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レベル上げって地味だよね

「急がないと、皆寝ちゃうわ。グルーチョさん以外は来て。皆それぞれの先生の家で泊りがけで修行してもらうつもりでいたから、早くしないと夕飯が終っちゃう。初めはピコさんの先生になるシンちゃんの家ね。化け猫の癖にあの家の人夜に寝るんだもの。」

エリフィエルは啓示の間しゃべってなかった分を取り戻すかのごとくマシンガンのように言葉を連ねた。

それに答えるようにピコは足を速めた。

「あの、おじいちゃんはどこに?」

ピコの質問は最もだった。

「グルーチョさんには私とヂャメンの家つまり、ここに泊まってもらうわ。一番上の階の数部屋は唯一日の光が入るの。私の部屋はそのさらに上のあの小さな飛び出た部分なんだけど。」

そう言ってエリフィエルは屋根の上にある、煙突のような出っ張りを指差した。

良く見るとその出っ張りは小さいながらも家のような形をしていて、窓も扉のような物もついていた。

「エリフィエルさんとヂャメンさんって一緒に住んでいるんですね。どうりで入る時ノックもせずに侵入していたわけだ。」

ピコはそう言うとクスっと笑った。

「あぁ、言うの忘れていたわね。」

エリフィエルは言われてやっと気が付いた様だ。

「でも、おじいちゃんが別のところって大丈夫かしら…。おじいちゃん体は丈夫だけど…。」

「あぁ、大丈夫!シンちゃんの家そこだから。」

ピコに言われ、エリフィエルが答えて指差した先はヂャメンとエリフィエルの家のすぐ斜め前だった。

街の構造としてはヂャメンとエリフィエルの家が非常にでかく聳え立っているのに対し、その前をずっと街の入り口まで一直線の大きな道が走っており、その屋敷の前を横にまた道が通っている。

町の家並みはぐちゃぐちゃしているのに対し、そのT字路と屋敷の構造だけはしっかりと守られているようだ。

現にそのシンという人物の家は道に並行ではなく、斜め左側に玄関がある。

さらにその向こう側の家は道に平行だが、道とは反対側に玄関。

まるで、積木を転がしたような家並みだった。

「さ、行きましょう。」

エリフィエルがそう言うと、グルーチョを置いてピコとアトとメガが動き出した。

それを理解しているのかいないのかグルーチョは静かに笑顔で手を振っている。

「おじいちゃん、わかってるのかな?」

ピコはそっと振り返って苦笑いした。


 そう思っている間に4人はシンという人物の家の目の前に来て、エリフィエルが体当たりしてノックをしていた。

結構痛そうだ。

―トントン…

体当たりしたわりには軽い音しかしない。

「はーい!!」

その声は女性のような声だった。シンという人物ではないのだろう。

―ガチャ…

「あら、村長!やっぱり家になったのね?」

出てきて早々間髪入れずに話しかけてきたのは猫…もとい化け猫のおばさん?と言った感じだった。

物腰は柔らかく温厚そうだ。

その立ち上がった猫に少しびっくりしていたピコは家の中の一つの椅子に誰かが腰掛けているのを見た。

「ええ、ゴメンナサイ。遅くなってしまったわね。」

「いいえ、ちょうど、夕飯が出来たとこよ。タイミングいいんだから。さ!中へ…って家に泊まるのはどの子かしら?」

化け猫おばさんはそのぽってりした顔を傾けるとにこっと笑った(様に見える)。

「あ!!私です!!よろしくお願いします。」

ピコは一歩前に出ると若干大声気味で挨拶をした。

「あらぁ!可愛らしいお嬢さんだこと。いえいえ、こちらこそ。シンが役に立てればいいのだけど…。ほら、シン。いらっしゃい。」

そう言って化け猫おばさんは中の椅子に腰掛けていた人物に手招きをした。

―トトトトト…

軽い足音が近づいてきてわかったが、化け猫おばさんにそっくりだけど、さらに可愛らしい化け猫の子供であった。

しかし、彼の手にはネズミの死骸のようなものが握られてはいたが…。

「はじめまして、お姉さん。お姉さんを立派な魔弾・火薬・爆弾のスペシャリストにしてあげるよ!!」

そう言うとシンは顔を歪めて笑った。

言っている事と持っているものは物騒だがどうやらかなり歓迎されているようだ。

しかし、夕飯はネズミがメイン料理かもしれないとピコは不安の色を見せた。


 ピコがシンの家に迎えられてからすぐに一行はT字路を右に進みずっと外れまで行った。

相変らず雑然と並んだ家が建っていたが、その中で、唯一規律を守るように、道に平行していて対面した玄関を持つ家が現れた。

どうやらその家がメガの修行先、ノイアという女性の家のようだ。

一見普通のように見える家だが、結構大きさがあり、窓がやたらと多い。

灯りが煌々と照って、中の音が漏れてきている。

「こら!!静かにしなさい!!もうすぐご飯なんだから片づけしなさい!」

「はーい!!」

そんな一家団欒の声が中から漏れている。

若干お母さんらしき声が色っぽいような気がした。

そんな中に入るのかとメガは申し訳ない気持ちに襲われた。

メガには一家団欒を経験した記憶がほぼない。

幼少期のことなどすでに記憶の彼方で不安を感じていた。

そうこうしているうちにまたエリフィエルがドアにタックルしようとしていた。

「あ、俺がノックするよ。」

「そう?」

その痛そうなのを見かねてメガはドアをノックした。

―ドン!ドン!

