84歳の勇者…って戦えないでしょ?
書きためはありますが、年が明けましたらしばらくは週二くらいでアップしていこうと思います。
放心状態の若者達が帰った後、グルーチョとピコは兵隊達に連れられて他の部屋に移動した。
その部屋は広くて明るくて豪華絢爛で、まさにお城といった感じの作りだった。
幾何学模様に見える天井からシャンデリアがいくつか下がっており、壁には大きなタペストリーや絵画が掛けられていた。
白磁のタイル張りの床には長くて赤い絨毯、その奥には段があって、その上に大きくて豪華な椅子があった。
おそらくそこに座る人が王様なのだろう。
連れてきてもらった兵隊達が皆整列するとしばらくして、その椅子の近くにいたローブを着た人が前に出た。
「国王陛下エクト様のおなーりー!」
そういうと後退してもといた位置に戻った。
その声にあわせるように段の端の垂れ幕の奥から藍色のマントを着た男が出てきた。
さっきホールのステージで話していた人のようだ。
どうやら王様だったらしい。
その薄い茶色の髪の上には極上の王冠が載せられていた。
さっきの会場で見た人とはまた違うように見えた。
服も少し違うようだが、マントは同じものだった。
顔はいかにも高貴な人らしく男前であった。
先代が早く亡くなったためか年は35歳と若い。
彼はその玉座に座ると一呼吸を置いてグルーチョとピコに話しかけてきた。
「あー…その……そちらのお嬢さんは彼のお孫さんかな?」
エクトは何から話していいのかわからないかのようにとりあえず思いついたことを聞いてみた。
「あ!はい!そうでございます。」
「そんな、改まらなくてもいいよ。」
エクトは王様とは思えぬほど優しい笑顔でピコに答えた。
「さて…名前を聞いていなかったな?」
「はい!こちらの祖父がグルーチョと申しまして、ワタクシはピコと申します。イオタ村から参りました。」
「イオタ村?城下の者ではないのか。そこから魔王討伐の為に来たわけでは…ないな……そうか!今日は年金の配布日であったか…。で…なぜ、あの会場にいたのだ?」
エクトは椅子の柄に肘をついて頬杖をつくような形で考えながらしゃべった。
「あ…はい。確かに今日は年金を貰いに参ったのですが…。途中で祖父がはぐれてしまって…。捜したらあそこにいたのです。」
ピコは恥かしそうに顔を赤らめた。
「グルーチョ殿。なぜあそこにいらしたのですか?」
エクトはグルーチョにその問いをするとグルーチョは少し反応した。
「あ?なんだって?…あぁ…なんでもいいから年金をおくれよ。」
―…カラーン
その時、衛兵の一人が手に持っていた警防を落っことした。
その静寂を割ってエクトの隣にいた男が一歩前に出て、大声でいった。
「!?ご老人!口を慎みたまえ国王の前であられるぞ!!」
どうやら大声だったせいかグルーチョにも意味が理解できたらしい。
「あ?国王?こんな若造が?国王様はあの偉大なるハーポ様だけじゃ!」
グルーチョは拳を握りフルフルと震えながら言った。
その姿はまるで海がめの産卵シーンのようだった。
どうやら愛国心は非常に強いらしい。
「な…現在の国王陛下の名はエクト・サン・ぺテール様だ!!」
大臣は少し興奮して言った。
「大臣!…もうよい。ご老人の知識は数年前で止まっておられるのだろう。仕方がない。」
エクトは少し困ったような顔で大臣を止めるとグルーチョを再び見た。
大臣は止められて冷静になったのか、また後退して元の位置に戻った。
「グルーチョ殿!国王ハーポ様はあなたに勇者として魔王討伐について手伝って欲しいのです。そのお体ですから無理強いはいたしませんが…。」
エクトはグルーチョに気遣いをして前王の、父の名前を出し話を持ちかけた。
「え!?…待ってください!お爺ちゃんに魔王と戦えとおっしゃるのですか?」
答えたのはピコの方だった。
「う…しかし、現にその剣を抜いているし…。それは前勇者の霊が宿っていて今必要な人材が現れたときに反応すると言う…。どんな形かは私にはわからないが、グルーチョ殿はこの状況を打開する力があるとみなしたのです。」
エクトはピコに説得するような口調で言った。
「でも……」
「うおぉぉぉぉぉ!!!!」
ピコが反論をしようとしたその時そのピコの隣でグルーチョが雄たけびを上げた。
その瞬間ピコは10センチほど跳び上がり、他の人も皆目を丸くして驚いた。
「ワタクシその命、承りました。国王陛下ハーポ様の願いとあらば、例え火の中、水の中!!」
まるで舞台役者のように演技くさい感じで派手に動き回った。
彼のその姿は老人ながらもかなり元気に見える。
「お…お爺ちゃん…。」
ピコはいかにも不安そうな顔でグルーチョを見つめた。