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村長は年をとらない化け物……いえ、すばらしいフェアリーの女性です。←ジルデ談

 「移動する間に自己紹介と説明をさせていただきます。えー、私の名前はエリフィエル・マジョラム、パユヴィ村の村長です。皆さん私が若いとお思いでしょうが、現在私は1672歳です。パユヴィ村のことは追々話すといたします。まず、皆様にはとり急いでこの村の占い師“魔女ヂャメン”のところに行って頂きます。そこでは今の能力と魔王を倒すのに何が足りないか、この先何に注意すべきかを啓示していただきます。その後、宿となるところへお連れいたします。何かご質問等はございますか?」

村長の妖精の名前はエリフィエルと言うらしい。

その甲高い声で早口のようにべらべらと出てきた言葉でピコは少し狼狽していた。

その内容の半分以上理解できていなかった。

アトはどうやら、国王からどのような経緯を辿るか直接聞いているのか冷静な態度だった。

「あの…倒すのに何が足りないか啓示を貰うってことは修行するってこと?」

メガはそれをエリフィエルとアトに向かって聞いた。

「えぇ…国王陛下からこの村でしばらく修行をさせてほしいとのことでしたので…。何か問題でも?」

エリフィエルは少し不安そうに聞き返した。

「あ、修行をするということを誰にも言っていませんでしたわ…。ごめんなさい。」

アトはそういうと舌を出して子供っぽく笑った。

ピコはその表情から本当に忘れていたとは思えないわざとらしさを感じた。

「この町の魔女ヂャメン様はすごい占い師ですのよ。私はそのような力は少ないのでお会いしてみたかったのですわ。」

アトはさっきとは違い目を輝かせていた。

どうやらそうとうな魔女らしい。

「さぁ、ここです。そこで待っていてください。」

エリフィエルはそういうとお屋敷の門の外に4人を残すと一人中へ入り、屋敷の窓から侵入していった。

 その魔女ヂャメンの屋敷は周りを10メートルほどの高さのレンガの塀で囲まれていたが、そこからすぐのところに玄関があり、アンバランスな造りだった。

まるで日の光をさえぎるようで、窓には一切光が当たらないような感じだった。

―ガシャン!!グシャ!!ドガ!!

外で待っていた3人の耳に突然家の中から衝撃音のようなものが聞こえてきた。

―バン!!

その音と共に閉じられていた扉が開き中からモウモウと煙のように埃が舞い上がった。

「けほ!!けほ!!何?」

ピコは前の方にいたせいか埃に咽た。

「ご…ごめんなさ…い!!?」

―ドタドタ!!

誰かが煙の向こうに居て話しかけてきたようだったがまた奥にひっこんでいってしまったようだ。

「エリー、まだ日が出てるじゃない!……ごめんなさい。中に入ってきてもらえますか?!」

その誰かは奥の方から4人にそう言った。

4人はそれを聞いてお互いに顔を見合わせながら門を開き中へ進んでいった。

「もう…ヂャメンは日に当たって大丈夫なんだから…。」

エリフィエルの声が聞こえる方へ行くとやっと魔女ヂャメンらしき姿を見つけた。

中は薄暗くて、エリフィエルの体が仄かに輝いているのが見える。

その横に黒い影があって、どうやらそれが魔女ヂャメンのようだ。

エリフィエルの体の輝きでその姿が少し見えた。

どうやら、いかにも魔女といった黒いフード付きのマントをかぶっているようだ。

その顔ははっきりとは確認できないが、口元は見えており、その感じでは若い女性のような感じだった。

「そんなこと言ったって、血が嫌うのよ…。…あ…ごめんなさい。どうぞこちらへ…。」

ヂャメンは4人が近くに来たのに気が付いて、その奥へ導いていった。

中はそれほど広くはなかったが、進むと一番奥には地下へ続く階段があった。

「暗くてすみません。私は魔物と人間の雑種なんです。その先祖の中には吸血鬼なんかもいて…人間やほかの魔物の血も強いから太陽の光を浴びても大丈夫なんですけど、なんだかそわそわしちゃうんです。ごめんなさい。」