今度は結構大きな音でエリフィエルがするよりは中のうるさい状況でもちゃんと聞こえるだろう。

「は~い」

そう聞こえたのはやはりさっきの色っぽいお母さんらしき人物の声だった。

―ガチャ…

そうして開いたドアの前にはその色っぽさとは異常なほどマッチしている艶かしい体付きを微妙に露出度の高い服で隠している女性だった。

若さと大人っぽさがちょうどいい感じで、まるで理想の女性のような人だった。

容姿端麗というやつだ。

「あらぁ…村長。例の子達ね?…その男の子…かわいいじゃない。もしかしてその子?」

その女性はそう言うと誘うようにメガを見てきた。

メガはそういう女性にあったことがなかったのか顔を真っ赤にしていた。

「えぇ。遅くなってごめん。ノイアに頼みたいのは確かにこの子だけど…手は出しちゃ駄目よ!」

エリフィエルはそう言うともじもじしていたメガを前に出した。

というか背中を押そうとして、それに気が付いたメガが一歩前に進んだ。

「あ、あの、よろしくお願いします。」

メガはよそよそしく接した。

「手は出さないけど、その分子供達と扱いは変わらないから覚悟してねぇ。」

そういうとノイアは背伸びをしていきなり顔を両手で挟んでほっぺにキスをした。

「これ家のオキテ!挨拶代わりだから。」

そういうとノイアは右目でウィンクした。

その様子にもうメガは顔を真っ赤にしてゆでだこのようになっていた。

「ちょ!!くれぐれも…」

「わかってるって!じゃ!!」

―パタン…

エリフィエルがノイアに注意を促そうとした途端ノイアは早々に返事をしてドアを閉めた。

『こら!!まだいただきますしてないでしょ。メガ、自己紹介しとくね。この子が……』

ドアの奥からはノイアの声と子供達の声が聞こえてくる。

「まぁ…子供達もいるし…大丈夫かな。ノイアは11人も子供生んでいるのよ。あの体で…信じられないわ。」

エリフィエルはそう言うとアトを連れてその場を離れた。

二人は屋敷の方向へ戻るように進んだ。

「私なんか男性と付き合ったことなんかないのに、やっぱりノイアがサキュバスだからかしら…それともあの美貌?」

エリフィエルはブツブツと独り言を呟いていた。

アトはエリフィエルを見ながら、フェアリーはおしゃべりが多いと何かの文献に書いてあったことを思い出した。

アトはほぼ屋敷と学校と街以外のことは文献を読むほどしか知らない。

実際に目で見て確かめると意外なことが多くて心を躍らせていた。

そう、アトはいくら頭が切れても知識があっても魔術がすごくてもまだ7歳の子供なのである。


 二人は屋敷の前を通り過ぎ、T字路の向こう側、左側にずっと進んでいった。

村の家々を通り過ぎてはずれのあたりまできてもまだまだ進んで行く。

草の生い茂る中に獣道が続いていて、その道を遠目から見るように森が広がっている。

わざわざ木々が道を譲っているように開けていた。

空にはもう月が浮かび青白く光っていた。

ほんの少しだったような長かったようなその光景を抜けるとその先に待って居たのは波一つない湖だった。

向こう岸までは数百メートルほどの少し楕円系のように歪みのある丸い湖だ。

その畔には小屋程度の家があるが静まり返っている。

―パシャン!

