際の席で一つの皿に大盛り乗せられた芋をあげた料理をもくもくと食べていた。

日は沈んでもう外は街灯が灯っている。

「しかたないですわ。お金はワタクシとピコさんのもともと持っていた分しかないのですもの…。」

アトはまるで大人のように冷静に言うとぽいっと口に芋を放りこんだ。

「…そうね…。」

ピコは泣きそうになりながら芋を食べた。

「なぁ、テラ。ベルベラのダラダラ煮が食べたいのぉ…。」

その時グルーチョがピコの横でぼそっと呟いた。

ポロポロと芋をこぼしながら…

「…は?…」

アトは首を少し傾げて怪訝な顔をした。

「あはは、気にしないで!お爺ちゃんの口癖なのよ。昔食べたらしいけど、あまり知られていない食べ物みたいで…。」

ピコはアトに苦笑いをした。

「…はぁ…。」

アトは不思議そうな顔をした。

 三人はしばらくそこでごはんを食べて、ゆっくりしていた。

どこかにとまるお金というのもあまりないが、その酒屋はそのあたりでは唯一夜遅くまでやっているので長居できる。

終ってからも今は気温が暖かいからなんとかなるだろうと考えていた。

「でも、私達二人は若いからいいですけど、グルーチョさんはお体の方大丈夫なんですの?」

アトがそういうとピコは少し悩んでしまった。

いきなり1日目から無理をさせることになるのかと…。

この町を出てしまえば、テントでと考えていたが、そのテントもこの町で買おうとしていたからなかなか難しい問題がある。

「…どうしよう…。」

ピコは頭の中でぐるぐるとそれを考えていると瞳を潤ませて今にも泣き出しそうだった。

「…と…とにかく明日になったらお金はワタクシが何とかして差し上げますから!」

びっくりしたアトはそう言ってピコを慰めた。

二人の体格差を見ると反対の立場だ。

「本当に!?」

ピコはアトの手を握ってまるで神様を見るかのように目を輝かせた。

「えぇ、ワタクシこれでも特別級魔術師ですもの。それなりに金を稼ぐ手立てはありますわ。」

アトはそう言うと自分の持ってきたリュックからガサゴソと何か黒いマントのような服を取り出した。

その黒い服をそのままその場で今着ている服の上からばっさりと被った。

こじんまりしているがいかにも占い師に変貌した。

「わぁ…占いが出来るの?」

「ええ。まぁ」

「すごーいぃ!!」

ピコが大げさなくらい感動するとアトは嬉しいのを隠そうとしながらも表情はそれを隠せていなかった。


―ガランガラン…


その時静かな店内に誰かが入ってきてベルの音がした。

「いらっしゃい!」

酒屋の親父がカウンターの向こうから勢いよく顔を出した。

どうやら、親父はカウンターの向こうで居眠りをしていたようだ。

顔に袖のストライプのアトがくっきりと付いていた。

「なんだぁ…メガか…。」

親父は入ってきた男に対して残念そうな顔をした。

「なんだはないだろ……居眠りしてたのか?」

その男は白髪だがその髪はキラキラと光を反射して美しい。

そしてその目は銀色で何を考えているかわからないような容姿をしている。

いわゆる美男子ってやつだ。

その美しさはどこか人間離れしていた。

彼はL字型のカウンターの自分達のいる入り口近くに座ると酒を頼み大きく一つため息をついた。

親父は鏡で顔を確認するとオーダーされた品を出しながら頬の痕をもう一つの手でこすった。

「なんだ?失敗したのか?」

親父は少し笑いながら言った。

「ちげーよ。ただ…。」

男は表情を暗くすると黙ってため息だけをついてぐっと酒を飲み干した。

「ただ?」

親父はせかすように言った。

「う…ん…それがさぁ…」

男はそう言いながら周りを気にしながら見た。

何か人に聞かれてはいけない話なのだろうか。


―ガタン!


その時男はピコ達の方を見ると椅子を倒す勢いで立ち上がった。

「…あんた!」

そう言うとずかずかとアトに近寄ってきた。

男の様子をずっと見ていたピコとアトは少しびっくりして身を縮めた。

「占い師なのか?今ここで占ってくれ!さぁ!すぐに!」

そう言うとアトの腕を引っ張った。

「お触りにならないでくださいな!」

アトはびっくりして叫んだ。

「あ!…す、すまん!気になることがあって…それを占ってくれないか?」

男は黒装束の小さいアトに向かって真剣に言った。

それを見たアトは静かに頷くとポーチから水晶玉と木製の腕輪のような物を取り出した。

輪には模様のような文字のようなものが刻まれている。

机の上に輪を置き、その上に水晶玉を置き、手をかざした。

アトの横に座り込んだその男の顔を見ないで言った。

「あなたの悩みはなんですか?」

男は一息入れると話始めた。

「今日俺は仕事で金を稼いできたんだけど…それが異常な金額だったんだ…。だからなんか不安になっちまって…。」

男はまたため息をついた。

「異常といいますと?」

「あ…あぁ、多いんだ…いつもの100倍くらいで…。」

「は?」

「100倍だよ…異常だろ…。」

男とアトの間に微妙な空気が流れた。

アトは一つ咳払いをすると、首をかしげながら水晶を見つめた。

何かアトの体の周りの空気が揺らいでいる感じがするとアトは再び口を開いた。

「見えます。…あなたのお仕事は……お仕事は……」

アトは何かを見ているのか水晶と男の顔を何度も見返した。


―ドン!


アトははっとしては手を引っ掻けて水晶玉を木の床に落っことした。

水晶玉は大きな音をたてた。

丈夫なのか、水晶玉にはヒビも入っていない。

「捕まえましたわ!!」

アトはそう言うと男の右手をがっしりと掴んだ。

そしてピコの方を見た。

「彼です!私達のお金を持っています!」

「え?」

ピコは他人事のように様子を見ていたせいかなんのことかわからず、呆然とした。

「換金した金品の中に金塊があったでしょう?!」

アトは男にそう言うと服のフードを取って男を睨みつけた。

「え!?え!?え!?」

男は色々なことにびっくりしてたじろいだ。

「ピコさん。彼があの時の泥棒なんですわ!」

ピコはその言葉でやっとそれを理解した。



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