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白ではなくて黒いはんぺんが食べたいこともある

 朝になってやっと村の壊滅振りが垣間見れた。

皆がどこから手をつければいいのやらわからないほど、入り口付近は無残なことになっていた。

ハーンはどこかに消えてしまったし、石化してしまった村民と目をやられたヂャメン…それだけでなく命を落としたものも多数いた。

アトやメガは前衛で戦っていたせいか後でよく見るといたるところに怪我をしていた。

ジルデなんか長い首の骨を骨折していた。

幸い固定しておけば、命に別状はなさそうだが、テンションが上がっても首を振れないので調子が上がらないとぼやいていた。

 エリフィエルは敵味方関係なく命を取り留めた者の治療を皆に促した。

もちろん敵は捕虜としてではあったが…。


「あ!!この爺さんだよ!」


皆で入り口周辺を片付けていた時、赤い髪で耳のとがった青年が瓦礫に座っていたグルーチョを見つけて言った。

どうやら昨夜、ハーンが突然いなくなった経緯をエリフィエルが青年から聞いていたらしく、事の真相を知っていそうなのがグルーチョであることがわかった。

「え?グルーチョさんが?」

エリフィエルはヒラヒラとグルーチョの前に留まった。

「グルーチョさん、ハーンはどうなったのかわかります?」

「は?…ハンペンの作り方?そんなもん魚をすり身にして…どうじゃったかな?」

「…」

グルーチョの支離滅裂な回答に一同は固まった。

「あ!ごめんなさい。今朝からどうも調子が悪いみたいで…。」

片付けをしていたピコが気がついてすっ飛んできた。

「昨晩のお爺ちゃんはまるでお爺ちゃんじゃないみたいでしたけど…。」

ピコの祖父を見る目つきは本気で心配している目だった。

見た目こそそれほどやつれたり、元気がないということはないがいつもよりボーっとしている時間が長かった。

「そういえば、そうだよな…。昨日のあれは…なんというか操られているんじゃないかってくらい爺さんじゃなかったよな。」

メガがその後ろから現れて言った。

その横にはアトもいる。

「そう…ですわね…。」

「あぁ!!どうすれば!!」

エリフィエルは乱心してあたりをブンブン飛びまわって人の頭や肩にガンガンぶつかってきた。

「そういえば、ハーンさんがいなくなった経緯を聞いてなかったですわ。皆で考えれば答えが出るかもしれませんわね。」

アトがそう助言するとやっとエリフィエルも止まった。

 赤い髪の少年は皆に促されて昨夜の経緯を詳しく話した。


ヂャメンが矢で射られ術が跳ね返ってしまったこと、グルーチョが現れ、その矢を射たものを倒したこと、ハーンが落ちてきたと思ったら突然消えて、そこには水色の鯉のような生き物がいたこと、ヂャメンや村民の一部が石化してしまったこと…。

「なるほど……そういえば、以前ハーンさんから魚の匂いがするってグルーチョさんが言ってらっしゃいましたよね?その鯉が何か関係があるのでは?」

「…」

一同は漠然とした何かを思い出そうと首を捻った。


「あーーーー!!!!!」


その時突然エリフィエルが大声を発したので皆は驚いて飛び上がった。

「そうだ、そうだ!!鯉よ鯉!!なんで気がつかなかったのかしら!!」

そう言って突然エリフィエルは飛んでいってしまった。

「ちょっ…?!答えはー?!!」

置いていかれた皆もグルーチョ以外はそのエリフィエルの光を追って走り出した。



「ハー…突然走り出して…じゃなかった飛び出してどうしたんですか?」

一行は昨夜事の起こった湖に来ていた。

「鯉なのよ!!鯉!!」

エリフィエルは興奮して飛び回り最終的に湖に飛び込んでいってしまった。

「え!!」

一同がびっくりする中一人アトだけが冷静でいた。

「なるほど、昇り龍ってのはそう言うことなんですのね。」

最終的にアトは少しニヤっと笑い目を爛々と輝かせていた。

「どういうこと?」

ピコはアトに問うた。


―ザバ!!


その時、湖に飛び込んでいたエリフィエルがやっと戻ってきた。

「これよこれ!!」

エリフィエルはそう言って水面を指差した。

「これ?」

覗いた先には大きな鯉が優雅に泳いでいた。


「これがハーンなの!!」


「ええええええええぇぇぇぇ?!」


エリフィエルとアト以外のメンバーは皆飛び上がるほどの驚愕の叫びを上げた。


 「私も始めて見たわ。ハーンのこんな姿。今は片方の角を切られたせいで蓄えていたエネルギーがほとんど無くなってしまっているけど、もう両方あるからこの湖でしばらくすれば元に戻ると思うわ。」

エリフィエルは安心しきった笑顔で辺りを飛んでいた。

 「あ!!そういえば、昨日見た鯉は角が一本だけで、もう一本らしい枝のようなものをグルーチョさんが投げ入れていました。」

赤い髪の青年は納得したように呟いた。

「でも、なんで角が再生しているんですか?」

「角にしろこの姿にしろハーンにとってはただの仮の姿だからね。ハーン自身この湖の化身みたいなもんだから、エネルギー体として湖に吸収された角を体に取り込んで再生したんだと思うわ。まぁ仮説だけど…。」

