女が集まれば姦しい…
しばらく更新できず、待っていた方すみませんでした。
実は私事ですが引っ越しをしまして、育児家事の合間に引っ越しの準備などして、引っ越したら引っ越したで諸事情によりネットが繋がらずログインすらできませんでした。
なんとか繋がりましたので、一話だけアップいたします。
まぁ、引っ越しのゴタゴタでストックがないのは変わらないんですけどね…
気候は安定。今のところ魔物にも遭遇していない。
勇者一行はパユヴィを出発してから、半日着実に歩みを続けている。
「この地図だと明日の夕方にはこのカッパ村に着くかしら…。」
「うーん。どうだろ…。途中に山とかはないみたいだけど、魔物が出るかもしれないしな。」
メガは歩きながら言った。
ピコも歩きながらいつ何が来てもいいような心構えはしていたが、出ないことを願うしかなかった。
一方アトは出ることを想定してか、杖を常に右手に持っている。
「わたくしとしては、一匹くらいなら出てくれた方が修行になりますからありがたいのですが…。」
アトは普段杖なんか使わないが、いざ杖を使うと力のコントロールが利かなくなるからとしばらく杖で魔法を使うことに決めたらしい。
今のアトなら力が有り余っているから、ちょっとした魔物なら一発で仕留めるだろう。
そんな中出てきたら敵でも不憫だ。
―ガサガサ…
その時右奥の方から草木の擦れる音が聞こえた。
魔物だろうか?
―カサカサ…
その音は後ろの方から前の方へ進んでいく音で、自分達を気にとめないように斜め前方へ走って行ってしまった。
「いっちゃったのかな?」
「そのようだな。」
「残念ですわ。」
アトのその言葉にピコもメガも苦笑いした。
グルーチョだけがそれに我関せずと同じ歩幅で歩いていたので、いつの間にかずっと前まで行っていた。
「あ、おじいちゃん待ってよ!!」
ピコが追いかけ始めるとそこでぴたりと止まった。
―グルルルル
グルーチョの目の前に魔物がいた。
「あああ!!」
ピコがグルーチョを後ろにのけようと腕を掴んだ。
―ヒュン!!
―ズドーン!!
ピコは何が起きたかわからなかった。
目の前にいたモンスターが飛ばされ木に激突し伸びている。
「うーん、やっぱり力の加減が難しいですわ…。」
アトだった。
「どうしたかったの?」
「こう…グルグル…と…。」
アトはそのメガの問いに杖を掴んだ右手で竜巻のようなしぐさをした。
「なるほど…。」
メガはアトを見てちょっと怖いと思った。
『この子はやっぱり天才なんだ』と…。
目にとまらぬ速さの風を出すよりコントロール優先に考えるアトはまさに真面目そのものではあるが。
「あれは食べられるかのう?」
その時、ピコが呆けて見ていた魔物を指差してグルーチョが言った。
「た…食べるの?」
最初見たときには気がつかなかったが恐ろしい魔物だった。
大きな犬のような形をしているが、顔が二つあって、舌が異様に長い。
角と牙が木陰でぎらついている。
体はどす黒い毛色だ。
しかもさらによく見ると尻尾は大きな蛇…
どうも食べる気になれないが…。
「食べられるうちに食べたほうがいいかもな。この先の暁の国の領内はもう魔王が制圧してるから下手に動けないし。」
そう言ったのはメガだった。
「問題は食べられるかですが……。」
アトは少し近づいてその魔物をまじまじと見た。
「食べられるかどうかというのは大丈夫そうですわね。特に毒性のある種の生物ではなさそうです。でも…どうやって…。」
アトは考えこんでいた。
もうどうさばくかという話になっているらしい。
その悩んでいるアトの後ろからグルーチョが魔物に近づいてきた。
おもむろに背中にある黄金の剣を引き抜くと…
―ザシュ!!
