双子には不思議な絆があるものらしいよ
「そんなことが…。」
メガはまるで他人事のように驚いていた。
どうやらあまりに幼い頃のことだからか病の後遺症なのか覚えていないようだ。
アレムは少し話し疲れたのかひとつため息をして、グラスの水を飲み干した。
「ってことは俺の記憶にあるもう一人の俺って、双子の兄弟ってことだよね?」
メガは少し嬉しそうな顔をした。
どうやらずっと一人で生きてきたメガにとって双子の兄弟がいるというのは思っても見なかったのだろう。
「あぁ、シアが兄、メガが弟だ。二人とも似てはいたが少し性格は違っていたかな。シアは利口で冷静なのに対してメガはやんちゃだけど優しい子だった。」
アレムはその幼い頃を見るようにして笑顔をメガに向けた。
その顔はまさに孫を見るお爺さんの顔だった。
容姿は若いがその貫禄と瞳が語っていた。
そのころは幸せだったと。
「あの…一つよろしいですか?」
その雰囲気を割いてアトが言葉を発した。
「はい…。」
アレムは静かな表情で返事をした。
「えっと…さっき、フェムトさんの旦那様のお名前、ヨタ様っておっしゃいました?」
アトは首を斜めに傾げながら慎重に言った。
「えぇ、ヨタと言っていました。」
アレムははっきりとその問いに答えた。
「それはもしやヨタ・ぺテール様のことでは?」
アトは何故か冷や汗を流しながらボソボソと言った。
何かそのヨタと言う人物に心当たりがあるようだ。
「さぁ…最初会った時に、ファミリーネームがあるようなことは聞いていませんが…。」
アレムには何も引っかかるところはなかったようだ。
アトはその後しばらく黙り込んでしまった。
変な沈黙が四人を包んだ。
「ヨタ・ぺテール様はハーポ国王陛下の弟君じゃな!とても快活で優しいお子じゃった!」
その時突然ぼけっとしていたはずのグルーチョが大声を上げてそう言った。
「あ…」
アトはその言葉で固まってしまった。
図星だったようだ。
「え…」
メガとピコとアレムは同時にその言葉を吐き目が点になった。
「ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーー!!!!!」
その三人の声は家の中どころかアルフヘイムに響き渡り、外にいた動物達が驚いて暴れた。
「どうしたんだ!」
その声にびっくりしたレセが二階から降りてきて叫んだ。
その大声を発したアレムは自分の口を塞ぎピコはグルーチョをメガはアトを見ていた。
そのグルーチョはぼーっと嬉しそうに虚空を見つめており、アトは片手を頭に当て考え込むように下を向いていた。
その状況に事態が飲み込めないレセは足を進めるとアレムのところに行った。
「どうしたんだ。」
レセがそういうとアレムは立ち上がりレセの肩を掴んだ。
「うわ…なんだよ。」
レセはアレムの真剣な眼差しにびっくりして身動きも出来ない。
「ヨ…ヨヨ…ヨ……(ゴクン)…ヨタが王族だって知ってたか?」
アレムは動揺してつばを飲み込んでやっとその言葉を発した。
「は!?ヨタが王族?…嘘だろ?下級貴族だとかって言ってたじゃん!?ファミリーネーム教えてくれなかったけど、高貴な服着てたけど、オーラ見ただけで俺達なら性格わかったし……だいたいなんで今更そんな話するんだよ…。」
レセまでアレムの混乱が移った様にソワソワしだした。
アレムはそう問われてレセから手を離して後ろを向いた。
レセは目線をアレムからはずし四人を見た。
ちょうどその時アトが上を向いてレセと目が合った。
「あ…さっきアレムさんがフェムトさんやメガさんについて話してくださったのです。その時フェムトさんの旦那様のお名前を聞いて思い出したんですのよ。ヨタ・ぺテール様という方が前国王陛下の弟君にいらっしゃったことを。ヨタ様は一度アルフヘイムへ向かいそのまま消息を絶ったと思ったら、数ヶ月してお戻りになられて、そしてまたアルフヘイムへ向かい行方がわからなくなったんですの。」
アトはもう頭は抱えていないが、未だに信じきれないらしく首を傾げながら説明した。
「おそらく、城へ戻したお供は途中で魔獣に襲われでもしたのでしょうね…。それにしてもメガさんが現エクト国王陛下の従兄弟に当たるという事ですわよね。信じられませんわ…。むしろ信じたくありませんわ。」
アトは口に出して考えることで現実を受け入れようとしていた。