「…」

一同はエリフィエルの説明に唖然としていた。

「あの…一つ質問なのですが、その鯉は元々普通の鯉で、この湖のエネルギーを吸収して力を得て龍になってハーンさんとしての人格を得たということでよろしいんでしょうか?」

アトは突如として学問的に問を繰り出した。

「あー…たぶんそんな感じだと思うわ。詳しい話は本人がしたがらないからわからないけど…。そういえば、あの霊山アテ・レイニアの奥にあるアテ・ルアンの源流に行ったとは聞いたわね。昇り龍って言うんだから、本当に川を昇って龍になったのかも?」

エリフィエルはわかんないという顔でアトを見返していた。

「…これは本人に聞くしか…」

アトは湖の縁まで行ってその鯉をマジマジと見た。

「今はまだ話せないわよ。この姿をしているってことは相当弱っていて、本人もほとんど意識がないと思うから…。」

エリフィエルはフワリとアトの横に行って忠告した。

「…ですわよね。お師匠様、早くお元気になってくださいませ…。」

「これで、ハーンのことはとりあえず、いいわね。後はヂャメンかぁ…。」

エリフィエルはメガの頭の上に降り立った。

メガは頭を動かさないように上を見た。

「家の方に運んで安静にしているみたいだけど…。」

「目の石化は少しずつですが続いています。」

「とりあえず、ヂャメンのところに行きましょう。」



 エリフィエルとヂャメンの家の中はいろんな人が出入りするには暗すぎて、ぐちゃぐちゃになっていた。

ヂャメンの看病をしていたノイアとシンの母のミーが皆を出迎えた。

「もうすぐ意識が回復すると思うんだけど…石化のが早いかもしれない。」

ノイアがそう言うとエリフィエルはヂャメンの様子をうかがった。

顔の半分以上が石化して口の上あたりから、おでこのあたりまで広がっている。

背中の傷の方は止血され今のところ問題はなさそうだ。

「背中の傷もあるから、意識を取り戻さなければ自分で石化を抑えられないのね…。いざという時のために解毒剤があるわ。ただし、一瓶だけ。作れるのはヂャメンしかいない。他の皆にはしばらく待ってもらうけどヂャメンを治すことを優先した方がいいわね。この村の詳しい内政はほとんどヂャメンにやってもらっていたから。」



それからエリフィエルはメガを従えて地下に行き解毒剤の入った遮断小瓶を持ってきた。

メガはエリフィエルの指示でその解毒剤を縁の一部が飛び出ている陶器に入れなおしヂャメンの体を起こし、少しずつ口に流しこんだ。

なんとか呑み込んでくれたようだ。

それから再び体を寝かせて少し経つとヂャメンの体が少し血色を取り戻した。

むしろいつものヂャメンより血の巡りがいいように肌が赤みを増した。


「あ…。」


ノイアがその声を上げるころには石化がどんどんと後退していく。


「…う…う…」


小さなうめきがヂャメンの口から聞こえてきた。


「ヂャメン!!」


エリフィエルがヂャメンの額のあたりに手を当てて浮遊している。


「…エリー…?」

どうやら意識を取り戻したらしい。

「エリー…そこにいるの?目が開かない…。」

「今、石化の解毒剤を飲ませたから直によくなるわ。背中の傷もあるし、無理しないで寝ていて。」

「あれを私に使ったの?…ハーンは?…皆は?」

ヂャメンは体を起こそうとし始めた。

表情から不安の色がうかがえる。

「う…。」

背中に受けた矢で深く肉を抉っていたため自分の力だけではうまく体を持ち上げられなかった。

「無理しないで。ハーンはしばらく経てば元気になるわ。」

「そう……私の術が失敗したのね。誰が沈静を……いえ、その前に……他の皆が石化の跳ね返りを受けてるんじゃ…?」

エリフィエルはそれまでの事を簡単に説明した。


「どうしよう…皆を治すことができるかしら…。」

目を閉じたままのヂャメンはふと不安を漏らした。

エリフィエルと他のものは目を見合わせた。

「どういうこと?ヂャメンは薬を作れたわよね?」

「薬を作れるか、わからない…。」

そう言ったヂャメンはついに目を開いた。

その瞳は紫がかった黒で黒真珠のようにきらめいていた。

ヂャメンは力を込めるようにして瞳に意識を集中した。

その瞳に若干力が集まるのは周りの者から見てもわかったが、瞳の色は変化しなかった。


「やっぱり、駄目みたい…。」

ヂャメンは酷く落ち込んだ声をこぼした。

「メデューサの血の力がなくなってる…。」

「え?」

エリフィエルは不思議そうに声を漏らした。

「あの薬は私の血から作ってるの。作り方はエルフから教わって…。でも、私の血の力が変化してしまって、今同じ薬が作れるかわからない。試してみるぶんには構わないけど、もし、駄目だったら…。」

ヂャメンはエリフィエルをじっと見つめた。

周りの皆は二人の言葉を待ってその場から動かなかった。

「…そう…とにかく…やってみるしかないわね…。」

エリフィエルは冷静な表情で言った。

心中穏やかではないであろう。

何人も犠牲者を出したうえにまた石化した人を助けられないかもしれない。

それはエリフィエルやヂャメンやハーン、パユヴィ村の人々にとって大切な仲間であることに変わりはないのだ。


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