一息にそれを振り下ろした。
流石にそれにはアトもメガもびっくりしていた。
もちろんピコは目を見開いて驚いていたが。
―ゴソ…
その音と共にその魔物の二つの首が落ちた。
それと共に血が溢れ出した。
ピコの体に鳥肌が走った。
魔物とは戦ったが、そんなリアルに首が落ちるのは見たことがなかった。
グルーチョはその後も見事な剣さばきでその魔物の体をある程度までさばいてみせた。
「じいさん、すごいな…。」
メガは感心していた。
骨まで見事に断たれていた。
「こ…これなら、簡単に食べられそうですわ。ちょうどこのあたりは開けていますし、今火を起こしますから調理の準備をしてくださいませ。」
アトはちょっと上ずった声で枯れ木を集め始めた。
どうやらアトもグルーチョのその行動にびっくりしていたようだ。
それからピコはいそいそと調理道具を出し、メガがその肉をさらに細かく刻んで、調理に取り掛かった。
何故か三人とも無言だった。
「おなかが空いたのう…。」
グルーチョだけが能天気に、近くに転がっていた大きな石に腰かけお腹をならしていた。
この能天気さはその4人の中では際立って、逆に尊敬に値する。
流石何十年と生きてきた人だ。
その30分後にはもう魔物のお肉は疲れた皆のお腹を満たしていた。
ヂャメンとエリフィエルはウァーネのいなくなった牢の中でぼそぼそと話していた。
村人の数人が牢の外で二人を見守っている。
「まさかそんな方法を持ってたとはね。」
エリフィエルはヂャメンの肩の上でため息をついた。
「おそらく以前も同じ方法で脱走したのね。誰も方法がわからなかったからこの牢はそのまま改善もされてなかった。」
ヂャメンはそう言うと、その牢からそっと出た。
村人たちはヂャメンとエリフィエルをじっと見つめている。
「彼女は植物を操る力も持っていたの。」
ヂャメンのその言葉から村人への説明を始めた。
ヂャメンの話ではこうだ。
ウァーネはまず、草花のエナジーを吸ってそれを自分の栄養として生活できるが、その残った草花に再び力を与えて成長を促すことができる。
その牢では基本的に急激な魔法は使えないが、とらえられている者に光の呪縛を与えるために太陽の力を利用して常に牢の中は陽の魔力が高い状態。
その中草花の成長を促す魔力を使えば微力ながらも陽が強い日ならすぐに成長する。
その草花の成長の方向をコントロールして蔓のように伸ばして、円柱状になった天井までたどり着くことができる。
実は円柱状になった天井の一番上には空気穴が横にあるため、そこから抜け出す事が可能。
牢から天井までは上部の方がすぼんでいるような瓶の形のようなねずみ返しのある構造なため、自力では普通脱出はできないが、ロープや蔓のようなものがあれば出れてしまう構造だったのだ。
ウァーネはそれを人目を盗んでやったのだ。
魔を扱う者でも植物を頻繁に使う者は攻撃力と速度がそれほどないのであまりいないのだ。
その牢の盲点はそこだった。
「彼女がまさかそんな力を持ってたなんて知らなかったわ。」
エリフィエルはいつもとは違う神妙な顔でため息をついた。
「彼女はセイレーンだけど様々な可能性を持っているようね。水と音を操って、更に草木も操ることができる。」
「あまり彼女の能力を見たことはなかったのよ。最初に会った時から私は避けられてるような気がして、あまりよく話したこともないし。」
「それはハーンが貴方を好意に思っているのを知っていたから焼いていたのよ。それに彼女は元々内気な性格だったみたいだから…。」
ヂャメンはまるで見てきたかのように語った。
おそらく過去のその姿が見えているのだろう。
ヂャメンの力は回復の一途をたどっているようだ。
「で、やっぱり、ウァーネは魔王の下に向かったのかしら?」
「おそらく。」
エリフィエルはヂャメンの肩から飛び上がるとその表情をうかがうようにしてすぐに地上に飛び出していった。
他の皆もそれを追いかけて地上に出る。
「4人とも大丈夫かな…。」
エリフィエルは青い空へ少し昇って暁の国の方向を見やった。
ずっと向こうの方には都らしきものがかすかに見える。
あの街にはおそらく魔王軍の多くが駐留している。
街は寂れ魔物が闊歩する。
美しき国、暁の国。
それを象徴する光の丘の太陽の神殿はこれほど遠くても、魔王軍に占拠されようとも、尚輝いて見える。
「ところでさぁ、“暁の国”ってなんで暁の国なの?」
「何それ?」
再び歩きだしたピコが思いだしたように聞いた。
グルーチョは後ろの方をのんびり歩いている。
どうやらお腹がいっぱいで少しおねむのようだ。
「だって、暁って朝日とか朝のことを指してるでしょ?でも、バイト国からみると夕日の沈む方向にあるし…なんで“暁の国”なんだろうなって…。」