ヂャメンはそう言いながら4人を導き下っていった。

「いえ、大丈夫ですわ。ヂャメン様に会えて光栄ですわ。私、アト・ツェーと申します。以後お見知りおきを…。」

「え!?…あ…こんなんですみません。こちらこそ、東方の賢人になられる方にお会いできるなんて…。」

ヂャメンは突然止まってアトにぺこぺこと頭を下げた。

かなり腰が低いようだ。

「まだなれるとはかぎりませんわ…。兄弟達や母上のお弟子さん達がいますもの。」

アトもそれにつられて止まったが前へ誘うように手を差し出すとすぐにヂャメンは歩みを進めた。

「いいえ、貴方がなりますよ。」

ヂャメンは足を進めながら自信ありげに言った。

彼女にはアトの未来が見えているのかもしれない。

その言葉にアトもびっくりしていた。

 一同はやっとその階段を下りきり、広い空間に出たようだ。

入り口付近から部屋が一望できるほどの距離ではあるが結構な広さだ。

10メートル四方ほどの部屋で、壁や床は火山岩のような固い石で覆われている。

ひんやりとした空気が何処からか流れ込んでくる。

中は柔らかな炎とは近いが明らかに違った輝きで満たされていた。

まるで宇宙を思わせるような青い輝きが天井を覆っている。

ほの暗い灯りに照らされて、やっとヂャメンの顔が半分見えるようになった。

「キレイでしょう?特殊な石で天井を覆っているのよ。私の魔力を溜め込んで自ら光るの。」

そう言ったヂャメンの下半分の顔立ちは美しいものの、どうやらしばらく自分の見た目を気にしたことがなさそうな感じだ。

ピコは彼女の様子を見て、磨けば光るかもと一人思っていた。

「さぁ、こちらへどうぞ。あなた達をもっと見させてください。」

ヂャメンは一同を部屋の一画に導きそこにあった机の前に椅子を4つ並べた。

その机の奥側の椅子に彼女が座り、机の右端にエリフィエルがちょこんと腰掛けた。

ヂャメンは座るようにジェスチャーをすると全員がその場に座った。

「なんかちょっとドキドキしますね。」


ピコは緊張した面持ちで皆を見回したり、部屋の中の物を見たりとまるで都会に出てきた田舎娘のような状態だった。

 旅に出る前のピコの生活と言ったら、魔術や魔物や魔王と言った存在を心得ていた物のそれは現実味を帯びていなかった。

そんな彼女にとって、ヂャメンほど謎な雰囲気を持った魔術師を見るのは初めてなのである。

アトは七歳にして立派な魔術師かもしれないが、そういう隠匿な雰囲気はほぼない。

いや、むしろ魔に生きている者であっても明るく清らかに生活している者が大多数をしめるのかもしれなかった。

魔王に対峙する国王陛下は案外フレンドリーな人だったし、エルフとの混血のメガも優しく頑張りすぎて空回りする人だし、何よりパユヴィ村で話した第一村人は異常なほど陽気な奴だった。

しかし、少数の局所的な目立ちのせいで陰湿な雰囲気を醸し出している。

それが一般人との差であるかのように…。

魔獣が恐ろしいものに思えるかもしれないが、魔を操らない獣ももちろん人間を襲うことはあるわけだ。

それは魔を持っているかいないか、それを道具として扱うかというだけのことだ。

実は結局魔術師も魔物も魔法そのものも恐れる心のフィルターがそれを歪めているのではないか。

もしかしたら魔王そのものも…。

 ピコはこの旅の始まりによってすでに魔の世界の扉の内側に導かれていたのかもしれない。


「ピコ、しっかりと聞きなさい。ヂャメン様は目覚めを下さる。」

「へ!?」

その声は隣に座っていたグルーチョの声だった。

いつもとは違ってグルーチョは真剣な顔をしている。

どうやらヂャメンがピコに向かって、ピコから啓示をするというようなことを言っていたようだ。

ピコはフワフワした状態でいたので聞いていなかったらしい。

「仕方ないですよね。貴方のように平凡に暮らしていた人が突然魔王退治のメンバーとして旅に出て、こんな陰険なお婆さんに啓示をされるなんて…。」

「そんな!?陰険なお婆さんだなんて、…むしろヂャメン様ってお姉様って感じです。」

ピコは本気だった。

少なくともヂャメンの妖艶な雰囲気とそれと反対とも思える優しい雰囲気に当てられて舞い上がっていた。

「すみません!!そんなお世辞まで言わせてしまって!!」

「いえ、お世辞じゃ…」

ヂャメンはピコがそういうか言わないかのうちに次の言葉を始めた。

「そ、そんなことよりピコさんの内に眠る力を見て見ますので!!」

別にヂャメンの気に障ったわけではなく、それが照れ隠しのようだ。

ちらりと見えた頬は青白い淡い光でもわかるほど赤く燃え顔の火照りに手を当てキョロキョロと何かを探していた。

それを見たピコは可愛らしい人だと思った。

「こ…これが私の商売道具、水鏡です。母から受け継いだ大事な水鏡で聖水を注ぎ覗くことで私の能力を強めてくれるのです。」

そう言って、ヂャメンは少し大げさに椅子の横の台にあった水鏡を皆に見せた。

そして机の上に乗せ、立ち上がり、壁一面の棚に並んでいる一つの水瓶を重そうによろよろと持ってくる。

その頃には彼女の頬は元の色に戻っていた。

ヂャメンは水瓶を空け水鏡に溢れんばかりの水を豪快に流し込んだ。

むしろ溢れて机の上は大きな水溜りが出来ていた。

それを見ていたエリフィエルが見かねて、どこからかタオルを持ってくると机の上をキレイにした。

その間、重そうな水瓶を棚に戻したヂャメンは着席して、エリフィエルもタオルをどこかに置いてくるとさっきと同じ場所に今度は立ったままでヂャメンを見つめた。

ヂャメンは大きく息を吸い吐いて気を集中していた。

「はじめます。」

その言葉と共にヂャメンの表情は一変し、目が見開かれピコでもわかるほどのオーラが体を取り巻いた。

ピコは言葉をなくし固まった。

ヂャメンは始めピコの目を見つめ水鏡の縁に触れていた。

その吸い込まれそうな紫がかった黒い瞳を見つめていた。

そしてある一瞬本当に吸い込まれそうな感覚になった。

その時体が揺らぎ眩暈を覚えたがすぐにその感覚はなくなった。

ピコは再びヂャメンを見ると今度はジッと水鏡を覗き込んでいた。

穴が開きそうなほど水鏡を見つめている。

ピコには水鏡に何かが映っているようには見えない。

しかしアトはその時身を乗り出して水鏡を覗くヂャメンを食い入るように見ていた。

そのアトの顔はキラキラと輝いて、まるで子供が珍しい昆虫を捕まえようとしている時のようだ。

アトにはそのヂャメンが見ている何かが見えているのだろうか。

その間がどのくらいたったかわからない。

ほんの一瞬だったように思えるが数分経っていたのかもしれない。

ほの暗い密室に篭りほぼ身動きもしないでただヂャメンの一声を待っていた。



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