しかし、自らがメガに対してしてきた行為を考えると受け入れがたいことだった。
縛ったり、蹴ったり、罵ったり…。
アトは段々青ざめてきた。
「わ…私、酷いことしてしまいましたわ…。」
アトは涙目で呟いた。
「私も、縛ったりしちゃったし。」
今度はピコまでもがそれに呼応して涙目になった。
メガはその様子を見てあたふたとした。
「な…何言ってんだよ!俺は今まで王族だなんて思ったこともないし、証拠もないし、俺はピコちゃんやアトちゃんに不満なんてないんだよ!!むしろ蹴られて嬉しいってことに気が付いたりなんかして…って…あ…」
メガはついにマゾを告白した。
「いや、だから、今までどおり接してよ。」
メガは隣のアトの肩をポンと優しく叩きピコに微笑んだ。
「待って…待ってくれ…あんたの話だと、ヨタは王宮にもメガのとこにも戻ってないのか?」
一件落着と思いきやレセがアトに質問を投げかけた。
「え…そういえば、そうですわね。ヨタ様は実際行方がわからないということに…。メガさんのお兄様も…。」
アトはブツブツ言いながら考え込んだ。
メガは酷く苦い顔をして唇を噛んでいた。
メガには母や父の記憶などあまりなかった。
そんな中母に会えた嬉しさと共に父と会いたいとか父は無事なのだろうかということが思い浮かぶ。
「この旅が終ったら…。」
メガはぼそっと呟いた。
十何年も家族のことをはっきりとは思い出せなかった。
おぼろげに思い出される母と父の記憶だけが頼りだったがまさかこんなところでわかるなんて…。
しかも、双子のそっくりな兄弟まで居るなんて、予想外だった。
その場にいた皆がなにやら考え込むように黙り込んだ。
その時だった。
―ドンドンドンドン!!
どこからかわからないが戸をノックするような音が聞こえた。
アレムはその音でハッとしてすぐに席を立ち診療所の戸の方へ向かった。
他の皆はその方向を気にしていた。
「まだいるのはわかってるんだ!早く追い出してくれ!!」
「あ…あぁ…しかし…。」
「アレムがそんなだからあの時も…。」
「あれはヨタ達のせいじゃない。何度も言っているだろう。」
どうやら昨日の男が来たようだ。
「そんなこと言ったって、リリーンは死んだじゃないか。」
その言葉が聞こえてきてグルーチョは立ち上がって廊下へ出た。
「あの男の言ったことを信じているのか?あんな得体の知れない…。」
「そうはいったってエルフの匂いがした。人間よりも信頼できる。」
グルーチョはアレムとエルフの男が話している診療所の入り口の横を通り過ぎると階段を上って二階へ上がっていった。
ピコやアトもグルーチョを追いかけた。
そのさらに後を追って同じようにメガも駆け足で二階へ上がっていく。
「大体、双子を追い出せばこの村は助かるとか言っていたが、そのあとだってしばらくあの病は治まらなかった。」
「そんなの!…時間がかかったんだろう…。」
「あの黒服の男、西の賢者とかと言っていたがそもそもそんなの聞いたことがないじゃないか。」
アレムがそう言うのを待たずしてグルーチョは階段を下りてきた。
相変らずグルーチョは年をとっている割に足が突然速くなる。
「そんなところにしたらどうじゃろうか…。」
そう言ったグルーチョは診療所に入ってきた。
その背中にはリュックを背負って。
「私達はもういきますから。」
ピコはグルーチョの肩に手を置いて二人を見ると微笑んだ。
「それにしてもその西の賢者って人怪しいですわね。私も聞いたことございませんわ…。」
アトは二人を見上げると強気に言った。
「西って、魔王ギガのいる所だ…。ギガを倒してついでに確かめてくるよ。ジィジ」
メガがアトの隣に立ちアイコンタクトを取りながら言った。
メガのその言葉に男は眉をしかめた。
「ジィジ?…ギガを倒すって…。」
男がそう言うか言わないかほどのところでグルーチョは歩き出し、診療所を出て、家の玄関の方へ歩き出した。
三人も同じようにグルーチョの後についていき外へ出た。
四人は家を出ると意気揚々と歩き出した。
「メガ!!」
その四人の後ろからアレムが大声で呼び止めた。
その声でメガはゆっくりと振り返った。
「メガ、…頑張れ…。皆さん、私の孫をよろしくお願いします。」
アレムはその言葉をメガと3人に掛けると手を振ってずっと見送っていた。
その姿に背を押され四人はアルフヘイムを出た。