ピコがそう言うとメガは考え込んだ。
「あぁ……なんで?」
考えて答えが出ないとすぐにアトに再び質問をした。
「お二人ともご存じなかったんですのね。」
アトは苦笑いした。
「では解説して差し上げましょう。」
そう言ってアトは暁の国について説明を始めた。
暁の国の正式名称は暁共和国。
人口約5万人。
対して約6万人のバイト国とは双子の国と他国からは言われている。
両国とも巨大な山脈に大陸側と遮断された独立した約600平方キロメートル以内の小さな国。
両国の間には深い獣魔の森があり、そのため分断されている。
バイト国は王政をしいた王国であるのに対し、暁の国は光の丘の太陽の神殿で交わされた協定によってまとめられた大統領制の国である。
太陽の神殿は太古の先人によって建てられた大理石と金によって長きにわたり輝き続ける太陽神をあがめるための神殿。
朝が来るたびに眩しいほど光を放つので後々その神殿の立つ丘を光の丘と呼ぶようになった。
また、その光を見た者達が口ぐちに『我々の朝はあの神殿から始まる』と言うのでその街イプシロンを暁の街と呼び、協定を結ぶ際にもその名を使ったため国名が暁共和国となる。
暁の国はバイト国が魔術産業の国であるのに対し、文化・芸術の国である。
国を挙げて芸術を推奨している。
各地では多くの貴金属や貴石がとれるため工芸品作りが盛んで、イプシロンの街中には沢山の芸術的造形物があり、アクセサリーや置物、家具、高価な食器などを売る店も多い。
また、見世物などをする人もあふれており、様々な異国を渡って来た者が歌う吟遊や踊り子なども街の広場で見られる。
「へぇ…詳しいのね。」
ピコはアトの説明を食い入るように聞いていた。
歩きながらであったからか、アトは少し疲れていたが…。
「学校ではならわなかったんですの?」
「いや、私の場合、初等学校の10才までしか行ってないし…アトちゃんは初等も中等も高等も飛び級で全部卒業したんでしょ?」
「そういえば、他国の詳しい勉強は中等からでしたわね…。」
アトはちょっとばつが悪そうに呟いた。
「ちなみに俺は学校行ってないよ。」
メガは能天気に行った。
本人もそれほど気にはしていないようだ。
「まぁ、学校行ったから偉いってわけではありませんものね。」
アトは少しフォローするように言った。
当のピコはその間アトの様子を見てにこにこしていた。
アトが気にしていることは対して気にはならないのが現状だ。
ピコにはアトは周りからしてみれば特別な女の子であっても普通の7歳の女の子にしか見えないのだから。
「そういえば、飛び級ってどうやったらできるの?」
ピコはふっと思って問うた。
「わたくしの場合は生まれてすぐからもう専属の家庭教師のような方々がおりましたので、初等は卒業認定で5才から中等と高等を同時進行でこの前卒業したばかりなんですの。」
「同時進行?!」
「ええ、城下町のアルファには高尚な教育の為に全国から集められた優秀な子供だけを教育する機関があって、中等の教養学校と高等の魔術学校を併設している国営学校があるんですの。」
「それって、国家術師高等学校のこと?」
「そうです。」
「へぇ…あそこってそんな学校だったんだ。」
ピコは感心しっぱなしだった。一方メガはそれについていけないのかぽかんとした顔で前を歩いていた。
後ろの方にいるグルーチョは聞いているんだかいないんだか。
相変わらずほえほえした顔で3人の後を付いてきている。
「でも、普通は初等って10歳までだから本来は13才で卒業だよね?」
「そうですわね。でも、中にはやはり、飛び級で10才で卒業という方もいらっしゃいますわよ。」
「はぁ…。」
ピコはすごい世界だと思い、その話を聞きながら歩いていた。
アトとピコはその後もしばらくそんな話をしながら森の中の小道を着実に進んでいった。
しばらくそんな話をしながら、歩いていたら日が傾きかけてきた。
もうグルーチョも寝ながら歩くくらいだったので手頃なあたりで荷物の中から簡易のテントをセットしてそこで野宿することになった。
火を焚いて、メガとピコ・アトで交代で番をした。
ピコとアトの二人はアトがうとうとしながらもおしゃべりを永遠とするので、その間寝ているメガは時々笑い声で起こされよくは眠れなかった。
一方、グルーチョは三人の協議の結果、番は難しいということで、ずっとゆっくり寝ていた。
メガがちょくちょく起こされているのに対して、図太いというかなんというか一度も起きることはなかった。
しかもグルーチョの寝言が酷いのでメガは朝起きてからもずっと冴えない頭を振り振り歩くことになった。
そんなメガを見てアトもピコも意外と繊細だと笑っていたが。