アトがその家の方を見ていたときふとそれとは反対側の畔から水の音がした。

「…エリー…いらっしゃい。」

その澄んだ鈴のような声がしてアトがそちらを見ると一人の青年が立っていた。

すらりと伸びた手足に腰まであるウェーブがかった白髪と月を写した湖のように澄んだ水色の瞳。

上下黒のぴっちりしたタートルネックのノースリーブにゆったりめのパンツをはいていた。

肌は恐ろしく白いのが印象的で服の黒がやけに映える。

しかも顔立ちはメガやレセと張るほどきれいだ。

どちらかと言うと薄幸の少年といった感じであどけなさが残っているような雰囲気だ。

「ハーン、寝てたの?」

エリフィエルは彼に近づきながらそう言った。

それに続いてアトも彼に近づいた。

「…いや…月を…」

彼はそう呟きながら月を指差した。

どうやら彼が、アトの師匠となる相手なのはわかったが、言葉数が少ない。

「月を見ていたのね。まぁ、それはともかく彼女が言っていた人よ。アトちゃんっていうの。」

エリフィエルはアトを紹介すると彼はやっとアトを見た。

それまでずっとエリフィエルから視線をそらさなかったのが不思議なくらいだ。

「…ハーンだ。よろしく。」

静かに微笑んで手を差し伸べるハーンに向かってアトは子供らしくにっこり笑って手を差し出し握手をした。

「アト・ツェーと申しますわ。こちらこそよろしくお願いいたします。」

軽く会釈をするアトを見てハーンは少し目をまるくしていた。

「本当に…まだ…7歳の子供なんだね。でも…すごい情報量だ。」

ハーンはエリーの方を向きながら静かにその言葉を連ねた。

ところどころ微妙な間があって、アトは少し不思議な人だなと思った。

驚いているらしいが、あまり驚いているようなしゃべり方はしていなく淡々と言葉を並べていく。

「ヂャメンを疑っていたの?確かに私達みたいに見た目で年齢がわからない者も少なくはないけど、彼女は正真正銘人間で、現東方の賢人の子よ。」

エリフィエルは苦笑いをしていた。

「東方の賢人が…人間に限られているのは…知っている。でも…あのじいさんの子供…なの?」

ハーンはあまり表情のない顔で疑問を投げかけた。

「馬鹿ね。じいさんって貴方が最後に会った東方の賢人は先代で、もう亡くなっているわ。今は彼女の母親が東方の賢人よ。」

「あぁ…そうか。」

ハーンは納得したのかボーっとした表情でエリフィエルから視線をアトに移した。

「こりゃだめだ…。ハーン、彼女の分の夕飯とか用意とか、小屋の掃除とかしてないわね。」

エリフィエルはハーンの様子を見て予想していたように言った。

「え?…そんなんだったっけ?…」

ハーンは少しうろたえた様にやっと少しだけ表情を変えていた。

「もう…。とりあえず、アトちゃんはグルーチョさんと同じく家に泊まるといいわ。ヂャメンはああ見えて料理はうまいし、せっかく来たけど修業は明日からになるだろうから。初顔会わせってことで今日はもういきましょう。」

エリフィエルはそういうとひらりと身を翻した。

「あ…もう…行くの?…エリー…」

ハーンは少し名残惜しそうに呟いた。

「えぇ、明日また来るから。ちゃんとアトちゃんの先生やりなさいよ!!」

エリフィエルはハーンにいたずらな笑顔を見せた。

アトはそのやり取りを見ていてハーンの表情が変化するのを見た。

エリフィエルはそれを見ないでヒラヒラと来た道を戻っていったが。

ハーンはそのエリフィエルの顔を見た後優しそうな顔で笑っていた。

まるで子供のような天使の笑顔と言う感じでアトは不思議そうに見ていた。

ハッとしてアトもエリフィエルの後を追って帰ったが、そのハーンの顔がやけに印象的で不思議だった。

ヂャメンの言っていたように本当に竜族なのだろうかとふと思った。

「あの、エリフィエルさん。そういえばハーンさんって、何歳なんですの?ヂャメン様がエリフィエルさんの次に長生きだって言っていましたけれど…。」

エリフィエルはフワフワと舞うように飛びながらその問いに気が付いてアトの視線の前を飛んだ。

「たしか今年で852歳よ。」

エリフィエルは簡潔に答えた。

「え…すごい長生き。」

アトは地味に驚きながら歩いていた。

「ハーンは私に比べると半分しか生きてないけど、それだけ生きているからかしらね。時間の感覚がおかしいのよ。イライラするかもしれないけど、気長に付き合ってやって。」

エリフィエルはハーンをフォローするように言った。

「…えぇ…。確か竜族なのですよね?」

アトは沸々と興味が湧いてきた。

「うん。まぁね。いつもはあんなんだけど、気を付けてね。戦闘能力だけじゃなく魔力もパワーも桁違いで怒らしたりすると手が付けられなくなるから…。特に逆鱗には触れないように…。」

エリフィエルは何かを思い出すように言った。

どうやら過去に何かあったようだ。

二人はそうしている間に屋敷についた。

中ではハーンが用意をしていなかったことを予知していたのかヂャメンがアトの分の料理も用意していてくれたようだ。

テーブルにはもうグルーチョが席についていて後少しで出来上がるところだった。

しかし、料理自体には問題はなかったが、ヂャメンが暗闇に蝋燭を幾つか立てて料理をしている様はまるで魔女が毒か秘薬を作っているようであり、微妙に食欲を削がれたのは言うまでもない。


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