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勇者って…ベタだよね

【集え!勇気ある者よ!!

- 魔王を捕まえた者には賞金1億ルーン!】


そう書かれたポスターが廊下の真ん中の立て札に貼られていた。

その両端に矢印の書かれた紙が張られており、その立て札の向こうを示していた。

 ピコと衛兵に連れられていた途中でふらりと迷い込んだ。

グルーチョはそれを見てか見ずにかその奥に吸い込まれていった。

その足取りはゆっくりだったがしっかりしていた。


 グルーチョがしばらく歩いて着いたのは少し狭いドームのようなところだった。

その中にはたくさんの若者がいて騒がしかった。

その一番奥にはステージのような段差があり、その上に衛兵に囲まれた一人の男が立っていた。

「…今、我々は危機的状況にある!そこで勇気のある君たちにお願いしたいことがある。それは魔王討伐である!」

そのステージの上で藍色のマントを羽織った彼がすごい気迫でしゃべっている。

その声に呼応して若者達が大声を上げていた。

「その黄金の剣がお前達を祝福してくれるだろう!一人ずつそれに触れ加護を受けられよ!」

彼はそう言うとステージの下にいた兵隊達が若者達に指示をして、そのドームの中心の岩に刺さった黄金の剣の前に並ばせていった。

その若者達の数は100人は越えているであろう。


「あの剣って何百年前だかの勇者が持っていた剣なんだってさ…。だからあれを抜いたら勇者だって言うんだ。」

「だけど、抜けた奴いないんだろ?」

「そうらしいな。でも、試してみる価値はあるだろ?」


その若者達は並びながら、そんな噂話をしていた。

 そんな中グルーチョは入ってちょっとの端に置かれていた椅子にとぼとぼと歩いてきて、座るとそれを静かにぼけっと見ていた。

 若者達はその噂を知っていたのか岩から剣を抜こうと必死になったが誰もそれは叶わなかった。

「やはり、勇者はいないか…。」

そのステージの上にいた彼は全員がその剣に触れたあとにポツリと独り言を呟いた。

若者達はそれを終えるとステージの近くに寄って集った。

一方置き去りにされたようなその金色の剣は若者達の後ろの方で光り輝き衛兵に守られることもなかった。

それはそうだ。

誰にもそれは抜くことは出来ないのだから…。

 一方グルーチョはその黄金の光に誘われるように立ち上がり、ゆっくりとそれに近づいていった。

やっと金色の剣の1メートルくらいの距離まで辿りつくと、衛兵がそれに気が着いて、グルーチョに話しかけた。

「お爺さん、危ないですよ。この剣は抜けませんが、正真正銘本物の剣なんですから…。」

衛兵はニヘラと笑ってお爺さんの肩に触れた。

「お…お爺ちゃん!!」

衛兵の後ろの方で女の子の声がした。

それはピコだった。

ピコは息を切らして走りよってくると衛兵に会釈をして、グルーチョの肩に触れた。

「お爺ちゃん、心配したんだからね?」

しかし、グルーチョはピコの方も見ないままその金色の剣に歩み寄って手を伸ばした。

「あ、危ないよ?」


その瞬間のことだった。



―ピカー!


その金色の剣が眩い光を放った。

グルーチョのはげ頭が光を反射してさらにあたりは眩い光に包まれた。



「け…剣だ!剣が抜かれた!

勇者だ!

勇者が誕生した!!」


その眩い光の中で誰かがそう叫ぶと若者達が熱狂の渦に巻き込まれた。

「誰だ!どんな奴が剣を抜いたんだ!!」

彼らは興奮して剣の周りにわらわらと集り、誰もが注目した中、その眩い光が終息していった。

その光のせいで、皆の目が少しだけ眩んだ。

その前にいた人たちはそれを見て「きっと

目がまだおかしいのだ」と何度も目をこすった。

「…」

皆の目が点になって静寂がドームを包んだ。

「ほぉ、いい剣じゃのう……もらっていこう、テラ…」

グルーチョはピコを振り返って笑顔を向けた。

「お…お爺ちゃん、何言ってるの!?…あはは…ごめんなさい、ボケちゃって…」

ピコがそう言うと周りにいた皆もそれに釣られるように笑った。

ピコはグルーチョから剣を取ろうとした。

しかし…


―ガシャーン!


剣がピコの手から重そうな音をさせて落ちた。

ピコは慌ててそれを拾おうとした。

「ごめんなさい!ごめんなさい!…あ…あれ?…重!?」

ピコがその柄を持って持ち上げようとしても重いのかびくともしなかった。

それを見かねたその近くにいた青年がピコに変わってそれを持ち上げようとした

しかし、びくともしなかった。

グルーチョはゆっくりとその剣に近づいた。

ピコの後ろからゆっくりとそれに手を伸ばした

そしてそれを軽々と持ち上げた。

それだけでなくその剣の優美さを手の中で実感しているようだった。

「こんな見事な剣だ、売ったらいい値になるだろうなぁ、テラ。」

「ひぃぃ…お爺ちゃん!?…そ…そこに戻して!早く!…ごめんなさい!ごめんなさい!!」

ピコはパニくった。


「この爺さんなんだ…勇者は…。」


近くにいた衛兵が納得したようにぼそっと呟いた。




「えええええぇぇぇぇぇ~~~~~!?!?!?!?!?」



その場にいたほとんどの人間が驚愕の声を上げた。


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